きったない大人が成り上がる、この世界で-4
聞いているだけでワクワクするような商品が取り扱われていて、顔が自然に闇市と呼ばれるブラックマーケット的な場所へと吸い寄せられる。
引いてくれて構わないが、俺はそういった怪しい感じのものを取り扱っている店が好きだ。なんていうかこう……非現実的で少しワクワクする。普通じゃお目に掛かれないものと出会った時の感動といえばいいのだろうか? どこか自分が特別な感じがしてちょっと気持ちよくなる。
世間的にはこういうのを中二病とか言ったりするのかもしれないが、とりあえず俺は昔からこういったジャンクショップに近しい怪しい店に立ち寄るのが好きなのだ。
なお、大人のお店には未だに入れていない。だって童貞だもの。
「まさかセイジ……興味あったりしないよね?」
俺が興味津々なことに気付いたのか、嫌悪の目をレイチェルは向けてくる。
「というより、興味あったらダメなのか?」
「……奴隷を扱うような人として最低の場所……私は、認めない」
レイチェルに続いて、セナも睨みつけるように俺を見つめてくる。
「奴隷って……もしかして無理やり攫われたりとかしたのが扱われてんのか?」
「……そういうのもいる。他にも、元々、奴隷として働いていた人たちの子供だったり……行き場のなくなった人たち、珍しい種族だったり……色々。エルフなんか子孫を多く残さないから、奴隷としての価値も高い」
「珍しい種族って……え? エルフたちの人権守られてないの?」
「どの種族も基本は守られている……でも」
「あー……なるほどね、さっき言った通り無理やり攫って売り飛ばすような、狩りみたいなことする奴がいるってことか」
その問いに、セナは頷いて答えた。
需要があるということは買い手もいる。珍しい種族となれば沢山の買い手がいて、高値で取引されるだろう。そして、買い手にとって、その奴隷がどこにいたどんな人物かなんて関係ない。売られている奴隷という商品を買っただけでしかないからだ。
恐らく、奴隷の烙印か、逃げられないようにするための装置があるのだろう。よほどのことがなければ元居た場所の住人に見つけられて助けてもらうこともできないだろうし、捕まえて、後は奴隷商人に売ってしまえば大金が手に入る。
狩りをするような輩も、足がつかないように探されたりしないような貧困な奴を狙ったり、一人になっているところを攫って遠くの地で売るようなことをしていたりするはずだ。
「あれ、じゃあ……俺とかも攫われたりすると奴隷として売り払われたりする感じ?」
「人間の奴隷は狙われることは少ないかな。元々の奴隷の数が多くて価値が低いし、人間は身元が割れやすいからあまり狙われないんだ。すごく美人なのに貧困な人だったりとか、凄くかっこいい人だったりとか……何か理由がない限りは連れ去られたりしないから大丈夫だと思うよ」
「え? じゃあ天才の俺はめちゃくちゃ危ないのでは?」
その問いには誰も答えなかった。
しかし、まあなんだ? やっぱり気になるのは気になってしまう。確かに無理やり攫われた奴隷ってのは気の毒でしかないが、見たいものは見たい。(確信)
なんなら奴隷がほしいくらいだ。超絶美人の女の子を奴隷にして足をぺろぺろさせたい。屑といわれてもいい。
事故現場で悲惨な思いをしている人たちの気持ちを考えずに写真を撮ってSNSに投稿しちゃう不謹慎な糞共がいるように、いくら不謹慎と言われても、見たいという気持ちを抑えられない人間の醜い性に抗えない俺ちゃん。
「ほれほれ、こんなところで立ち止まっていないでさっさと進むのじゃ。買い物が進まんじゃろ?」
だが、そんな俺の欲望を抑圧するように、ミナが背中を押して先へと進ませようとしてくる。
気になるのは気になるが、嫌悪の視線を向けられている中、行こうとするのはリスクが高いかと考え直し、俺は諦めて先へと進む。
「さあさあ! いよいよ明日! この国一番のモンスター使いを決める闘技大会の開催だ! 観戦チケットも残り僅か! 年に一度のこの熱いイベントを見逃すな!」
その時だった。露店を見て回って賑わう人たちとは別に、人だかりができているのを見つけた。
人だかりの中心には大声を出して何かのイベントの宣伝をしているサーカスの団員みたいな派手な衣装を纏った男性が、ばらまくようにチラシを配っていた。
面白そうだったので、近付いて空から舞ってきたチラシを手に取る。
「何々……モンスターマスター決定戦。優勝者には大金貨10枚の賞金と、焔祭りでのモンスターショウのメインキャストとしての雇用と、王都の正規のモンスター調教師として雇用する権利を与えるって……おぉ?」
「あー、そういえばそろそろそういう時期だったね」
同じくチラシを手に取ったレイチェルが、懐かしむような顔で言葉を漏らす。
「そういう時期って、毎年恒例なのか?」
「うん、モンスターを使役できる人は少ないから、良い見世物になるの。だから、焔祭りに合わせて毎年この時期に、一番すごいモンスター使いを決める大会を開催してるんだ。優勝者はその腕を見込まれて王都お抱えの調教師にもなれるし、焔祭りで欠かせない、モンスターを使った凄いショウの主役になれるの。貴族ともお近付きになれるから……それなりに凄い大会だよ」
「すごいな……優勝した時の特典がめちゃくちゃでかいし。しかも明日か……今からモンスター仲間にできねえかな?」
「さすがに今からは無理じゃないかな……この前も教えたけど、モンスターを仲間にするのって凄く難しいし、セイジもその身をもって体験したじゃない?」
試したモンスターがエキセントリックバードだったのが悪かったとしか思えないが、確かに今からというのは無理そうだ。なんせ、俺一人でやるには命の危険がありすぎる。そして今日は疲れているので動く気にもならない。
「さあさあ! 大会のエントリーも本日までだよ? 使役できているモンスターがいるなら、ぜひこの夢を掴める大会に参加してくれ! 良いものを見せてくれるモンスター使いの参加者は、エントリー費用は無料! 更に大会を迫力ある席で見られるSチケットもついてくるぞ!」
力強く宣伝してくるが、指をくわえて見ることしかできないのがなんともまあ。折角、自分に実力がなくても、モンスターの実力さえあれば兵士になれるチャンスだというのに。
「……面白そう」
「うぬ! 面白そうなのじゃ! 見たいのう!」
「うん、ちょっと気になるよね。ここには早く来れたから、王都につくまで結構時間に余裕もあるし、明日開催するんだったら見てから出発してもいいかもしれないね。サトウチに相談してみよっか」
参加したいではなく、単純に見てみたいという動機から三人は目を輝かせる。
確かに、モンスター使いという人たちが実際どんな感じなのかは凄く気になった。本当に人を襲うことしか考えてないモンスターたちが人に従うのかという関心も含めて、見てみたい。
もし、エキセントリックバード同士が戦うみたいなシーンがあるのだとしたら、それはそれで面白そうだし、サトウチを説得するなら、俺も手を貸すことにしよう。




