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きったない大人が成り上がる、この世界で-3

 ここに来る前までは、それだけ色んな物資が流通するなら、早めに潰したいと魔族も攻めてくるのではないかと心配したが、どうやら杞憂らしい。


 街の中は、恐らくレイチェルたちと同じぐらい強いと思われる、引くほど筋肉隆々な人たちで溢れかえっていたからだ。絡まれたらおしっこちびりそう。


 それだけじゃなく、街の周囲は高さ12メートルくらいの外壁で覆われていて、壁の上には見張りもいるし、弓兵もしっかり警備にあたっているため、魔族も手出ししにくいことこの上ないだろう。


 まあ俺はこの街が滅んだとしてもどうでもいい。


 せめて俺の滞在中だけ安全だったらそれでいいっていう。


「なあなあセイジ! 今から一緒に街を見て回らんかのう? 姉上がこの街だとお菓子も安く手に入ると言っておったのじゃ、この世界のお菓子に興味くらいあるじゃろ?」


 すっかり疲れ切ってゾンビ顔の俺の服の裾をくいくいっと引っ張りながら、ミナがわけのわからないことを言いだした。俺の顔ちゃんと見て? どう見てももうHP残ってなさそうでしょ?


 気配りできないの?


「いいじゃねえか……行ってこいよ、荷物なら俺がみといてやるからさ」


 すると、ヒロシが爽やかな笑みをこぼしながら俺から荷物を奪い取る。


「俺とサトウチで宿を取って荷物を運んでおくからさ、セイジは気兼ねなく街を見て回れよ」


「え? いいの?」


「……助かる。この街は珍しい物が集まる……色々見たい」


 ヒロシの優しい言葉に、レイチェルとセナは目を輝かせて感謝し始めるまずい流れに。


 悪いが俺は騙されないぜ? ヒロシからプンプンと卑怯者の香りが漂っているからだ。


 どう考えても元気いっぱいのこいつらの面倒を俺に押し付けて、一人で先に休むつもりな件。


「サトウチも……それでいいよな?」


「ん? あ、ああ……まあ、女に荷物を持たせるわけにはいかないからな、お金を渡しておくから、物資を買い集めてくれると助かる」


 そう言いながら、サトウチは俺に二つある財布のうちの一つを俺に渡してきた。


 その時、幼女を取られたつもりになったからかは知らないが、サトウチはめちゃくちゃ俺にメンチを切って、力強く手を握ってきた。何の心配をしているか知らないけどお前だけだからな? ミナとセナみたいな幼女に興味あるの。


「ていうか……俺が財布を持つのかよ」


「セナには既に少し持たせてあるからな、この中だと、セイジが持つのが一番いいだろう? ミナはお金を持つには少しまだ早そうだしな。計算くらいできるんだろ?」


「え? 私は?」


「計算はできるけど、この世界の通貨の価値は知らないな。銅貨は銀貨の何倍の価値があるんだ? なんか小さいのと大きいので各貨幣二種類あるけど?」


「ねえねえ、私もいるよ?」


「大きい貨幣は小さい貨幣の10倍と考えるといい。大きい銅貨は小さい銀貨の10倍の価値がある。あとはもうわかるだろう?」


「おかしいなぁーレイチェルちゃんもいるんだけどなぁ?」


 俺もだが、サトウチがまるでレイチェルを相手にしてなくて笑う。セナもミナも目を合わせようしてなくて、少しかわいそうに見えてきた。


 まあそれより、貨幣の価値が想像していた通りだったので安心した。これなら買い物に手こずることもないだろうし、素早く終わらせて宿屋で身体を休められる。


「一応だが……いいか?」


「なんだ?」


「セナとミナはまだ子供だ。こんな屈強な男たちが集まる場所で襲われればひとたまりもない……そして俺はいない、わかるな? もし何かあったら……わかるよな?」


 そう言ってサトウチは俺に顔を近付けてすごんできた。一番弱いの俺なんだが?


「ほれほれ、何があっても姉上が守ってくれるし、街の中でそんな心配するだけ無駄じゃ! 早く行くぞセイジ!」


 サトウチに睨まれる中、俺はミナに背中を押されてそのまま行商人たちが開く露店で埋め尽くされた通路へと向かう。そのあとを、やれやれと保護者が子供に付き合うかのような顔つきでセナとレイチェルがついてきた。


 通路はあまりの賑わいっぷりで、少し目を離せばすぐに他の皆とはぐれてしまいそうなくらい、人が行き交っている。ただでさえ疲れてるのに、この人込みは正直辛い。


「人いすぎだろ……こんなんじゃゆっくり買い物もできないな」


「そうか? 大体こんなもんじゃろ?」


 さすがファンタジー世界の住人、慣れていらっしゃる。俺が単純にインドア体質なだけかもしれんけど。


「それで? 何を買えばいいんだ? 正直この世界の物はよくわからんし、何を買うかはセナに任せたいんだけど。ちゃっちゃと買い物を済ませて戻ろうぜ」


「……ここから王都に向かうのに一週間以上はかかる。途中にある村に寄るにしても……村じゃ手に入らない物もある。それを買う」


「薬草とか食料品とかだよな? あるにはあるんだろうけど……これだけたくさん店があると見つけるのも大変だな。そういや包帯とかも買っていかないと切らしてたよな? 重くなる食料品とかは後回しにして、先に雑貨を買い揃えたいところだが……」


「さすがセイジ……しっかりもの」


 むしろ今までどうやって旅してきたのか知りたいぐらいの適当さだが、とにかく、すぐに買い物を終えるのは難しそうな様子。とにかく、立ち止まっていても始まらないため、俺たちはテントの張られた露店を見て回った。


 露店に売られているものは様々だ。食料品から日用品、置物やアクセサリー、武器や小物までなんでも揃っている。店によって値段が様々なため、比較して交渉をかければ安くなったりと、まさしく商人の街と呼ぶにふさわしい場所だった。


 定価で買いたい場合は、家屋内にかまえられた店に入れば他の街と変わらない品揃えと値段で購入できるとのことらしい。


「ん? あっちは? あっちにもいっぱい露店があるのに……人が少ないな。裏通りだからか?」


「あっちは……いかない方がいい」


 賑わいのある表の通りとは違い、同じように露店が開かれているのに人が全然いない、どこか陰を帯びた裏通りを見つける。露店を開いている人たちも、表の通りに比べるとどこか怪しく、やばそうな雰囲気が漂っている。


「あっちは闇市って言われている場所だよ。他じゃ手に入らない珍しいものが売ってたりするけど、ほとんどがこの街の長に認められていない商品を取り扱って店を開いてるの」


どこか嫌なものを見るような顔つきで裏通りを見つめながら、レイチェルがそう漏らす。


「え、それって怒られたりしないのか?」


「この街で店を開くことは誰にでも許されてるからね、商品がちゃんと市長が認めた安全な品じゃないってだけで……売り買いは自由だから。中には盗品、呪われているアイテムだったり……魔族の臓器を売ってたりもしてる危険な場所だよ。あと……奴隷とかも」

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