殺傷者ジャック
殺傷事件の犯人が見つかりました。
追い詰めた筈ですが・・・
承章4 学術都市ディービアの陰謀⑤上
僕は転生者にして、大好きな聖女告白した八神直哉です。
イプシロン魔法大学校の講師のサロモン教授から冒険者としての依頼を受けた。ギルドを通さない、所謂お願いと言う奴である。
サロモン教授の孫娘サリア≪9歳≫がイオタラ魔術研究所付近で暴漢に襲われ怪我をした事件で犯人探しを頼まれました。
普通なら学術都市ディービアの防衛騎士が犯人探しをするのだが、一向に解決されず、このままでは迷宮入りになってしまうのではと危惧した被害者の関係者が任意で動いた結果である。
サリアを含め8人が腕に怪我をして高熱を出して一週間ほど寝込む事になったのだ。幸いなのか怪我は大した事は無く全員ヒールで治っており、実害は高熱で寝込むと言う事だけな為か、ディービアの防衛騎士の動きが鈍いのだそうだ。
そこでサロモン教授が代表で信頼に足る冒険者に頼むと言う話なのだ。
うーむ、サロモン教授とは気が合ったけれど、会ってからまだ一週間と経っていないのに信頼して大丈夫?
もちろん僕が暴漢と言う訳では無いが軽すぎないか?
話を受けたのはジャロンに言えばそれなりにディービアの防衛騎士を動かせるのと、事件の詳細を入手出来ると踏んだからに他ならない。
ババロンの空中庭園にまで招待したのはそんな下心が有ったからである。たびたび連れては来れないからババロンの空中庭園の中央施設のソリオと話だけが出来る限定機能指輪を渡したのだ。
貰ったジャロンにはくれぐれも他言無用と言っていたが“早とちり(ジャロン)“にはどうなのか心配ではある。
それよりも、問題はセラだ。
なんとか告白はしたが、回答が曖昧でなんとも気持ちが中途半端なのだ。
セラの体験を考えれば致し方ないとは言えるがもどかしい。
肝心な聖女様は公務の慰問でまだ暫くは学術都市ディービアにいるそうだが、忙しくて逢えそうに無い。
疲労で夜もバタンキューで無理だろう。
イオタラ魔術研究所暴漢事件の事はセラからも聞いている。リリア達学生の間でも話題になっているらしい。
そのためイオタラ魔術研究所付近には人影が少ない。
同じような事件が起こりにくい状況ではある。
ジャロンから受け取った情報では被害者達はほぼ同じくらいの時間、夜の7時頃で沢山人がいるにも関わらず襲われている。
襲われた人の共通項としては10歳以下の少女としか分かっていない。
全員回復してそれぞれ家に居るが怖くて外出もままならないそうだ。
犯人を見た者は誰もいないにも関わらず凶器については目撃者が多数居る。
凶器は変わった形をした短刀だそうで、持っている犯人も一緒に見ている筈なのに顔が分からなかったと言うのである。
何らかの認識阻害アイテムを使っているのだと思われる。
だとしたら、イオタラ魔術研究所の研究員に聞くだろう。
情報では誰もそんな研究はしていないし、知らないと答えたと言う。
でも、僕は犯人はイオタラ魔術研究所の人間ではないかと睨んでいる。
このままだと、犯人の目的が僕の見立て道理なら必ず同じような被害者が出るだろう。
さて、サロモン教授の紹介状を持ってイオタラ魔術研究所に乗り込もう。
イオタラ魔術研究所は学術都市ディービアの北西に位置し、変わった形をした研究所である。殆どの建物が1階建てなのに3階まである建物などが繋がったりしていて、とても複雑な形をしている。
これは始まりが特殊研究と言う事で小さな施設から始まり、研究成果が上がるに連れて建て増ししてきた結果ならしい。
その内の一つの3階建ての建物にやって来た。入り口には『イオタラ魔術研究所・事務局』とある。
ここでサロモン教授が紹介してくれた人物と会うのだ。
中に入ると既に件の人物は待っていると言う。
早いだろう!
まだ、約束の時間には30分以上ある。もしかして暇なのか?
