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死を覚悟した男のあがきと糞ガキ-4

「セイジ! こっちだ! 急げ!」


 その時、エキセントリックバードの大群に紛れて家屋の影に潜り込んでいたのか、ヒロシとセナの二人が俺の目の前に姿を現す。


「もしかして? あいつら連れてきたの……お前?」


「ああ、ぶっちゃけ死ぬかと思ったけどな。だがもう大丈夫だ……ナイス時間稼ぎ!」


 そう言ってキラキラと汗を輝かせながら、ヒロシは俺に親指を立ててはにかんだ笑顔を見せる。


 主人公かよお前。もっとブサイクな顔しとけよ。


 ていうかなるほど、あまりにもタイミングが良すぎると思ったら、平原にいるエキセントリックバードをこの二人が誘導してここまで連れてきたわけか。


 あの大量のエキセントリックバードから逃げるヒロシの無様な姿を想像するとすごく面白い。


「セイジ! ……早くこっち!」


 ヒロシと喋っている間に、捕まっていた人質の元に先回りしていたのか、拘束していたロープを剣で斬りながらセナが叫び散らす。


「セ……セナさん? これは一体どういう?」


「説明……後! 早くここから……逃げる!」


 何が起きているのかわからないのか、村人たちは困惑した様子で解放された者から順にエキセントリックバードが来た方角とは反対の場所へと逃げ始めた。魔族が逃がすまいと追いかけようとするが、大岩の上で待機しているレイチェルの援護射撃によって捕まることなく逃げおおせる。


 そして、俺とヒロシも人質の解放を助けると、それに続いて走り出した。


「ま、待て! 貴様……魔族につくか人間につくか悩んでいたのではないのか⁉」


「知らん……何それ……怖い」


 去り際に魔王軍の隊長が俺に何か問いかけてきたが、俺は一蹴してそのままその場を跡にした。





「ふぅ……」


 魔族から逃げるために町を離れて再びモンスターの蔓延る平原に立ち、俺はセンチになってため息を吐く。平原は度々、空気の澄んだ風の吹き抜ける、モンスターさえいなければのどかで美しい場所だった。


「風に吹かれてなびく俺……どう?」


「すごく死んでほしい」


 折角、悲惨な過去を抱く主人公みたいにかっこよく言ったのにこの暴言、さすがヒロシ。


 こいつもうちょっと俺に優しくできないのかな?


「二人とも~! 早く行かないと魔族に追いつかれちゃうよ!」


 俺が心にダメージを負わされていることも知らず、村人を引き連れて先導するレイチェルは無邪気な笑顔をこちらに向けて手を振ってくる。


 現在俺たちは、さっきいた村から一番近い場所にあるらしい『センベル』と呼ばれる街へと移動していた。というのも、魔族の侵攻が近くまで来ているという連絡をする必要があったからだ。


 また、センベルの街は先程の岩に囲われた村とは違い、腕の立つ冒険者や傭兵、防衛設備もしっかりしているらしく、暫くは助け出した村人たちを匿ってもらう予定らしい。


 センベルの街と先程の村は昔から交流が深く、臨時の際は助け合っているとのことだ。


「勇者様……お疲れではございませんか?」


「喉は乾いておられませんか? 村から持ち出した分が少しだけありますので良ければ……センベルまでは半日もあれば到着しますので、お気になさらずお飲みください」


 そして何故か俺は今、村人たちから勇者と呼ばれてビックリするぐらい気を使われていた。


「まさか……魔族を騙すための演技だったとは、我々は誰も気付けませんでしたぞ? 絶望的な状況下で見事我々を救うために一芝居を打つその勇気……簡単には真似できません」


 如何にも村長らしきハゲた人が、嬉しそうに長い白鬚をいじりながらそう漏らす。


「いやいや、そういうのやめよ? 俺は勇者として頑張ってくつもりなんて一ミリもないから」


「……そんなこと…………ない。あの状況で……時間を稼げるの……凄い」


 ちゃんと時間を稼いで村人たちを救えたことで感謝しているのか、少し尊敬した眼差しでセナが俺を見上げてくる。


 確かに、俺もあそこまで上手くいくとは思っていなかった。


「ま、何はともあれ実際すごいと思うぞ? あんだけ時間を稼げるとは思ってなかったからな。多分もう死んでるだろうな~って思いながら駆け付けたらまだ生きてて草」


 そこで、ヒロシが珍しく俺を褒めてきた。褒めてるか怪しいけど褒めてきた。


「たまたま上手くいっただけだって。正直俺も、もう死ぬなーって思いながら適当にやっただけだし、相手の魔族がたまたま勘違いしてくれただけで、次に同じ状況になったら間違いなく死ぬからな?」


 しかし俺はつけ上がらずに、たまたま上手くいっただけで、そういう期待を抱かれるのは荷が重すぎることをしっかりと主張していく。正直二度とあんなのはごめんだ。


 それに……俺は勇者にはなれないという確信があった。


 いくら皆が俺を勇者だとか、勇敢だとワッショイワッショイしようが、俺が勇者に絶対になれない理由があるからだ。


 そう……あれは高校三年生の夏、とあるテーマパークに行った時のことだ。今となっては他人となってしまった俺の友人Aがジェットコースターに乗りたいとか血迷った発言をしてきたんだ。


 俺は迷わず「NO!」と言い返してやったよ。何故かって? もちろん、怖いからだ。


 正直、乗ってる時は割と怖くない。むしろ楽しい。ジックリと頂上に向かってレールが動いてる時も怖くない。だが、最初の頂上に上がってからの急降下、てめえは駄目だ。


 高いのが苦手なわけでもないし、急降下する寸前の景色はむしろいい眺めだと思う。


 だが、急降下した時に襲い掛かる股間へのダメージだけは耐えられない。そう、急降下した瞬間、多くの人が「きゃぁぁぁぁあ!」とか「ひゃっほぉおおお!」とか言ってる中、俺だけ股間に降り注ぐ謎のダメージによって「あひぃいいいいい!」と叫んでいるわけだ。


 結局「NO」と言ったのに、強制的に乗せられた俺は、案の定アヒったわけだが、その時、嫌な出来事に対して果敢に立ち向かうファンタジー世界の勇者さんたちは凄いなぁって心の底から思ったんだ。俺はもう一般人でいいやってなったんだよ。わかる? わかるよね? 


「話が長い上にたいした内容でもない。風に吹かれてなびかなくても死んでほしいレベル」


「股間丈夫オジサンには俺の気持ちなんてわからないよ!」


 むしろそんなに勇気があるならば、今後もヒロシ君には命をかけて頑張ってもらいたい。魂の宝具だってAランクだしなぁ? おぉん? 決して嫉妬してるわけじゃないけどなぁ? おぉ?


「そういやお前、パチンコ台は?」


「持ち運ぶのめんどくさいから捨てた」


「すぐに自分の魂の片割れを捨てちゃうセイジ君、19歳童貞」

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