とびっきりの糞野郎がファンタジー入り-7
「よくわかったろ? あんたらが証拠を出せないくらい。俺たちもそんな証拠が出せないんだわ。理解してくれた?」
「…………っ! なら、どうしてここにいたの?」
「異世界から急に飛ばされてここに来たからだけど。逆にどうしてこの世界に連れてきたのか俺も聞きたいくらい」
「……え?」
「いや、普通に生活してたら突然ね? この世界の草原のど真ん中にね? 飛ばされたんですわ。つまり俺たちは異世界人。わかる? わかるよね?」
「お、ちょいセイジ!」
その瞬間、ヒロシは何やら焦った表情で俺の首をガッと掴む。冗談じゃないくらい苦しい。
ヒロシが言いたいことはわかる。異世界人に異世界から来ましたなんて話したところで頭が可笑しいと思われるだけか、運よく信じてもらえても珍しい存在だと思われて、何か変なところに売り飛ばされちゃうって考えているのだろう。
だからこそ俺は思う。別にいいじゃんって。
むしろ異世界召喚ものの作品でいつも思う、異世界から来たって何ですぐカミングアウトしないのか? 大体運よく拾われて言わなくても済む状況になってるからいいんだろうけど、普通、カミングアウトした方がメリットでかいと思うんだ俺は。
異世界から来て何も知らないからこそ逐一わからない情報があったらそれを理由に色々教えてもらえるし、そういう理由だからこそ助けてもらえるかもしれない。俺からすればカミングアウトしない意味がわからない。
確かに危険もあるけど、それ以上にカミングアウトせずにこの世界に放置される方がもっと危険だと僕ちんは思うわけで。
「え? じゃあ君たち来訪者なんだ! それなら早く言ってよ!」
「「へ?」」
とか考えてたら、レイチェルから予想外の言葉が返ってきて、俺とヒロシは声を揃えてまぬけ面を見せる。
「え? 何? この世界って異世界から来る人って珍しくないの?」
「珍しいには珍しいけど……いないわけじゃないよ。魔王がこの世界に現れてから、魔王を倒してくれる勇者を召喚するために女神、シズカールが連れてきてるって世間では言われてるの」
「シズカちゃんめちゃくちゃ迷惑じゃん。役立たず呼んでも仕方がないのに」
「そんなことないよ! 来訪者は必ずその魂から具現化された奇跡のアイテム、『魂の宝具』を持ってるはずだから! それがすっごく強いんだよ。そのアイテムを狙って来訪者を襲ったり取引を持ち込んだりする人がいるくらいなんだから! その人が死んじゃうと魂の宝具まで消えちゃうから、命を狙われたりすることはないけどね」
レイチェルからドヤ顔のご高説を聞いて、俺とヒロシは顔を向け合う。
俺の魂から具現化されたアイテムがパチンコという事実。
いやそりゃ、ここに来る前にパチンコ打ってたけどさ、何も打ってた台そのものが具現化しなくてもいいじゃない。
「なら、女神の宝具を持ってるはず。それを見せてくれたら……信じる」
「それ」
「え?」
「いや、だから。君が持ってるそのパチンコ台が俺の宝具。正直ただのお荷物だと思って捨てたらさっきのエキセントリックバードとかいうのにぶっ飛ばされたんだよ」
「…………そっちは?」
実際、空から降ってきたからか、特に何も言い返すことなくセナは視線をヒロシに向ける。するとヒロシは懐から俺にも見せた薄汚れた本を取り出して二人に渡した。
「それかはわかんねえけど、それしかねえから多分それなんだろうな」
「何……この薄汚い本?」
「よくわからないけど、俺とセイジはこの世界で起きる出来事なんじゃないかって」
ヒロシが説明するよりも早く、セナは本を開いてレイチェルと一緒に本を覗き込んだ。すると、セナも、さっきまでアホ面を見せていたレイチェルの表情も歪む。
「セナ……これ」
「うん。仄かに女神の魔力を感じられる。間違いなく宝具……それもAランク」
突然繰り広げられるシリアスな雰囲気に全くついていけない俺とヒロシ君。ランクって何?
「あ、ごめんね二人で深刻な顔しちゃって。えっと多分ランクって言われてもわからないよね? 来訪者が持つ宝具にもその性能からAからEまでのランク付けがされててね?」
それから、レイチェルによる宝具の説明が行われた。
人の魂から分離する宝具は、人の魂の強さによって性能が変わり、ランクが分かれるとのこと。
ランクA……世界の命運を左右する力を持った宝具がこの分類。
ランクB……一国の命運を分ける力を持った宝具がこの分類。
ランクC……一つの大きな事態を収拾するほどの力を持った宝具がこの分類。
ランクD……小さな騒動であれば解決できる力を持った宝具がこの分類。
ランクE……一応凄い力があるにはあるが、むしろ邪魔になることの方が多い宝具がこれ。
「なるほど」
一通り説明を聞いて、俺は脳内で整理をする。
「ヒロシのそれって……やっぱり未来のことを示してるの?」
「今は魔光歴745年……それと焔祭りは来月に王都で行われるお祭りのこと。そしてこれが宝具ってことを考えれば……これが未来に起きる内容を記している可能性は高い」
そして確信めいた表情でセナが語る。
つまり、ヒロシが持ってるこの本は世界の命運を左右する力を持っていることになるからランクAなわけだ。んで、俺の持ってるパチンコ台なわけだが。
壊れないだけで重くて邪魔。つまり圧倒的Eランク。
ますます早く元の世界に帰りたくなった。こいつが差別ってやつかぁ、女神様はとんでもないアイテムを生み出してくれたもんだぁ。
もうEランクってわかった時点で俺は使いものにならないんだから元の世界に返してくれないですかね? シズカちゃんよぉ? 俺に何を期待してるの? 戦闘力1のゴミだぞ俺は?
「……ごめんなさい」
いよいよこの世界に呼ばれた意味がわからなくなって放心する俺に、さっきまで怖い顔で睨み続けていたセナが、今度はしおらしく申し訳なさそうに頭を下げてきた。
すぐさま俺とヒロシは「どうしたんだこの脳筋少女」と顔を見合わせる。
「私からも謝るよ。この子……ちょっと気持ちが先走っちゃうことがあって」
追ってレイチェルも頭を下げる。ていうかお前も疑ってたからね? 「私からも謝るよ」じゃねえから。
とにかく、俺たちの中でセナは脳筋、レイチェルはアホという認識が出来上がっているのでまあそこは別にどうでもいい。
「魔族じゃないのに疑ってごめんなさい」
ただあまりにも素直だったので俺もヒロシも驚いてしまっただけだった。