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とびっきりの糞野郎がファンタジー入り-10

「その村も……もう魔王軍に滅ぼされた」


「ごめんねセナ……私が匿ってもらってたせいで」


「レイチェルのせいじゃない。レイチェルがいるのは魔王軍もわかってなかったはず。伝説の勇者の仲間の一族だから滅ぼしにきただけ。……レイチェルは悪くない。むしろ、私の命の恩人」


 それを聞いてこのパーティー不幸な人集まりすぎでしょって思ったのはきっと俺だけじゃないはず。俺とヒロシはあれだ、この世界に来てしまったことがもう不幸だから。


 そして何やら、セナもレイチェルと同じ匂いが漂い始めている。


「レイチェルがいなかったら今頃、私は死んでた」


「族長に頼まれちゃったから……『孫をよろしく頼む』って、でもでも、頼まれてなくても絶対にセナとミナは守り切るつもりだったけどね」


「族長ってことは……もしかしてセナがその伝説の勇者の仲間の子孫とか?」


 そこでヒロシが俺もそろそろ気になっていたことを問いかけた。予感は的中し、セナはどこか気恥ずかしそうに頷いて答える。


 前言撤回しよう。最初に、ライトノベルとか漫画とかアニメが特別すぎたとか言ってたけど、俺が遭遇している展開も中々レアなケースな件。まあ、凄いし珍しくはあるけど、今のところ未来に絶望しかないので夢はないが。


「魔界に通じるゲートに近いって言っても、広大な森の中にある村だから見つからないと思ってたのに……皆、殺されちゃった。魔王軍の勢力がどんどん力をつけてることにもっと早く気付いてれば……」


「だから王都に向かってるのか」


 王都に向かっている理由がわかり、ヒロシは「なるほど」と納得する。


 ちなみに、セナとレイチェルが王都に向かってるのは、徐々に拡大している魔王軍の勢力に王都内にいる兵力だけでは対処しきれなくなり、魔王軍討伐のための兵士を王都が募集し始めたからだとか。


 賃金も良いらしく、実力があれば誰でも入れるらしい。つまり俺は入れません。


「あ、ところで今ミナとか言ってたけど。今向かってる村にいるお仲間のこと?」


「うんそうだよ。セナの妹のミナ! それともう一人、たまたま村に立ち寄ってて私たちを魔王軍の襲撃から守ってくれた戦士の男性がいるんだ。きっとセイジとも話が合うと思うよ! もうすぐで着くからすぐに紹介するね!」


 その男性とやらのことはどうでもいいが、セナの妹とやらは少し気になる。きっとセナに似て美少女なのだろう。セナは少し脳みそ筋肉なところがあるが、妹キャラってのは健気で清楚なのが定番。こりゃ会うのが楽しみになってきた。


 でだ、そろそろ着くという村がここから見えてるわけだが、その村とやらから煙がモクモクと焚きあがってる件。レイチェルとセナは気付いていないっぽいが、いや、というかこの距離で気付いていないとかこいつらヤバすぎる。


「あ、もしかしてその仲間がいる村とやらは煙がモクモク焚きあがるのが普通なの?」


 と、そこで俺が指摘すると、セナとレイチェルは表情を青褪めさせて、頬に汗を垂らしてこの世の終わりかのように焦り始めた。いや、気付けよ。


「ど、ど、どうしようセイジ⁉ え⁉ というよりどうして村に煙が⁉ 一体何が⁉」


「……ミナが危ない!」


 やはり普通じゃなかったのか、セナが必死な形相で駆けだし始める。それを俺は、ガシッと肩を掴むことで制止させた。制止させるのに十数メートル引きずられたが気にしない。


「セイジ……止めないで」


「まあまあ落ち着けよ。普段ああいう煙が上がらないなら、異常事態だと判断して焦る気持ちはわかるけどさ、その異常事態が何なのかによる」


「私の実力……セイジはさっき見た。どんな異常事態でも関係ない……私が倒す」


 いつまで経っても手を離さない俺に、セナは鋭い睨みをぶつけてくる。しかしここで俺が手を離すわけにはいかない。何故なら、俺が生き残る確率を少しでも上げるためだ。


「ここでお前一人が先走っても仕方がないんだって。行くなら皆で行こうぜ?」


「悠長にしてる暇なんて……ない!」


「いや、セイジの顔つきも声のトーンも真剣だ。ここは大人しく聞いておいた方がいい。さっき言っただろ? セイジは生き残る術に関しては右に出るものはいないってさ」


 その時、珍しくもヒロシが俺をフォローして、セナが先走ろうとするのを止める。


「友達がいなさすぎるせいで、シミュレーションゲームと戦力系ゲームと恋愛ノベルゲームをやり尽くしたこいつの展開想定力は中々凄いぜ? 友達がいなくて気持ち悪いのがこいつのコンセプトだが、それでも、その力を駆使してあらゆる人間を利用しつくした結果、ヤンキー共にパシリにされたこともいじめられたこともないくらいだ。そのせいで友達がいないけどな」


「さっきから一言二言余計すぎません? そろそろ泣きそう」


 だがそれを聞いても先走りたいようで、セナはさっきから「むぅ~!」と可愛らしい声をあげて必死に俺の制止を振り切ろうとしている。そろそろ俺の腕がもげそう。


「でもセナの行動はおかしいことじゃないと思うよ? こうしている間にも……皆が危ないかもしれないし! 早く助けにいかないと!」


「早く行くのは別にいいが、全員でだ。それと、いきなり村の中に入るのもNG」


「どうして⁉」


「お前らの仲間があの村にいるんだろ? あと、こんなモンスターだらけの平原の近くにある村ってくらいだから護衛だっているはずだ。もしお前ら二人が助けに行って何とかなるような状況なら、その護衛とお前らの仲間が何とかする」


「だから焦らなくてもいいってこと?」


「いや? それは何とかなるような状況だったらの話な? 何とかならない状況なら、お前ら二人が向かったところでどうしようもないってことだよ。お前らがこの世界においても群を抜いてとんでもなく強いってなら話は別だけど、聞いてる感じ、勇者パーティーの子孫ってだけでめちゃくちゃ強いってわけじゃないみたいだし」


 ちなみにそれはこの世界における話であって、俺らから見れば恐ろしく強いのは間違いない。


 魔王軍の襲撃から二回も皆が殺されている中を逃げているくらいだから、戦況をひっくり返すだけの力はないと判断しての発言だ。そもそも二人とも女の子だし、片方に至ってはまだ小さいガキだしな。


 そして俺の予想通りなのか、セナは俺の言葉を理解すると先走ろうとするのを止め、犬のような耳と尻尾を垂れ下げた。

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