死を覚悟した男のあがきと糞ガキ-2
「どういうことだ……? 何が……言いたい?」
魔族の隊長らしき男が、一歩前に出て俺に問いかける。
「まだどっちに着くかも決めていない今の段階で殺生はしたくないんだ。俺のポリシーっていうの? もちろんそれが決まれば容赦なく殺すがね……? 人間でも関係なく」
「人間を殺す……? 魔族に味方しても良いと考える魂の宝具をもった人間だと?」
要約すると俺は『死にたくなかったら人質を解放しろ』と訴えているのだが、向こう側からすれば「何を言っているんだこいつ」としか思わないだろう。突然現れた俺が強いかどうかもわからないし、中立を演じてても所詮は人間でしかなく、言葉の信憑性が非常に低いからだ。
だが、魔族連中はすぐに襲いかかろうとせずに俺を警戒しまくっていた。
無論、魂の宝具という、ものによっては国を揺るがす危険アイテムを俺がもっているというのもあるが、相手はそんな魂の宝具を持った連中と戦ってきた魔族の部隊だ。
普通に考えれば能力がわからない魂の宝具を相手にするなら、とりあえずどんな能力なのかを見極めるために雑魚をけしかけて確かめようとするのが普通だと思う。
「ふ……馬鹿かあいつ? 隊長、俺が軽くひねり殺してやりますよ」
「いや……待て」
しかし、奴らは何も仕掛けてこなかった。…………何故か?
俺がまるでモデル雑誌の表紙を飾るマッチョが如く、これでもかというくらいに胸を張って自身に満ち溢れたポーズをとっているからだ。
「……あの余裕……普通じゃない。この人数を相手に何度も戦った経験が確実にある」
魔族の隊長らしき男の頬に、汗が一滴垂れ落ちる。
腰を捻らせて手の甲を腰に当てて胸を張り、足をクロスさせた俺の威圧を突破できる猛者はそう中々いない。ヤンキーばっかの中学校時代、他校のヤンキーに絡まれた時もこれで何人も騙してきたほどだ。
無論、それだけで騙せるほどヤンキーも軍に所属する魔族も甘くないだろう。しかし――
「しかし隊長! 人間を裏切ってもいいなんて戯言を真に受けるんですか? 人間が何を言おうと信用出来ません! 隊長、俺に突撃の許可をください!」
「いや待て! はやまるんじゃない!」
「な……隊長⁉ あなたほどの男が一体何に臆しているというのですか⁉ 敵はたかが一人! 宝具を持っていようが、犠牲を覚悟で捨て身の攻撃を仕掛けるべきです」
「……私にはわかる。あれは……クズだ。何度も仲間を裏切り、嘲笑い、そして……殺してきた邪悪そのもの。……人間の皮を被った悪魔……殺人鬼の顔だ!」
俺は、自分でもビックリするくらい悪い顔が出来る。
たった今、魔族の男が言ったように邪悪の化身と呼んでも過言ではないくらい犯罪者臭のする顔が出来る。そしてそんな、人を殺すのが快楽とでも思っているかのような鋭い眼差しで、俺は今まで何人ものヤンキーと戦わずにやり過ごしてきたわけだ。
ちなみに、俺という存在を知っている母校の連中にはまるで効果がない。※すりごま参照
「さあ……どうする? 人質を解放するか、死ぬか……選ぶんだな」
「ま、待て! 貴様は何を基準にしてどちらにつこうと考えている?」
「それを聞いてどうする?」
「まだどちらに着くべきか考えている最中なんだろう? もしも我々魔族側につくと言うのであれば……好待遇を約束しよう。どうだ?」
「なるほど……それは悪くない。あんたの考え通り、俺が着こうと考えているのは、俺にとってメリットのある方になるからな」
そう、ここでポイントとなるのが、完全に敵ではないアピールをしたところにある。完全に敵であれば戦うしかないが、そうでないならリスクを避けて引き込めばメリットがあると考えるのは、どの世界でも共通の考え方のようだ。
面白いくらい転がされてくれて、俺は正直安心してる。お前ら好き。
「で……好待遇とは具体的に?」
だがまだ安心はできない。今回の目的はあくまで時間稼ぎ、油断すれば話し合いが終わって時間を稼げなくなってしまう。大事なのは、間引かせること。
「そうだな……私が上官に掛け合って、我が魔王軍の小隊を貴様にくれてやる……どうだ? 我が魔王軍の小隊長として魔王様に貢献に出来るなぞ光栄であろう?」
「いやいや、俺魔王のこと知らないのに貢献することが光栄って言われても『ふーん』って感じだし、何より魔族の小隊もらうのって、ただ人間と戦うための戦力もらえるだけじゃん……俺にメリットないだろ? 人間と戦う報酬として考えてくれないと困るんだけど」
無論、時間稼ぎのためにはどれだけ良い条件を掲示されても、俺は渋り続けないといけない。ちなみに今の条件はマジでクソだったので、半分素で言っている。
「き、貴様ぁああ! 隊長殿が下手に出ればいい気になりおって! もう我慢出来ん!」
「俺もだ……仕掛けるなら付き合うぜ!」
その瞬間、ずっと俺に嫌悪の視線を向け続けていた魔族の兵士二人が、それぞれ俺に向かって攻撃を企てる。一人は右手に持った槍を俺に向けて突進し、もう一体は何やら魔法っぽいピカピカ光る雷槍を投げつけてきた。
やっぱりこの世界魔法あんのかよ……怖い。
しかし、ここまではまだ想定通りだ。
「ぐぁ……何だ⁉」
俺に向かって接近していた魔族の兵士の肩に、突如飛来した矢が刺さり、魔族の兵士は地面へと転がった。そして、俺に向かって飛んできていた雷槍はパチンコ台にあたるとそのまま消滅してしまう。
「これが……俺の魂の宝具の力だ」
威圧感を籠めてひねり出した俺の低い声に、魔族連中は狼狽える。
一体何をしたのか? そんな表情で魔族も村人の連中も俺に視線を向けて震えていた。
「馬鹿な⁉ 我が雷槍は己の全ての魔力を籠めることで発動できる正真正銘の必殺技……! それを無傷でやり過ごすなどありえない!」
驚愕の表情で狼狽える魔族の一人に、俺は失笑し――、
「理解力0か……このまぬけがぁぁぁあああ⁉ さっきこの魂の宝具をセットした俺に勝ち目はないって教えてやったのに……もう忘れたのかこの鳥頭が⁉」
身勝手な行動をした魔族の一人に、追い打ちをかけるように罵詈雑言を浴びせかける。そして忘れずに邪悪な顔と、自信満々のポーズを取って力の差が本当にあるかのように思い込ませた。
「こ、こいつの魂の宝具の力は本物だ……D、いや確実にC以上のランクはある!」
そして予想以上に効果てきめんで、魔族連中は先程よりも俺を警戒した様子で各々武器を構え始めた。
ちなみに、どうやって防いだのかだが、とてもシンプルな方法で防いだ。
今も大岩の上で待機しているレイチェルに魔族が俺に近付いてきたら弓矢で射るように事前に打ち合わせしており、雷槍に関してはパチンコ台で普通に受け止めたってだけ。
そう、何故かはわからないがこのパチンコ台は何をしようが全く壊れない。
セナが全力で斬りつけても無傷だった。
正直、レイチェルが放った矢を俺の力と勘違いしてくれるか少し不安だったが、取り越し苦労だったようだ。混乱しているせいか、きっちり俺のこのパチンコ台の力だと思ってくれている。