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とびっきりの糞野郎がファンタジー入り-5

 ヒロシの言う通り振り出しに戻ったのは間違いなかった。


 いくら美少女が現れても、この状況では喜ぶものも喜べない。おまけにうっかり弓を落としちゃうようなアホ……まあ鳥頭共をここに連れてきた俺たちの責任なわけだが? とにかく助けないといけない人間が一人増えてしまったわけで? 自分の命もどうにでもできないってのに?


「諦めて死の?」


 だから俺はもうヒロシを犠牲にするしか助かる道が思い浮かばなかった。俺にできるのは優しい笑みでヒロシの肩を叩き、全裸で飛び降りる決意を助長するだけ。


 ちなみにヒロシの代わりに俺が飛び降りるという選択肢はない。


「あの弓があれば……なんとかできるんだな?」


 その時、ほぼ諦めかけていた俺とは違い、ヒロシは思案顔でさっき俺が提案した一つの案を真剣に考えて、レイチェルに問いかける。


「弓があったら楽勝だよ? あんな鳥頭の連中なんて一瞬で殲滅しちゃうんだから!」


「弓だけでどんだけパワーアップするんだよあんた」


 むしろそんなに強いのに、弓が無いだけでそこまで弱体化する意味がわからなかったが、再三確認した結果、本当に弓があればなんとなるらしい。


「セイジ、お前ならそこらへんの木の枝を使って弓くらい作れるだろ?」


「ん? 作れないことはないけど……糸は服から取るにしても、ナイフがないとさすがに無理だぞ? 削らないと形作れないからな」


 ヤバい……なんかヒロシが主人公っぽい雰囲気を醸し出してる。確かに俺は昔から手先が器用だから工作とか料理とか得意だけど、そうやって人を利用して自分の株をあげるのはよくないと思います。


「レイチェルさんだっけか? あんた傭兵っていうくらいだからナイフは持ってるんだろ?」


「え? 持ってないよ? なんかね、皆、私に弓以外触るなって言うから」


 しかしレイチェル氏は俺たちの想像を超える危険人物だったらしい。さすがにその展開は想像していなかったのか、ヒロシも苦虫を嚙み潰したかのような顔をしている。その顔好き。


「でもでも、さっき全裸で飛び降りてなんとかするって言ってたから大丈夫だよね? 私、あ、なーんだ! ここで何もできずに野垂れ死ななくていいんじゃーんって楽観視してるんだから⁉」


「むしろ、全裸で飛び降りた俺たちが何をすると思ってるのかあんたの脳内を覗きたい」


 結局、弓を手に入れるには大木を降りるしかなく、俺たちは再び振り出しに戻る。


 もう一か八か腹を決めて大木を降り、弓を取って戻るしかないからと、誰が下に行くかで、あいこがひたすら続く激しいジャンケンタイムをしていたそんな時だった。


「……誰か来てないか?」


 突然、ヒロシがそう言って遥か遠くの何もないはずの平原へと視線を向ける。


 すかさず俺とレイチェルは、手元をグーにしながらよそ見したヒロシの隙をつき、チョキだった手元をパーにして勝利を手に入れるが、本当に誰か来ていたようで、俺とレイチェルも遅れて視線をそこに向ける。


「あれなんだ……? 人か? いや犬みたいな耳が生えてるぞ」


 まだ離れすぎてハッキリとは見えなかったが、ファンタジー特有の旅人の服にスカートを足したような剣士っぽい身のこなしの軽そうな赤髪の少女がこちらへと近付いていた。身長の低さから年齢は中学生くらいだろうか?


 ヒロシが今指摘したが、耳に茶色毛の獣っぽい何かが生えてる。良く見たら尻尾も生えてる気がする。だが俺はそんなものよりも、その少女が背負っていた物に目が行った。


「……なんか、見覚えのあるものを背負ってるんだけど?」


 そう、少女の背中には、十数分前まで俺が所持していたパチンコ台的な何かが背負われていた。


「あれかな、もしかしてパチンコ台が吹っ飛ばされてきた方向を追ってここに来た感じか」


「ん? セイジのパチンコ台って重いから捨てたんじゃねえのか?」


「捨てたけど、捨てた瞬間に下に群がってるムキムキマッチョマン共に殴り飛ばされて、遥か遠くに飛んでッたんだよ」


 その事実を聞いてヒロシの表情が歪む。恐らくヒロシは逃げるだけだったので、まだあいつらの腕力を知らなかったのだろう。今想像している通り、間違いなく掴まればひねり殺されるのは確定的だ。つまり――、


「あの獣耳少女……このままだと死ぬんじゃない?」


「ああ……やばいぞ」


 ヒロシも同じことを考えていたのか頬に汗を垂らす。


「あ、あれってもしかして……おーいこっちこっち! ここだよぉお! 助けてぇえ! たぁぁぁあああすけてぇぇぇえええええ! うぉおおおおお!」


「おい! やめろ! あんまり叫ぶと鳥野郎共があの子に気付いちゃうだろ! ……あ」


 ヒロシの忠告も遅く、レイチェルが叫び声をあげると共に、ムキムキマッチョマン共はこぞって視線の先を獣耳少女へと向け、陸上選手も真っ青な綺麗なフォームでズドドドドと地響きをあげながら走っていった。


「あの少女の人生終了のお知らせ」


「おいおいおいおい、何落ち着いてんだお前は⁉ このままじゃあの子死ぬぞ⁉」


「お前が今すぐ全裸で『こっちにこいやぁぁふひひ!』とか叫びながら飛び降りたら助けられるかもしれないな」


「さすがセイジ、ゲス以下」


 実際のところ、まだ助かる可能性はあるかもしれない。あの少女が持っているパチンコ台、見た感じあれだけボッコボコに殴られて飛ばされたにも関わらず、何故か全く壊れてないっぽい。表面のガラスが綺麗に残ったままだ。


 どういう原理かはわからないが、あれを盾にすればワンチャンあの鳥共のラッシュを乗り切れるかもしれない。


 ちなみに俺があの子の立場で乗り切れるのか? と聞かれたら無理だけど。


「そうだ! レイチェルさん! 今のうちに弓矢を拾ってあの子を助けられないか⁉」


 そこで、閃いたのかのようにヒロシがレイチェルに提案する。だがレイチェルはニコニコと笑顔を浮かべるだけで助けに行こうとはしなかった。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ! あの子、私の自慢の仲間だから!」


「へ? 仲間?」


 レイチェルの予想外の発言にヒロシがまぬけな声をあげると、俺たちは一斉に獣耳少女のいる場所へと注視する。


 すると、獣耳少女は慌てることなく、予定調和の出来事が起きているだけというかのようにパチンコ台を地面へと降ろし、腰元の鞘から剣をゆったりと抜き去る光景が目に映った。


 直後、獣耳少女の姿がその場に残像を残して俺の視界から消える。二秒程して、獣耳少女の姿を再度認識した時には、獣耳少女はムキムキマッチョマン共の群れの背後へと移動していた。


 更に二秒後、獣耳少女が剣を再び鞘にチンッと音をたてて戻すと同時に、背後に立っているムキムキマッチョマン共がドサドサと次々に地へと伏した。

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