唐揚げ
日本人なら唐揚げと天ぷらは間違えませんよね。
承章2 混乱都市 バパルカ⑦上
僕の名前はナオヤ、八神直哉。バパルカの貴族、ブールの娘リリアの家庭教師になった。
リリアの家庭教師になることで問題が1つ発生した。
魔法の教師バーコドである。何か問題があって解雇されるとか自分より高名な魔法使いに替わるとかなら仕方無いが、無名の子供のような者が自分の代わりだとか言うのは納得出来ないと言い出したのだ。
貴族様の命令だから辞めざるを得ないのは受け入れるそうだ。
そりゃあそうだね。
と言うことで僕はバーコドと魔法について話をする事になった。
魔法の根本的原理、魔素と魔力、原因と結果の話。自然科学の一般論の概要を説明した。
バーコドは生真面目で頭がバーコードのように薄毛になった魔法使いのイメージそのものの姿をした老魔法使いだが、好奇心旺盛で「こんなこと初めて聞くわい!」と騒ぎながら否定せずに受けいれてくれた。
ちなみにリリアだけでなく、ノストリーアもちょこんと椅子に座って聴講していたのはご愛嬌である。
上級魔法使いのバーコドによると魔法は使えるのが当然であり、魔法学者でさえ原理を理解できていない。そんな事を僕が理路整然と説明したのだから「お主は何者?!」となるのは当然だった。
転生者のことや女神ガライヤの事は抜きに魔法が殆ど発達していない国からアデルの村からやって来た事を話した。
出身は疑われたがアデルの村から来たのなら不思議な知識を持っているのも同然かもと納得されたのには納得いかなかった。
同然、5年程に現れた彼の事に話が及ぶ。バーコドは世間話に疎くて余り知らなかったが、ノストリーアが滔々と世間話を聞かせてくれた。
曰わく賢者、超魔法使い、傲慢成り上がりなど言われた彼のしでかした数々の事件を教えてくれた。
バパルカに入って来た時は凶姫ローズの冒険者仲間としてらしい。今でも売っている“唐揚げ““ピザ““うどん“などは彼の発案だそうだ。
食べ物屋『キングランプ』の唐揚げの出来を思い出し、彼らしい抜けた食べ物だと嘆息した。
ピザやうどんの店にも様子を伺いに行かなくちゃなぁと心の中で考えていると、リリアの目がキラリンと光った。心が読めるのかリリア!
他にも“キングオーガをメテオで倒した話“とか“ロワラエ森林の大火災を起こした話“とか“サファイアドラゴンをティムした話“など巨大な魔法力を使った話があった。
彼の使った魔法には興味はあったが彼の目的が全然見えて来なかった。まるで大きな力を得てはしゃぐ子供である。
そんな彼もある日を境にひぴたりと大人しくなった。
1年程バパルカにいたが他の都市に行ってしまったらしい。
詳しい事は情報屋を探して調査させれば良いかな。裏の事情を知っている者を探して話を訊きたいなと考えているとまたもやリリアの目がキラリンと光った。
バーコドとの話し合いにより、バーコドと2人で魔法についてリリアに教える事になった。
理論的な事は僕が、実践的な事はバーコドがと補完し合う事にしたのだ。
そして、僕はキングランプの店の前に立っていた。
この店の唐揚げは『天ぷら』であった。
「断じて唐揚げでは無い!」
料理を楽しんだ経験のある者として間違いを正したい。
「いや、それ以前にあの天ぷらの酷さは何だ!!」
多少の工夫は感じられるけれど小麦粉を水で溶いただけの衣はもったりし過ぎでは無いか!!
「うんうん」
近くで声がして思わず振り返った。
そこには深く頷くリリアの姿があった。
街娘のようなこざっぱりしたシャツに巻きスカートと言う姿であったがなかなか可愛い。
「え?何でリリアがここに?」
屋敷を出て行く僕を見て何処へ行くのかとつけたそうな。キングランプの前でぶつぶつ言う僕の小言をちゃっかり聞いていたらしい。
僕はリリアの手を引いてキングランプの対面にある食べ物屋に入り、飲み物を注文する。そして小声で言った。
「リリアは天ぷらと唐揚げの違いを知ってるのかよ!」さっきの“うんうん“の突っ込みである。
「知らないわ。ただの相づちよ」
そうなのだ。彼は天ぷらを唐揚げとして広めたくせに正しい天ぷらを教えてなかった。わざとなのか?と疑う。わざと嘘を教えて独りで笑っていたのか?
だとすれば彼はとんでもない悪意の塊だ。
リリアに唐揚げと天ぷらの違いを教える。更には天ぷらには卵が必要な事も付け加えるのを忘れない。
キングランプの店主に正しい唐揚げを教えるべきか、天ぷらには卵を溶き入れないと衣かもったりする事を教えるべきかと何故かリリアに相談していた。
「あの~」横合いから知らない男が急に声を掛けて来た。2人して睨むとタジタジとなった男は言った。
「僕はこの店の料理人のウーフェと言います。今の話を今一度聞かせて頂けませんか?」
騒乱に巻き込まれる予感
いったい何が!