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誰だって、時の流れには抗えないっていう-4

「そ、そんな品のない言い方……下民にしかできませんわ!」


「品がない!? 品がないだって? 笑えるぜ! 品なんか気にしていて煽りを極められるとでも思ってんのか……このド素人共が! 煽りを舐めてんの? そんな中途半端な煽りをしている方がむしろ品がないってわからないの? 君たちの煽りはちっちゃいちっちゃいお子ちゃまが放つのと一緒。わかる?」


「な……な……!」


「おっとぉ? 図星かなぁ? 顔真っ赤だぜ?」


「下民の分際で……! 立場ってものをわかっていないようね」


 そして遂に言い返せなくなった奴の多くがとる滑稽で情けなく、ゴミのような最低のカスがとる最終手段、『暴力で解決』を貴族のお嬢様たちがしようとする。


 その時、レイチェルが俺に耳打ちで「実は、貴族って任意で下民をある程度、裁く権限が与えられてたりするんだよね……ほら、妬む人たちがよく貴族を襲ったりするからさ」と、今更な情報を俺に言ってきた。もっと早く言えよ。


 だがそれで傲慢な態度にも合点がいった。下民の人たちは貴族の気分一つで牢獄にぶち込まれてしまうため逆らえず、ご機嫌を取り続けるしかないのだ。そりゃ、逆らわない相手に調子に乗ってしまうのは人間の性だから仕方がないよね。


「でも残念でしたぁぁぁあ! 俺は下民じゃないので関係ありまてぇええん!」


「嘘を言わないでもらえるかしら? そんな身なりで下民じゃない? 笑わせないで頂戴」


「は? 見た目が悪いからって身分も悪いにはならないだろ? 王様が素っ裸の汚らしい恰好で出てきても下民っていうのかお前ら?」


「王はそんな恰好はしませんわ。あなたたちとは違って高貴な方なのですから」


「なんで? どうして言い切れるの? 100パーセント? その言い切れる証拠出してよ。ほら、ほら? 決めつけられるんだから確証があるんだよね?」


「全く……本当に愚かな下民ね。貴族階級の者には家紋が与えられるわ。それですぐに見抜けることよ? ほんと……滑稽ね?」


 貴族様たちは勝ち誇った顔をみせるとクスクス笑い始める。





 …………は?





 家紋とか聞いてないんだけど? どういうことレイチェルさん? 


「それってこの国とこの世界が勝手に決めた身分だろ? 来訪者の俺には関係ないことじゃん」


「あら? あなた来訪者だったの? どうりで常識知らなさすぎると思ったわ。言っておくけど、貴族以外は基本的に下民として扱われるから、来訪者のあなたも異世界ではどうだったかは知らないけど下民扱いよ? 残念だったわねぇ」


 俺がまぬけなピエロだということが、たった今判明。


 俺の隣でヒロシが「完全敗北してんじゃん」と皮肉った笑みを浮かべてくる。


「こいつうぅぅぅぅうう言わせておけばあぁぁ!」


「セイジが暴力で解決しに行ったぁぁぁぁああ!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 それから三十分後、ビックリするくらい情けなくコテンパンにされた俺は、あまりにも情けなさ過ぎて貴族のお嬢様たちに温情をかけられ、「……もう行っていいわ」とあっけなく解放された。


 いつか兵士になって復讐することを心に誓いつつ、俺が兵士になれる可能性がほぼ0なことに絶望しながら、俺たちは王城のすぐ近くにある兵士の修練場へと足を踏み入れた。


 まぬけなピエロと化した俺に声をかける者もおらず、先に着いて何故かご満悦な顔を浮かべていたサトウチに声をかける者もおらず、俺たちの兵士になるための試験が始まる。


 国中から兵士の希望者が集まっているのか、修練場は様々な種族の者で集まっていた。


 修練場は、地面が砂で敷き詰められ、石造りの防壁で囲われているシンプルな場所だ。


 広さは高校の体育館二つ分くらいだろうか? とにかくそんな場所に二百人くらいの希望者たちが殺到していた。


「いよいよじゃのう! 頑張るのじゃぞお主たち!」


「あれ? ミナは頑張らないの?」


「ワシは見た目も子供じゃし、戦う力もないからのう。力は父上と母上譲りであるにはあるが」


 兵士になるための試験はきっと生易しくはない。その判断は決して間違っていないだろう。


 ただ、ミナより弱い俺たちも、そうなるとどうあがいても無理なことになるから、せめて挑戦くらいはして欲しかった。なんか受付してないなーって思ったけど。


「くふぅーいよいよだね! 最初の試験の内容聞いた? まずは軽く実力を見るために三人の相手と戦ってもらうんだって! 武器は何を使ってもいいらしいよ! 命を奪う行為は禁止だって、制御できないようなら実力があるとは言えないからだとか」


 しかも残念なことに、最初の試験でもう駄目なにおいがしている。体力の試験とかだったらなんとか食らいつけたかもしれないが、このモンスター溢れる世界で生き抜いてきた奴と戦うとか無理すぎて笑う。


「なんとかなると思う?」


 一応、ヒロシにそんなことを聞いてみるが、満面の笑みを浮かべながら親指を立てていたので、ヒロシも俺と同じ気持ちっぽい。


 しかもどうやら戦いは一度に八組同時にやるらしく、八組が均等の広さで戦えるように敷居ができており、そこそこ狭い。つまり、こそこそ逃げながら戦うという作戦も使えないわけである。


「まず最初に試験を行う者を発表する!」


 そして、心の準備とかまだ全然できていないにも関わらず、案外ストイックにプログラムを進行をしていくつもりなのか、試験管は次々に名前を呼び始めた。


「カミダネ・セイジ! 二番の札を持った兵士が立っている場所へ!」


 更にクソなことに、まずは他の人がどんな戦い方をするか見物しようと思っていたら、最初に戦うはめになってしまった俺。対策を練ることすらもできないとかオワタ。


「まあ……頑張ってセイジ!」


「…………応援してる」


 俺は全然期待の込められていないレイチェルとセナの声援を受けながら、自分が戦うことになる場所へと移動する。


 最早、対戦相手が俺と同じ来訪者でまともに戦えないか、元々全然強くないくせに夢を見て挑戦しにきたザコである可能性にかけて、対戦相手が来るのを待った。


「デルモベート・ミルキー! 二番の札を持った兵士が立っている場所へ!」


 そして遂に、俺の対戦相手の名前が試験官によって叫ばれる。


 どんな相手が来るのかとドキマギしながら待っていると、それは、修練場に敷き詰められた砂を巻き上げながら、威風堂々とした態度で姿を現した。


「私……気付いちゃったの」


 そいつは、そんな言葉を呟き、一歩一歩、大地を踏みしめる音を鳴り響かせながら近付いてきた。


「夢を抱けば抱くほど……誰かを恨まずにはいられない。夢を追い求めれば追い求めるほど……その夢が残酷な現実へと変わっていく……憧れがいつか、冷めてしまう」


 目の前に現れたのは……サトウチに並ぶ筋肉の塊としか思えない肉体を持った、ピンク色のツインテールで、若干魔法使いっぽい感じのピンク色のフリフリドレスを身に纏った――、


「魔法少女って……そういう仕組みだったんだね」


 全身ピンク色のババアだった。

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