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死を覚悟した男のあがきと糞ガキ-3

「あーあー⁉ 本当ならお前らの味方になる予定だったが……俺を殺そうとしたんだ。皆殺しにされる覚悟は出来ているんだよな?」


「ま、待て! 今のは部下の勝手な行動だ! 以後私の名誉にかけて勝手な真似はさせん! 今一度話を聞いてくれないか⁉」


「聞く耳もたない……と言いたいところだが、俺は慈悲深い。聞いてやるだけ聞いてやろう……しかし、さっきと同じ条件で頭を縦に振るわけにいかないぞ?」


「わ、わかっている……どうだ? 貴様も人間の男……人間の女が欲しいのではないか? 魔王軍として確固たる地位に加え、貴様に捕らえた女を好きにする権利をやろう……どうだ?」


 ハーレムと聞いて、俺の耳が勝手にピクピクと動いてしまう。仕方ないよね。


「お、お待ちくだされ来訪者の方! 魔王軍につかずともあなた様ほどの力があれば、地位も富も、そして女性に向けられる尊厳も思いのままです! ……どうか、どうかワシ達をお救いくだされ!」


「ええい! 黙れぇ村人風情が!」


「そ、村長! や、やめろ! 村長に手を出すなら俺を痛めつけろ!」


 そこで、俺に希望を見出したのか、村人の村長らしき人が勇気を振り絞って助けを求め始めた。


 いいぞぉ……俺にあんたらを助ける力はないが、そういう話題を提供してくれるのは非常に助かる。正直俺だけの話題でこれ以上会話を引っ張れる自信がない。はよ来てヒロシさん。


「とか言ってるけど……どうするんだ隊長さん?」


「ふん。いずれ支配される人間が何を言おうと無駄なことよ。……そういえば、貴様はまだこの世界にきたばかりだったな? 魔族と人間の情勢は知っているか?」


「まあ……ある程度は」


「魔王様は一度人間どもに敗北した時以上の力を得て蘇られた。それだけじゃない……我が魔王軍の全勢力もかつての五倍! 更に! 女神シズカールが呼びだす魂の宝具を持った者たちに匹敵する能力を持った御方たちも此度の戦争のために立ち上がられたのだ! 最早人間の敗北は必至! 我々魔王軍は日を重ねる毎に人間どもが保有する領土を奪い取っている!」


 それを聞いた瞬間、俺は瞬時に故郷を奪われたと言っていたレイチェルとセナの二人を脳裏に思い浮かべた。


 少なくとも二人はとてつもない力を持っている。そんな二人の故郷を簡単に制圧できるくらいなのだから、この魔族の隊長の言葉は嘘ではないのだろう。


「なるほどな。どうせ負ける方に味方しても結局地位も富も手に入らないから魔族に手を貸してた方がお得って言いたいわけだな」


「その通りだ。どうだ? どうせいずれ敗北する人間のために戦わず、私たちに手を貸さないか? それが賢明な判断だと私は思うがな」


「確かにな」


 納得したように呟いた俺の一言で、村人たちの顔が絶望に染まり、魔族連中は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「でもそれと俺をさっき殺そうとしてきたこととは話は別だよな? 仲間になったところで今みたいにまた殺されそうになったらたまらんからな」


 しかし、どれだけ魔族にメリットがあっても、嘘がばれた時点で殺されるから絶対に魔族につくことはない件。


「いいのか? これはチャンスなのだぞ? 敗北必至の人間ではなく、我が魔王軍の仲間に入れる未曾有のチャンス……それを棒に振るのか?」


「何今の説明で優位に立ったつもりになってんだ? 別に俺がその気になればいつでもお前らみたいな魔族連中に交渉を掛けて魔王軍に入ることは出来んだぜ?」


「一度蹴った話を再び出来るとでも?」


「お前たちを皆殺しにすれば一度話を蹴ったかどうかもわからないよな? 忘れてないか? 俺はその気になればお前たちをいつでも潰せるんだぜ?」


 再び醜悪な笑みを浮かべることで、魔族連中は再び戦慄してか頬に冷や汗を垂らし始める。


「そろそろ教えてやろう……俺の魂の宝具の真の力をな」


「し……真の力だと? セットすることで身の守りを確固たるものにする力じゃないのか⁉」


「誰が一言でもそんなこと言った?」


 隠された力が残されているという事実に、魔族連中は狼狽えた。無論、そんな力はないが、話を引き伸ばすために俺は魔族連中にも見えるようにCRガチムチ番長5を打ち始める。


 銀色の玉がキンコンカンコンと釘を打ちつける情けない音が響くなか、魔族連中と村人連中は俺のCRガチムチ番長5を注視し続ける。暫くして、銀玉が入賞口に入ったのか、ジャンジャンバリバリと激しい音が鳴り響き始めた。


「ま、まさか……き、きやがった⁉ 普段は全然来てくれないのにこんな時に限って……超、超、超激熱演出! 7テンパイの真! 男の友情激しく飛び散る肉体美リーチが来るなんて⁉ や、やべぇ……このままじゃ始まっちまう…………ガチムチRUSHが!」


「ガチムチRUSHだと……? 何だそれは⁉ 一体何が起きると言うのだ!」


「ガチムチRUSHを知らないだと⁉ 突入率20%、継続率90%ループのこの台最大の見所だぞ……⁉ この凄さが分からないのか⁉ どうして現実の世界で来ないでこんな時に⁉」


「つ、つまり……⁉」


 つまり、何もなく、とにかく場を繋ぐため、適当に言葉をでっちあげなければないのだが――



「「「「ぐぎょがごげげえげぇぇぇぇえあぁぁあああ⁉」」」」



 思考を回転させて必死に言葉を考えていたら、突如、村の外側から謎の叫び声が響き渡った。


 何事かと視線を向けると、そこには目を血走らせて頭を肥大化させ、首を高速回転させるブーメランパンツのムキムキマッチョマン……の群れが、陸上競技選手も真っ青な美麗なフォームでこちらに向かって全力疾走してきていた。


「こ……これが、ガチムチRUSH⁉」


「ば、馬鹿な! モンスターの中で最も獰猛と呼ばれているエキセントリックバードを自在に操るなんて……なんてヤバイ力なんだ⁉」


 そして何故か、こぞってそれが俺の力だと勘違いしてくれている。あんなやばいのを操るのが俺の力と思われるのはさすがに嫌なんだけど。


 いや、待って? このままだと俺も犠牲になるのでは?


「た、隊長! まずいです! 数が多く……総動員で当たってもこちらの被害は確実。その間に人質に逃げられる可能性も……!」


「わかっている! おい貴様……早くエキセントリックバードたちを止めろ!」


「残念ながらガチムチRUSHが始まった今、誰もあれを止められない。この俺でもな」


「んな…………く! 応戦する! 我に続け!」


 決め顔でそう言ってやったが、正直俺も焦っている。何これ? このままだと俺もあの鳥共に殺されるんですけど。


 今は魔族がなんとか応戦してくれているから耐えてるが、既にちらほら数体くぐり抜けてこっちに来てるし、レイチェルが弓矢でさばききれなくなったら俺は多分死ぬだろう。


 あの世でヒロシを探す準備始めないと。

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