事務員の案内で応接間に入っていくと、その人物はテーブルに書類を広げて、ぶつぶつ呟いていた。
こちらに気が付くと、さっと書類を纏めてカバンに詰め込み、立ち上がり、近寄って来た。
「初めまして、イオタラ魔術研究所、エル・ランティのデッシャですわ。」
サロモン教授から預かってきた紹介状を渡しながら「宜しくお願いします、ナオヤです。」と左手を出す。
デッシャは両手で僕の手を掴むと必要以上に振った。
と言うかとても汗臭い。
デッシャは巨漢でありながら胴回りも同じくらいありそうな太った男だった。
「何でも、魔法陣に興味があるとか。」
「ええ、付いてはその聴講の許可を頂きたくてご挨拶に来ました。」
「無論、サロモンの紹介もありますが興味を持って頂けるのは大歓迎ですよって、ラサメア辺境伯爵の懐刀殿。」
ちょっと!その恥ずかしい呼び名はやめて欲しい。
少しにやついているデッシャが気に食わないが、取り敢えず次の話だ。
「ところで、このイオタラ魔術研究所の近辺で傷害事件が多発した事をご存じですよね。
その犯人がこの研究所にいます。」
デッシャが少し身を引く。
「一体何のことでっしゃろ」
周りをきょろきょろ見回す。ここにはデッシャと僕と僕を此処に連れて来た事務員しかいない。
僕は何もデッシャが犯人だなんて言ってはいない。
でも、デッシャは関係者であることは確かである。
「都市長ディビアス・ジャロンから許可を頂き、僕が捜査を引き継ぎました。それで、被害者の少女達7人全てから事情聴取させて貰ってこちらに来たのですよ。」
なんとなく分かったような怪訝な顔をしているデッシャに追い討ちを掛ける。
「犯人に繋がる証拠からこの施設に犯人がいるのが分かったと言うことです。」
驚きにデッシャは身を揺らせて言葉に詰まる。
「で、そいつは誰でっしゃろ。」
「名前までは分かりませんが居場所は分かります。捕まえるので一緒して貰えますよね。」
僕がデッシャの逃げ道を無くすような言葉を紡ぐので仕方無く頷く。
立ち上がり、僕が先導して歩き出す。レーダーには表示が見える。
デッシャは書類もそこに置いてついて来る。
「こっちは何の施設ですか?」と言う僕の質問にデッシャが
「魔法陣の研究施設ですわ。刃のある剣から刃の効果を消す魔法陣を作ろうとしてます。主に練習や決闘などで使う剣の効率を上げるためですよって。」
そう言いながらも僕とデッシャは先に進む。階段を上ったり曲がったりして迷路のような建物の中を進む。やがてあるドアの前で立ち止まった。
「ここですね。誰の部屋か分かりますか?」
デッシャの顔が驚愕に染まる。
「ここは!第2研究員のジャックの部屋ですよって。」
入る前に一応確認する。
「どんな人ですか?」
少しデッシャが考えて言う。
「主任研究員のジョセリンの推薦で半年程前に入った男で年は確か16。研究熱心で明るい裏表の無い奴の筈ですわ。
面接はわいがしましたし、身寄りは無いって言ってましたな。
そう言えば最近研究に目処が着いたと言ってましたわ。」
デッシャが話している間もレーダーで居場所を確認していた。部屋の中に確かに誰かいる。動かない所を見ると寝ているのかも知れない。
デッシャが入るぞと声を掛け、ドアを開いて中に入る。がしゃ、ドアノブの音がやけに大きく聞こえた。
どう!ファイヤーボールが飛んできた。デッシャを突き飛ばし、逃がす。
炎魔法で攻撃して来た男が窓を割って逃げ出した。
「待て!!」
僕は男を追った。
部屋を振り向くと炎が広がり火事になっていた。
男は複雑なイオタラ魔術研究所の中を駆けていく。僕が瞬足を使っても右に左に逃げて行くため追いつけないでいた。
イオタラ魔術研究所を出て近くの公園で男に追いつき、前に回る。
「やっと追いついた。もう逃げられないぞ、ジャック」
立ち止まったジャックはフードを被り、肩で息をしている。片手には鞄を掴んでいる。きっと研究成果だろう。ジャックが声に出した。
「お前は誰だ!」質問には答えずに僕は言う
「お前が傷害事件の犯人ジャックだな。なんであんな事をした。」
「傷害事件なんて知らん!お前が追いかけてくるから逃げ出しただけだ。」
白々しいセリフに僕は警告をする。
「釈明は都市長ジヤロンの前でして貰おう。」
既に魔素でジャックの手足はロック済みである。いきなり振り向き、手にした魔石を地面に打ちつける。同時にジャックの手足から血が噴き出る。
ぐぁ~
ジャックが叫ぶ。ジャックの行動を縛るためにウィンドボールで破砕したのだ。
ジャックは痛みで逃げられない筈だ。
痛みで転げ回るジャックが打ち付けた魔石から現れたのは巨大な蛇の魔獣ラミヤであった。全長は10メートル超、頭のところには女性の上半身が生えている。豊満な胸を持つ彫りの深い顔は石を掘り出した能面のようで、表情を変えない。その口が開き、牙を見せ吼えた。
ぎいゃややややぁ~
いてえ、いてえ~ 手がぁ~
ぎゃぎゃぎゃあああ~
いてえぇ~ 足がいてぇ~
ジャックが叫び、ラミヤが吼える。
魔獣ラミヤに対処するために少しジャックから離れたその時
「!」
僕は全力でその場を離れた。横方向の縮地なんて初めてやった。
僕が立っていた所に見知らぬ女が立っていた。
強敵現る。
ナオヤの運命は?




