きったない大人が成り上がる、この世界で-2
「何度もここまでくる途中に出会っただろう? あのモンスターたちを従える者をモンスター使いって言うんだ」
「モンスターって……仲間になるの? そういや……別に魔族の仲間ってわけでもないんだっけか。どうやってあんなまともに会話もできない奴らを仲間にするんだ?」
「さあ……俺もどうやって仲間にしているのかはわからないが、実際に従えてる人間は何人もいるぞ? そいつらが言うには……心を通わせるとか、体内の魔力を操作して誘惑するとからしい。一応会話はできないが、言葉は理解しているらしいからな」
それって体内の魔力も心もまるでない俺には無理な話では? この際だからハッキリと伝えておくが、俺はかなり心ない人間だぜ?
「セイジ絶対無理じゃん」
「ちょ、今自分の中でもそう思ってたんだからわざわざ言葉にしないで。というかお前も無理だろ?」
「いやいや、俺はいけるかもしれないだろ?」
「じゃあ試してみろよ、丁度そこにエキセントリックバードがずっとこっちを見て直立不動してるからさ」
そう言いながら指さすと、気付いてたのは俺だけだったようで、ヒロシを含め、サトウチとレイチェルとセナもビクッと驚きながらそこに振り向く。
少し街道から離れた場所で、エキセントリックバードが急に襲いかかっては来ずに、ジーッとこちらを見て立っていた。
「レイチェル……戦闘態勢!」
「うん、わかった!」
すかさずレイチェルとセナの二人が武器を構えて対処しようとするが――……、
「……マテ」
低くてハスキーで、嫌なくらいダンディーな声が、エキセントリックバードから放たれた。
よく見ると、手の平をこちらに向けて動きを止めるように促してきている。
いや、そんなことより、こいつ喋れんのかよ。言葉理解できるだけじゃないの?
「ワタシニ敵意ハナイ……オチツクノダ」
「やだ……イケメン」
目を覚ませヒロシ! いくらダンディーな声を出して、頭部以外は人間でもモンスターだぞ?
「ていうかどういうことこれ? 少なくとも今まで出会ってきたエキセントリックバードって問答無用ですぐに襲いかかってきたよな?」
それが何故か、今は頭部を肥大化させることなく、至って落ち着いた様子でこちらに語りかけてきている。何事かとレイチェルに視線を向けると、レイチェルは少し困った様子でエキセントリックバードを見つめていた。
「あれ……エキセントリックバードのオスだね」
「オス? オスって……なんかメスと違いでもあんのか?」
「うん。エキセントリックバードのメスは、人間を見つけると問答無用で襲いかかってくる糞野郎なんだけど、オスのエキセントリックバードはとっても紳士なの」
ツッコミどころが多すぎて開いた口が塞がらない。どういうこと?
今まで俺たちが出会ってきたのは全部メスだったってこと? メスの割合多くない? メスとオスで結局どちらもムキムキマッチョのブーメランパンツなのはなんで?
どうしてオスとメスでそんなに違いが出ちゃったの? 教えてよ神様。
「敵意がないならまあ……楽だな。ていうかそれで言葉も通じるんだったら仲間にしやすいんじゃないのか? ヒロシにピッタリの仲間っぽいし」
「いやぁ……やめといた方がいいんじゃないかなぁ。確かになんでか知らないけど言葉もしゃべれるし、自分たちがモンスターだってわかってるけど……」
敵意がないにも関わらず、レイチェルはどこか苦い顔を浮かべていた。
よくよく見ると、セナも、ミナも、サトウチも引きつった顔をしている。
「とりあえず……イコッカ? 敵意ないみたいだし」
そして、ちゃんと説明しないまま、レイチェルたちはそそくさと先へと歩き出した。
わけがわからず俺とヒロシは顔を見合わせて首を傾げるが、素直に従って後を追う。
「マテ……驚カセテシマッタお詫ビニ私ガ仲間ニナッテヤロウ」
すると、話を聞いていたのかエキセントリックバードはそう言いながら、手のひらをこちらに向けて歩み寄ってきた。一歩ずつ、にじり寄るように近付いてくる。
そして、一歩、二歩、三歩と動き出した瞬間のことだった――、
「ぐぎょっぇえぇぇぇえええええふるふぉるかこぽぉおおおお⁉」
突然、奇声をあげて顔を肥大化させ、高速回転させながら陸上競技選手も真っ青なフォームで走り出してきたのだ。どうして突然いつものエキセントリックバードに戻ったのかわからず、最後尾を歩いていた俺とヒロシはあまりの恐怖に叫び声をあげて逃げ始める。
そして、やっぱりこうなったかといった顔で溜息を吐きながら、セナが駆け出してエキセントリックバードを一刀両断にした。
「い、いったい何が起きたんだってばよ」
「エキセントリックバードのオスは……最初はとっても紳士だけど、三歩歩くとメスと同じく発狂して襲いかかってくる。最初、変に紳士的だから、その段階で攻撃するのも気分が悪くて厄介な相手……」
セナの説明に俺とヒロシは顔を見合わせて頷きあう。恐らく考えていることは一緒だろう。
こいつ鳥頭かよ。
思えば、俺がこの世界に呼び出されたばっかりの時に囲んでいたエキセントリックバードたちも、最初はおとなしく、歩き出すとともに襲いかかってきていた。つまり、あれもオスだったのだろう。
「この世界……怖いわ」
結局、エキセントリックバードのせいでモンスターを仲間にすることに対して恐怖心を植え込まれた俺たちは、王都に向かう道中、モンスター仲間にするという選択がとれずに終わる。
兵士になるための方法をあれこれと考えるが、結局、良い案は一つも見つからないまま街道を進み、俺たちは王都に一番近い街、商業都市フローネルへと辿りついた。
「やっと……着いたか」
五日間ろくに休まずに歩き続けたせいか、疲労が限界に達し、街に到着するなり俺は身体をよろめかせる。さすがにヒロシも相当堪えているのか、ぐったりとした顔を見せていた。
「うん、やっぱりこの街は賑やかだね」
今にも死にそうなゾンビ顔の俺たちとは違い、まだまだ余裕のありそうな笑みを浮かべながらレイチェルが街門を通った先の広い通路内で背を伸ばした。よく見れば、セナもサトウチもミナでさえまだまだ余裕がありそうな様子だ。
何がおめでたいのかは知らないが、街のところどころに風船や飾りが取り付けられており、商業都市フローネルはどこかテーマパークみたいな雰囲気を醸し出していた。
なんでも、国中の名産品や、武器、鉱石、道具はもちろん、奴隷やなんと魂の宝具までも流通する商人の街らしい。