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二番煎じの転生者  作者: きゅうとす
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二番煎じのお仕事

汚名返上?


うーん、皆が喜んでくれれば良しとしよう。

承章1 始まりの村 アデル⑦


僕の名前は八神直哉(ヤガミナオヤ)

どこにも居る普通の中学生だ。でも、ちゃんと仕事も出来る男でもある。


改めてメディアさんと向き合う。メイちゃんのお母さんと言わなければとても子持ちの女性とは見えない。髪は軽くウェーブの掛かった青緑である。流石に親子だから青緑はメイちゃんも同じでもあるけど、メイちゃんには少し銀色の髪が混じっている。メリダさんの髪はメイちゃんと同じく銀色が混じっている。魔力の高い者の特徴が銀色の髪ならメイちゃんもメリダさんと同じく魔力が高くなる兆候なのだろう。


「メリダさんから5年前の彼にまつわる事件を一番詳しく知っていると聞きました。何があったのか教えて頂けませんか?」曖昧に訊くことが出来ないので反問されることを覚悟の上で素直に話しかけることに僕はした。

「ご、5年前の彼の事件の事なんてあなたには関係ないのではなくて?」少し目が泳ぐメディアさんに真っ直ぐ向かう合うことで僕に他意が無いことを示しながら「彼は僕と同じ同郷なのかも知れないんです。しかも僕が探している相手かも知れない。」と隠し事が無いことを強調した語意ではっきりと僕は言い切った。

少しの間迷いながらもメディアさんは自分の思い込みが入っているかも知れないけれどと断りを入れながら話し始めた。


彼がノワールにやって来たのは始まり亭のオーナーの紹介だったと思うわ。一人で入って来るなり一番のお薦めを注文したわ。調理したのは私だった。確かオークのステーキだったかしら。オーソドックスな料理だったから軽い気持ちで作ったわ。でも、彼には気に入らなかったらしかった。不味いって怒ったわ。突き返されたステーキを食べたけど特に問題ない味だったんだけど。当然、彼と口論になったわ。

彼は肉質が悪い、味付けが悪い、焼き方が悪い、切り方が悪いって全てを否定したわ。だから当然彼に調理させたわ。だって凄く偉そうに言うんですもの。なのに彼のステーキなんて私が作ったものより全然美味しくなかったのよ。偉そうに言う割には彼は料理出来なかったのよ。でも、自分の言うとおり作れば絶対美味いと譲らなかったわ。その時オーナーがやって来たわ。オーナーに抗議したけどオーナーは彼の味方で私に彼の言うとおりに作れと命令したのよ。調理場の皆も反対したけどオーナー命令には逆らえなかった。

仕方ないから彼の言うとおりにしたわ。彼はオーク肉の内臓に近い肉を使え、肉筋を断ち切るように切り込みを入れろ、塩と胡椒を擦り込め、肉の温度を下げろ、脂はオーク肉のものを使え、強火で焼け、直ぐに返したら蓋をして弱火で火を通せ、脂の音が変わったら出来上がりだ!って指導したのよ。

彼が満足するまで何度もやり直しさせられたからすっかり覚えたわ。確かにそのお陰でオーナーも満足するようなオーク肉のステーキになったわ。オーナー命令で次の日からそのステーキを出す事になったわ。調理は出来ない癖にその知識には驚かされたのは確かよ。だから当然調理場の皆も彼を少しは見直したのよ。でも、私は胡散臭いと思っていたわ。彼の知識と態度は生半可って言うのがぴったりだったの。

でもオーナー命令だからオーク肉のステーキを作ったわ、彼だけに。だってそのステーキは手間が掛かりすぎたし、一頭から2枚しか採れなかったし、貴重な胡椒を結構使っていたのよ。

オーナーが彼のアイデアで低温で肉を保管できる箱を作ったのは調理場としては大歓迎だったわ。酷いものだけど今でも使ってる。でも、彼の為だけの胡椒は直ぐに在庫切れしたのよ。胡椒はとっても貴重なの。ステーキ1枚に金貨1枚の胡椒が必要だったんですもの。だから次の日には作れなくなって、流石のオーナーも諦めたわ。塩だけのステーキって今までと変わらなかったから。


別の日にはオーナーが卵が無いかと訊いていたことがあったわ。卵も貴重よ。胡椒と同じくらいなの。しかも日持ちしないし。

一緒に訊かれたのは乳だったわ。乳は始まりの村では採れなくて、隣村のイーナの雌牛からしか採れなかったわ。ノワールに売って貰えていたのは壺一つ分だけよ。乳の出ない母親の為にわざわざお願いしていたの。それを寄越せと言われたわ。彼がプリンというデザートを作るんだと言うのよ。ステーキすらちゃんと焼けない彼に何が作れると言うのよねぇ。彼に傾倒していたオーナーには逆らえなかったわ。彼がノワールに来て調理するのを見ていたけど結局は無駄にしたわ。何がしたかったのよって思ったわよ。結局、彼に振り回されて散財した始まり亭のオーナーは借金の為に始まり亭を閉めるしか無かったし、ノワールだって村長に買い上げて貰えたから続けて来られたのよ。他にも彼を信じてお金を貸して破滅した人が沢山いたわ。

最後に姿をくらます前日に言った言葉は“自分は悪くない“だったわ。非道い話よね。胸が悪くなる思い出だったから話したくなかったんだけどメイの恩人に頼まれちゃったら仕方ないわ。


