それぞれの別離
バパルカもこれで最後です。
承章2 混乱都市 バパルカ⑩下
僕の名前はナオヤ、八神直哉。
私の名前はセラ、聖都バフォメの西の聖女セラ・バフォメ。
複雑な想いを残し一夜が明けた。
セラとは神器を通して夜遅くまで話をした。
すぐそこにいるのに会いに行けないのがもどかしい。
でも、女神ガライヤの神器パワーアップのお陰でセラともこうして話が出来るから、有り難い。
セラ達はラサメア辺境伯爵の護衛を加えて、今朝早くバパルカを出た。
聖都バフォメに戻るのだ。
通常なら1週間程掛かるところを急ぎ戻ると言う。
南の聖女シャルラが亡くなっているのだ。護衛の技僧兵シャダーンも側女も亡くなっている。
今回の事件で少なくない人が減っている。だから、代わりの者の選別やら葬儀などが行われる事になるはずである。
急いで対応する必要があるのだ。聖女の選別は揉めるかもとセラは言っていた。
1ヶ月程前にセラが西の聖女に選別されたばかりなのだ。順当に考えればセラが南の聖女に繰り上がるのだと言う。
セラ達に付いて行きたいところだか、僕はまだ動けない。彼の調査が済んでいないからだ。
後1週間程は待つ必要がある。でも、その後はセラ達を追う積もりだ。
恐らく、彼の足取りもバフォメ方向だと思っているからだ。
厄介なのは剣豪ドワドやあおい達かも知れない。
再戦や試合を求められているのだ。むさい男達に求められてなぁ~、あおいは女だけど武士だし。
まあ、時間があるので自分の技術向上と魔法の応用の実験台になって貰うと言う考えもある。
さらには、ブダイやブールからラサメアに仕える気は無いかとも打診されている。後ろ盾として他の貴族からの勧誘を断る理由にさせて貰う積もりではあるが、彼らの本気の目が怖い。
本来なら反対すべき人が賛成に回っていることは悩みの種だ。
ブールの妻ノストリーアが乗り気なのだ。リリアを嫁に出してまで良いと言っている。リリアさえ嫌がる様子が無い。
嫌われる事はしていないがそんな好意を持たれる事のこともしていない。・・・誤解されるような事は無い筈だ。
街に何度かリリアの案内やら買い物やら用事で出掛けた事があるくらいだし・・・。デートか?いや、違うだろ?誤解されてないよね。
僕より2歳年下で妹みたいに可愛いから気兼ね無く話してるけど、誤解されてないよね?
意外にもバーコドも残って欲しいようなことを言うのだ。上級魔法使いでそれなりに名高いバーコドが僕に知識を求めるのだ。
まあ、異世界の科学知識を教えたがら知りたがるのも分からなくは無い。
でも、一流の魔法使いが僕みたいな小僧に頭を下げたりして教えを乞う。意外と大物かも知れない。頭は薄いけど。
それから、僕に懐いたブラックバーンと言う魔物は見た目は猫で猫より大きく、黒豹より小さい。
黒豹と言ったら“ろでむ“だけどアレは雄だし、ブラックバーンは雌の魔物だそうだ。だから、セラと話をして“ねね“にした。
ねねと声を掛けると気に入ったのか頭を擦り付けて来た。完璧猫だね。
リリアの家庭教師は引き続きする事になった。闇魔法事件で中断したけれどリリアの魔法は基本の考え方から変えていかなくてはならないのだ。
バーコドの実践優先主義から理論優先主義にする。だから、リリアが初めに覚えるべきは魔素操作になる。
バーコドなどの魔法使いからすると魔力操作に近い。
ただ、意識すべきは魔素となるだけだ。
魔素は身体中に存在する。ただ濃淡はある。濃い場所は頭と胸だ。これは検証が済んではいないが、恐らく魔素の発生箇所だろう。
どうやってか意志を発揮することで頭と胸から魔素が発生する。その魔素が身体を巡り意志した場所から魔力を発揮して魔法を発現するのだ。
魔素を感じ、魔素を巡らせ、魔素を操るには『瞑想』を行い、自分の意志をシャープにする必要がある。
単純に言えば強くはっきりした意志を魔素を操るときに持つ必要があると言うことだ。
“しっかりと魔素を操るぞ“と意志を持続する必要がある。
ともすれば意志は弛緩し、あらぬ方向へと向かう。気を散らせてしまうのだ。
で、戻って『瞑想』が必要となる。
瞑想が一番効率よく意志を意識し易い。
リリアは思った通り『瞑想』を嫌がった。バーコドはお得意である。ノストリーアもまあまあ上手い。
