始まりの村
村に着きました。
出会いが始まります。
承章1 始まりの村 アデル①
僕の名前は八神直哉。
どこにも居る普通の中学生だ。
この世界には中学は無いけどね。
目を開けると青空が見えた。
木々からの木漏れ日が眩しい。
どうやら大木の根元で横になった状態で転生したらしい。
左手の時計を見る。
9時ちょうど。暑くも寒くもない。
普通の麻色のシャツと紺色のズボン。それと裸足に木靴。
何処かの芸能人か!
身を起こして周りを見回す。芝生に似た雑草が生い茂る広場に背にした大木があるようだ。
左手を雑草に向けて「鑑定」と言う。
『グラス草:普通に生えている雑草。食べられない。』
おお、ちゃんと鑑定が働いてる。
立ち上がって大木に鑑定を掛けてみる。
『始まりの木:転生者の起点。不抜不倒。一年中変わらない。』
やっぱり普通の大木じゃなかったか。
時計に向かって「インベントリー」と言う。
時計から空中に光が伸び、収納されているものが表示された。
升目は10程あったが表示されたのは自転車、金袋、それとなぜだかカード。
何だろうとカードを見つめたら左手の前からカードが落ちた。
右手で拾う。そして「鑑定」発動。
『身分証:あらゆるギルドの所属を証明するカード。紛失しても必ず戻って来る便利機能付き。』
なる程、転生者と名乗ったくらいじゃあ信用して貰えないものね。
身分証を収納して金袋を出す。袋の中身は貨幣だった。
土が剥き出しの所でお金を広げた。餞貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨が数枚入っていた。
うん、親切だ。
価値が分からないから鑑定を掛ける。
「餞貨:貨幣の基本通貨。子供のお駄賃程度の価値。」
「銅貨:餞貨の10倍の価値。露天の焼き串程度の価値。」
「銀貨:銅貨の10倍程度の価値。一食程度の価値。」
「金貨:銀貨の100倍程度の価値。ひと月金貨三枚で生活出来る程度の価値。」
「大金貨:金貨の10倍程度の価値。一枚で一年は暮らせる程度の価値。」
なる程、助かるかな。
さすがに大金貨は一枚しか無かったが、取り敢えず宿に泊まって、食事が出来るだけのお金が入っていた。
・・・まさか、無限にお金が出てきたりしないよね?
お金を拾って金袋に戻し、インベントリーに収納する。
「さてと、行こうかな。」木々の向こうには村らしい建物が見えたので、取り敢えずそちらに向かうことにした。
道々魔法を試そう。
まず、ファイヤーからかな?
人差し指を立てて「ファイヤー」と唱える。
あれ?何も起こらない。
何か秘密があるのかな?
後にしよう。
腕時計の機能は他にもあったかな。
確かプロテクトが使えた筈だ。「プロテクト」と言ってみる。
ブーンと甲高い音がして発動する。左手の前に50センチ四方の半透明の膜が出来た。
うん、これは楯だな。
左手を動かすと一緒に付いて来る。
もっと大きくならないのかなと楯を見ると左手から力が抜けていくと同時にプロテクトの盾が大きくなった。重くなったのではなくて力が盾の大きさに変換されたようだ。
どんな性質があるんだろう。このまま鑑定出来るかな?「鑑定」と言ってみる。
「プロテクト:神器に付与されたレアな魔法。ガードの魔法の上位互換。意志に従って形を変えることが出来る。主に魔法、物理、化学の力を防御する。心理の力は防御出来ない。」
おお、出来た!!
じゃあ次はマップだな。
「マップ」と腕時計に言うとインベントリーのような投射がされた。升目は無い。
中央部分に緑色の光点があり周囲の表示がされた。でも一部分の表示で他は暗転している。
あ、これは知っている所だけしか表示出来ないんだ。
使い方に制限があるな。
多分、一度見た地図を再表示したりするなら使えそうだ。
う~ん、もう他に機能は無かったよね。
鑑定はもっと使い道がありそうなんだけどな。
ゆっくりと下り坂を歩きながら考えていると何処からか叫び声がした。
右手の方から「・・すけて、助けて~」と聞こえた。
急いで藪の中に走り込んで行くと水の流れる音が聞こえた。
沢のようだった。
木々が切れて幅20メートルくらいの水の流れている場所に出た。
声は足下の崖の方からした。見ると小さな岩に子供が取り付いていた。今にも落ちそうだ。
素早く木々の間からぶら下がっている蔦を引きちぎる。そして下に投げ入れた。
「これに掴まれ。」
子供のいる場所は5メートル位離れていたので、少し蔦の長さが足りない。
屈み込み、蔦を下に伸ばす。ええい、まだちょっと足りないじゃあ無いか!蔦が伸びてくれればなあ~。
僕の意志を汲み取ったかのように蔦がスルスルと伸びて行く。右手から力が抜けていく。なんだこれは?
蔦がさらに子供の身体に絡まってゆく。これなら!と力を込めて引き上げた!!
崖上まで引き上げて、ハアハアと激しい息をする。思ったより力を使ったようで後ろ手にしゃがみ込んでしまった。
引き上げられた子供が言った。
「お兄ちゃんありがとう。」
見ると10歳といかない女の子だった。背中に背負いカゴをして、魔女のような尖り帽子かぶっていた。
村娘、と言う印象だ。
「大丈夫だった?怪我は無い?」と声を掛けると、身の回りをパタパタ叩いてにっこりとして言う。
「うん、お兄ちゃんのおかげ!」
聞くと、薬草を取りに山に入り、沢の崖に生えていた花を摘もうとしてうっかり落ちたのだそうだ。
ちょっと怖い目にあったのでもう村に帰ると言う。なので一緒に行くことになった。危ない事はそこそこ体験してそうだ。
「お兄ちゃんはメイの恩人だからおばあちゃんに会って。」と言われた。
メイちゃんと言うらしい。
「八神直哉、ナオヤって呼んでくれ。」と自己紹介する。
でも、恩人だとおばあちゃんに会わなくてはならないのかな?
おばあちゃんは村で薬師をしている魔法使いだと言う。
丁度良かった。
道々いろんな話をしながら手を引かれて、下り坂を下りて行く。
村は余り大きくない柵に覆われていて、柵の切れ目に立て看板があった。
『始まりの村 アデル』
出来るだけ日々更新したいと思います。
まだまだ、魔法の秘密に迫れない。
徐々に開かされて行きます。