話を聞いて僕は呆れていた。小学校の高学年の頃、料理に凝ってコンテストでも入賞した経験がある僕だから分かる。現代知識をそのままこの世界で適応しようなんて無謀な試みだろうに。


彼の置き土産の“冷蔵庫“を見せて貰った。木で出来た冷蔵庫は周りがびっちょり濡れていて、中は霜だらけだった。上蓋を外すと氷の塊があり、融けた水がそのまま庫内に流れ出てしまう構造をしていた。

嘆息するしかない状態だった。余りに杜撰(ずさん)な冷蔵庫だった。ただ一つ使えるところがあったとしたらそれは氷魔法を使った事だろう。氷魔法はノワールで調理をしているメルザさんが確認しながら、とりあえず冷蔵庫の水気を拭き取ってから冷蔵庫ごと凍らせていた。

豪快な冷蔵庫だな。笑うしかない。

冷蔵庫を使う前は地下室を使っていて食材をいちいち取りに行かなくてはならなかったから冷蔵庫が便利なことは便利ならしい。


ノワールの現在のオーナーは村長だからメディアさんに少し話をして一緒について来て貰った。村長の家は一度メイちゃんと来ているが屋敷と言うほど大きくは無い。メルザさんの家の2倍程であり質素な造りをしていた。5年前の後遺症らしい。

村長に今回の目的を告げると「所詮二番煎じだろうが・・・」と言いつつも了承してくれた。

彼が失敗した冷蔵箱を作ろうと思う。冷蔵箱(icebox)は、(電気式の)冷蔵庫が実用化される前に使われていた家庭で氷を使って冷蔵するための機器である。電気式のものと区別する場合には「氷式冷蔵庫」などとも呼ばれる。1803年にアメリカ、メリーランド州の豪農トマス・ムーアにより発明されたものだ。家具調の豪華なバージョンもあり、一部の用途では現在も使用されているものだ。

材料は何とかなると思う。今一度メルダさんの所で確認が必要だがノワールで使う一台分は足りる筈だ。それから鍛冶屋でたらいを3種類程作って貰う為に向かい、話をすると夕方には出来ると言う。流石にプロは仕事が速い。ベースは彼が作った冷蔵庫を流用する。

メリダさんの家にメイちゃんと帰ると早速メリダさんに必要な物のことを言う。やっぱり不要物として燃やす積もりでいたようだ。これで材料は揃った。明日は自分の魔法力を試される、そして、氷魔法の秘密も確認出来る筈だ。楽しみだ。


朝一から鍛冶屋に行くとメゾンと言う名前のごっつい親父さんがたらいを用意していてくれた。代金は村長のツケだ。その足でノワールへ行く。

ノワールは今日は臨時休業して貰ってある。だって皆が注目していて仕事に成らないからだ。昨日の内に氷を取り除いて中身を抜いておいて、綺麗に拭いて置いて貰った冷蔵庫のドアを外すと『たらい1』をセットして、アイテムバック(実はインベントリー)からメリダさんの所でゴミ扱いされていた物で隙間を埋める。ドアに魔素を満たし、木魔法を使い窪みを作る。その窪みに同じように隙間を埋めて金属の板を嵌め込む。ドアをはめ込み、開閉を確認する。大丈夫なようだ。冷蔵庫の下に下駄を履かせ、『たらい3』が置けるスペースを作る。ここまで約1時間掛かった。冷蔵庫を立てて、氷を入れる部分の蓋を外す。『たらい1』の上部分が見える。予定通りだ。『たらい2』を置くとメゾンさんが水をたらいの半分程溜めた。これからメゾンさんが氷魔法魔法を使う。

低い小さな声で詠唱が始まり、魔素がメゾンさんから流れ出て水を覆う。メゾンさんの魔素の波長に合わせて視覚化しているから魔素の流れが見えるが、皆には詠唱しか聞こえていない。メイちゃんが不思議そうに僕を見つめている。見るものが違うんじゃないかな?心の中でメイちゃんに突っ込む。

詠唱で火魔法の行使を告げられると火魔法の中級、氷魔法が発動する。水の中から熱が奪われ水が氷に変わって行くにつれて、その上にファイアーボールが生まれた。ファイアーボールはメゾンさんの魔素の干渉を受けて消滅。氷魔法の完了となる。上蓋を閉めて作業完了だ。

火魔法は初級しか使えない僕だが氷魔法の魔素と魔力の流れは記憶した。後で試してみよう。

それよりは新生の冷蔵箱だ。メディアさんを促してドアを開けて貰う。氷の冷気が湯気のように下に流れていく。ひんやりとした空気が心地いい。手を翳して僕を振り返り、にっこり笑ってくれた。

「大成功よ」と言うメディアさんの言葉に全員が湧いた。良かった。これで彼の汚名が一つ返上出来た。同郷であるらしい事を恥じないで済みそうだ。


5年前の冷蔵庫事件に関わった人達がその後続々と訪れ、喜んでくれたようだが最後には微妙な表情になったそうだ。5年前にちゃんと彼がやっていれば皆ハッピーだった筈だからだ。

メリダさんの所に帰ってきてメリダさんに言われた。「二番煎じとはいえ感謝してるよ。」

うーん、やっぱり二番煎じだよね。



この世界の神話を紐解くついでに便利グッズ作成?


二番煎じとは言わせない!

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