瞑想は2時間ほど行う。毎日だ。
実践で魔法を発動するときは魔素を意識して行う。
いきなりファイアーボールでは無くて、手のひらに魔素の凝縮したボールを意識してからファイアーの魔法を発動して、ファイアーボールの魔法にするのだ。
通常のファイアーボールは大きさ、威力を殆どコントロール出来ない。大きければ大きいほど威力が上がる、多くの魔力を消費すると言う具合である。
魔素コントロールなら大きさ、威力を魔力の消費を抑えて任意に変えられるのだ。
一番最初に上手くコントロール出来たのはノストリーアである。おまけの母親に先を越されてリリアはお冠だった。
昼ご飯は“かき揚げとうどん“である。天ぷらうどんであるが、その時に依って使う具材を変えたかき揚げを作るのである。
かき揚げは僕が屋敷の料理長に基本を教えた。後は彼の工夫である。
千切りにした具材を衣に合わせて作れれば、人それぞれに好きな大きさのかき揚げが用意出来るのである。
屋敷のメイドを始め、女性陣に好評である。
うどんの出汁は苦労した。バパルカで手に入るもので作ろうとせず、海辺の村や町を探したら“鰹節“そっくりな材料が見つかったのだ。
ブールの屋敷から広まれば彼が残したうどん屋にもその内伝わるだろう。
天ぷらうどんもうどんの二番煎じとして知れ渡るのも遅くなさそうだ。
午後は冒険者ギルドで簡単な討伐系の依頼を受けたり、剣豪ドワド・ユゲト達と試合をしたりして過ごす。
時たま、リリアのお願いでお買い物を付き合ってあげたりもする。
そんなのんびりした生活を7日ほど過ごしたある日、僕はノイムと会っていた。
夜ではないが例の“ナポリ“の店内である。
約束まで後2日ほど早い。
報告書はかなり厚かった。レジュメを確認したがなかなか高度な構成をしていた。貴族からの依頼もあるのでそれなりの数の報告書を作るのだそうだ。
約束の残りのお金を渡す。
本来の約束は終わったが新たな依頼をノイムにする。
バパルカの後に彼が向かったところに僕が行くからその事前調査だ。
1人ノイムの信頼の置ける者を斡旋して欲しいと頼む。
ノイムとの繋がりを切らないためとノイムと彼との繋がりを見極めるためである。
お得意様に見えるだろう僕の頼みはノイムは断らなかった。明日屋敷に顔を出させると言う。
ノイムな紹介料の金貨を渡す。ついでにマスターからピザ擬きをまとめ買いして置く。
次の日、屋敷に現れたのは予想通り森の洞窟にいた男の1人だった。
名前をライナーと言った。20才にもならない男だったが、がっしりした体型に不抜けた顔、連絡係にぴったりだ。
ブールとこれからのことを話した。明後日にはバパルカを出る予定だ。
ノイムから得た彼の情報はブールに伝えてある。いろいろ話し合った結果、彼は何らかの意図を持って悪意でこの世を満たそうとしているのでは無いかと意見が一致した。
様々な方法を試していると言う結論である。
5年経った今、彼の悪意の種が芽吹き始めている可能性が高い。出来れば実を結ぶ前に対応したいが後手に回ってしまっているのは仕方なかろう。
彼の行動を推測しやすいのは僕だろうと言うのも意見が一致したので、ラサメア辺境伯爵が後ろ盾に成って阻止の力になって貰える約束を取り付けたのだ。
無論彼がどんな権力と結びついているかは予断を許さないが、ラサメア辺境伯爵から国王にも内密に話を通して貰う段取りになった。
ブールから近隣の簡単な地図と地域の説明を受けた。
バパルカより西には楕円形の湖が有り、その北西には遺跡がある。少し離れた南の湖畔に町が有り、湖畔の対面に“クレア“と言う港町があるそうだ。まずはそこに向かう予定だ。
湖畔の町を過ぎた西には山があり、それを越えた先にバフォメがあるそうだ。
バフォメまで普通に行って1週間、彼の足跡を辿れば10日前後と見積もっている。
僕の同行者はいない。
彼からの反撃も考慮してのことだ。
独りなら対処し易い。
独りならセラと話をしていられる。同行者がいると隠れて話さないといけない。
不便この上ない。
だから、ぼっちで行動する。
あちこちで別れを告げて僕はバパルカを出発した。
これから向かう先には何があるのか
彼はどこに行ったのか




