土塁と海と
謎の前転生者“彼“に迫る!
承章1 始まりの村 アデル⑥
僕の名前は八神直哉。
どこにも居る普通の中学生だ。でも、メリダさんの所の居候でもある。
土塁と言っても様々なものがある。日本の場合はお城のお堀の内側にあり、土塁の上に城を建てる。だから、城にはお堀が有るのが通例である。から堀が多く、水堀は大きい城に多い。
だから、日本人に取っては土塁はぴんとこないものと言えるがその土塁は村にあるには群を抜いていた。堀の深さ約2メートル、塁の高さ約1メートル幅2メートルと言う威容である。掘り返した土をそのまま塁にしたらしく所々崩れていたが数年経っても殆ど崩れていないのは並みの土塁では無い。だから、土塁を作っていた時の魔力を想像して震えてしまった。
魔素=魔力では無い。魔力は魔素の量とは関係ないのだと思う。魔力を生み出すものはその人が持つ何か他のものによるのだ。意志を働かせる事により魔力が働く。だから、意志の強さが高い魔力を生み出しているとも考えられる。まだ仮定にもなっていない。
少なくともその土塁からは魔法を使った者の意志の強さの残滓を感じるのだ。魔法という暴力が吹き荒れたと分かる。上級魔法の破壊力は数年経っても使われた魔素を残すらしい。
魔素の流れ、魔力の強さどれを取っても破格の痕跡だった。
自分の魔素で少しだけ魔力でその痕跡をなぞってみる。魔素が吸い込まれるように流れ出て発揮された土魔法が再現された。
ごしゃっと土が掘りから掬い取られ、塁の上に投げ捨てられ、圧縮される。慌てて魔素を引っ込めて魔法の発動を抑えた。そのままの魔素の流れではほんの数分で魔力切れと言う現象を起こして倒れていただろう。まるで、実際にシャベルを使って数時間も土を掘り起こしたかのような疲労感を感じた。
いくら初級しか使えないからと言っても余りに効率が悪い魔法に思えた。多分、級に依る逆ヘッジが効いて魔素を失ったのだろう。それにしてもこれだけの塁を数100メートルも造り上げた彼の魔素の量は異常と言えた。上級魔法使いのメリダさんと比較しても二桁以上違う魔素の量だろう。
初めて振るった土魔法を見たメイちゃんは盛んに「凄いね!凄いね!」ってはしゃいでいたけど、そこそこ魔素を失った僕はメイちゃんと土塁の端までトボトボと歩くことにした。
土塁の真ん中あたりで数人の子供達が遊んでいてメイちゃんに声を掛けてきた。「一緒に遊んでいて良い?」と聞かれたので、海岸周りで村中まで戻り、ノワールに行くよと答えた。ちょっとメイちゃんは考えたけど子供達にまた後でねーと言っていたから僕について来る事にしたらしい。
小さな砂浜の先には岩場が続き、直ぐに港になっていた。数隻の小舟が繋がれていたが誰も居なかった。漁場の建物や併設されている売り場に人を見かけたがメイちゃんを見て軽く手を振だけで何も言われなかった。アデルの村では余り漁業は振るっていないようだ。
メイちゃんに聞くと海岸線から2キロも離れると魔物に襲われて魚を採ることが出来ないらしい。だから、取れる魚も小さいものだけで村で食べる程度しか採らないと教えてくれた。
港から村の中心に向かって歩いていくと食堂『ノワール』に着いた。早速メイちゃんはキッチンまで行ってしまう。僕は窓際の適当な席に着くと飲み物だけをオーダーした。そろそろ手すきな時間になるからメイちゃんの母親のメディアさんがやってくるだろう。ちゃんとメイちゃんにはメディアさんと話がしたい事を伝えて貰ってある。お母さんに甘えたいだけでメイちゃんはキッチンに向かったのではなかったのだ。
メリダさんに彼の話を聞いた時食堂ノワールでの彼の事件にメディアさんが深く関わっていたと話したのでその出来事を訊こうと立ち寄ったのだ。
程なくメディアさんがメイちゃんとやってきた。
「お待たせしました。何か訊きたい事があるとか、メイの恩人ですもの何でも訊いてください。」と席に着くなり言ってくれた。メリダさんから聞いたことを断って彼の事件について何かしっていることがあったら教えて欲しいと言った。
そして、彼の驚くべき所業を知ったのだった。
どんな目的があるというのか!
彼とは何者なのか