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死を覚悟した男のあがきと糞ガキ-6

 その時、俺とヒロシの高度な会話についてこれないのか、絡んでからずっと放置状態にあったサトウチが、「そろそろいいか?」と会話に割って入る。


 困惑した表情を浮かべるサトウチから何が言いたいのかを察したのか、セナがポンッと手を叩くと、どうして俺たちがレイチェルたちと一緒にいるかなどを含めてこれまでの経緯をサトウチに説明し始めた。


「なるほどな……半信半疑だったが、来訪者というのは本当の話か。しかし、Aランクの魂の宝具か……そんな凄い人物に出会えるとはな。改めて俺はサトウチ=ムドルだ。よろしく頼む。あんたも、礼が遅れたが助かった」


 そう言いながらサトウチは親しみを込めてヒロシと俺と握手を交わした。


「こいつらを王都に送り届ける意図も理解した。確かに、この世界の命運を左右する力を持っているなら王都にいてくれた方がいいだろうな。護衛なら任せてくれ」


 そこで、予想外に話のわかる相手だったことに、俺は目を丸くして驚愕の表情を浮かべる。


「……なんだその表情は? 急にどうした? 癇に障るようなことをしたか?」


「いや、今のところ俺が出会ったやつは、全員もれなく何かしらヤバイ奴だったからさ。レイチェルはアホだし、セナは脳筋だし、ミナはもうよくわかんないくらい糞ガキだし、ヒロシはもう全知全能のヤバイ奴だからさ。あんたまともなんだなーって意外だった」


 脳筋と言われたのが心外だったのか、セナが俺の腰に弱パンチをしてくるのだが、お前のパンチ、弱でも超痛いからマジでやめてほしい。


「確かに、今のところ誰よりも早く冷静に話はできてるな。ところでなんだけど、俺が全知全能のヤバイ奴なら、お前は何になるんだ?」


「天才」


「なるほど、こいつが一番ヤバイ」





 それから、俺たちは半日かけて草原を渡り歩き、予定通りにセンベルの街へとたどり着いた。


 大岩に囲われていただけの名前もわからない村とは違い、センベルの街は人工的に作られた石造りの防壁に囲われ、屈強な戦士たちが護衛を勤める守りの堅い街だった。


 人口の数も街の広さも、名も知らない村に比べると十倍くらいはあり、ここなら確かにあのちんけな村よりかは安全ではある。


 そして現在俺は、そんな街の中心に位置する宿屋の一室で、一人ベッドに横たわっていた。


「……死ぬ」


 窓からは大きな噴水のある広場が見えており、眺めは最高の一室。夜となった今、噴水からは魔法による光のイルミネーションも散らばっており、カップル二人で見るには最高の部屋。しかし、俺はただただ身体を休めていた。


 夜が遅いからとか、そういうわけではない。何なら少し前に空は暗くなったばかりだ。


 じゃあなんで街についたばかりなのに、部屋で一人ゴロゴロしているか? 答えは簡単だ。



 俺がただのパンピーだからだ。



 元々運動のできるヒロシとは違い、俺はまるで運動ができない。むしろ苦手だ。半日もただただ歩き続けて、身体を休めないという選択をとるヒロシを含める他の連中はおかしいとしか言いようがない。


 無論、初めての異世界の街だからとテンションを上げて魔法のことやら含めて遊びに行ったヒロシの気持ちもわからないでもない。


 しかし、ここから王都へ向かうには、少なくとも歩いて二週間は掛かるとかで、一月後に王都で行われる焔祭りに間に合わせるために、明日の明朝出発することになったのに、身体を休めないあいつは頭がおかしいと思う。体力ありすぎだろ。


 ここに着いた時も、「なあセイジ? 街の中見に行こうぜ⁉ 異世界にしかないアイテムとか食い物とかあるかもしれないだろ⁉」とか言ってきたが、俺ら、この世界の金持ってないから見に行っても何もできねえから。


 むしろこうやって助けた村人たちのご好意で宿屋に無料で泊まらせてもらってるだけでも奇跡だというのに……。


 それを伝えたら、「なら観光だけでもしてこうぜ? この世界のこともよくわかるかもしれないだろ?」とか言ってきたが、街は、中世ヨーロッパかのような街並みで、ありきたりなファンタジーっぽい街以外に語りようがなく、そんなのゲームでいくらでも見たし、まるで興味がわかなかった。


 人と話すのも面倒だし。この世界のことなら順を追ってレイチェルとかに聞くからどうでもいいと突っぱねたところ、現在ヒロシは一人で街の中を歩き回っている。モンスターと間違われて殺されなければいいが……心配だ。


 とにかく俺は、寝るという選択をする以外になく、こうしてずっとベッドの横になっているわけだ。

しかし……全然眠れていない。というのも、この宿屋の外にある噴水広場でさっきから、子供がキャーキャーと走り回って遊んでいてうるさいからだ。


 もう夜だってのにいつまで遊んでいるのだろうか? 迷惑になるとか親は考えないのだろうか? とは言っても、ここは異世界で俺たちの常識は通用しないわけで、変に注意するわけにもいかず、こうして困り果てた状態でベッドの上で横になっている。


「おい、いるか? 入るぞ?」


 その時、ひたすらに態度のでかい言葉遣いと共に、扉からコンコンと叩く音が部屋に鳴り響く。


 クソガキとは会話する気にもなれなかったが、今後一緒に旅をすることを考えると無視するわけにもいかず、ベッドから身体を起こして明かりを灯す。


 ちなみにだが、この世界にも照明の役割を果たしている存在がいて、ウィプスと呼ばれる一応モンスターに分類されている生物がいる。


 魔力を送り込むと光るらしく、それを利用してこの世界では魔力を保存しておけるタンクのようなものを使って電気代わりに使っていた。


「いるならさっさと開けんか……いないかと思ったではないか」


 扉を開けるとそこには案の定、糞ガキが立っていた。


 何故か唇を少し尖らせていて、妙によそよそしい。さっきの無駄にでかい態度はどこにいった。


「お主……まだ食事をとっておらんじゃろ? レイチェルが食事の代金を支払うからと一階のリビングに来いと言っておったぞ?」


「ああ……なるほどね。セナに呼んでくるように脅されて渋々きたからそんな顔してんのね。悪かったな、嫌々に来させて」


「ち、違う! ワシは自分から呼びに行くと言ったのじゃ! 勘違いするでない!」


「はぁ? なんでさっきあれだけ俺を嫌悪してたやつが急に自分から会いに来たがろうとするんだよ。そういうふうに言えって指図されたのか? あぁん?」


「違うと言っておろう! その……なんじゃ? さっきはすまなかった。ワシと同じく何の力も持っていないのに命を張ってくれたと聞いた。ワシが間違っておった」


 こいつ……急にどうした? あれか? ツンデレってやつか? いやいや、そんなの二次元にしか存在しませんから。一体このクソガキ……何を狙ってやがる?

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