『悦楽の園』と『黄金の嵐』
遺跡階層の最下層で活動するパーティーとは?
転章1 世界探訪記 勇者家を買う27・1
サイロン領の領都リシテルでガラドア遺跡ダンジョン攻略で最下層に達した勇者八神直哉です。
話を聞くと誰も来ていないとのことだったがあるメンバーが見えないのに何かの気配を感じたと言うのだ。
その場所は階上から降りてくる階段付近で食料を取りに戻った時にぼんやりと感じた事と不審に感じたが他の者は気が付かなかったと言う事でそのままスルーしたらしい。その女性はローレルと同じ職業の斥候で『悦楽の園』のメンバーで魔力検知に堪能なのだったのでそれなりに信用性は高い。
因みに『悦楽の園』のメンバーは女13人で同じ斥候職は他に2人いて一番に能力が高かった。
『悦楽の園』のパーティーリーダーの妖艶なメアリー・シェネッツアが絶大な信頼を置いているらしい。
『悦楽の園』の事を言っておくと斥候が3人、前衛が4人、中衛が2人、後衛と回復職は4人で、メアリー・シェネッツアは回復職だと言う。
雰囲気や類い稀な魅惑のボディからはそのように見えない。シェネッツアの名前から分かるようにエルランディア帝国の王族に連なる爵位の低い貴族だそうだ。
姿が見えないが気配だけ感じたと言うことはセラを連れた連中が姿を消してこの最下層まで来た可能性はあるとナオヤは睨んでいた。
ナオヤが使うミラージュと言う魔法も姿を誤魔化すだけで気配は消せないのだ。
最下層にセラ達が居るかもと考えたのは来るまでに各階層でレーダーによる3D探索をして来たのだが見付かっていなかったからだ。各層はまだ見探索な部分が多かったがナオヤに掛かれば隠れてやり過ごすことなど不可能だった。
フロアの全てを見通せてしまえば隠れて居ても直ぐにバレる。ナオヤのレーダーがあればローレルの斥候など不要と言えたが敢えて言わずに居たのだ。
言ってしまったら頑張ったローレルが可哀想である。
ローレルが『悦楽の園』のパーティーリーダーの妖艶なメアリー・シェネッツアと女同士楽しそうに話しをしているのを横目にレーダーを使ってみた。
レーダーに反応があった。
やはり、階段の後ろ側に更に深く階下へ行く道があるらしい。そこは壁があり何処にも通路らしきものが見当たらない。
何かしらの仕掛けがあるのかとナオヤが捜しているのを見たヨシュアや『黄金の嵐』のパーティーリーダーの大熊獣人の大男ガムツイ・ロンダルキノ達が近付いて来た。
ヨシュアと話していたようだがナオヤの行動に興味を抱いたらしい。どうやらヨシュアとは顔見知りらしい。
『黄金の嵐』のパーティーは24人もの大所帯で攻撃色の強いパーティーだった。女性は4人で1人が狐獣人の戦士、1人が人族の魔法使い、エルフと人族の2人が回復職である。
そして女性4人全員がガムツイの妻だった。
他20人はガムツイの強さに惚れ込んだ獣人混合のむさ苦しい男達だ。重戦士、軽量戦士、魔法戦士、魔法斥候、大剣使いなど回復よりも己の体力自慢の脳筋野郎達である。
2つのパーティーは長期に渡って最下層に滞在出来るほどの食料や水を持ち込んでいた。荷物持ちなどは使わず複数のアイテム袋を持っていた。よく見るとそれはババロン製だった。
詰まりナオヤが造って資金稼ぎに放出した魔道具だった訳だ。ナオヤはこんな所で役立っているのかと密かに苦笑いする。
インベントリと言う特殊スキル持ちのナオヤだから笑えることなのだが、本人は少しも分かっていない。
ナオヤが『黄金の嵐』のパーティーリーダーのガムツイ・ロンダルキノに隠された階段がある筈だから探していると言うともっと怪しい所があるから着いてこいと言った。
ヨシュアと共について行くと壁に巨大な扉が描かれていた。
遠目には描かれているように見えるが確かに別の素材で造られた扉の様だった。余りにも壁に嵌まり込んで居るため模様にしか見えない。
少し離れた場所にはバーなどによくあるカウンターの様な巨石があり、その後に高さ5M程の大きな壁が仕切りのように付いていた。
カウンターの後の仕切りの様な壁が邪魔していて遺跡階層の壁に描かれていた扉が見えなかったようだ。
ガムツイはカウンターで何かすれば壁の扉が開くのでは無いかと考えて、色々とずっと調べてみていたが何も分からなかったと言った。
言われるままにカウンターを見ると中央に赤い魔石の様な石が埋め込まれてそこから放射線状に線が走り色の無い石が沢山あった。更に無色の石からも複雑な形をした線が走り模様を描いていた。
飛空挺クレイモアの操作盤の方石に似ていたが規模が違うようにナオヤには見えた。
「此処の赤い魔石らしいのが鍵の様なんだがどうやっても反応が無いんだ。メンバー皆にも確認したがこんなもん見たことも聞いたことも無いようだしよ。」そう言ってガムツイは大きな肩を竦めた。
遺跡階層壁の扉と不思議な模様を持つカウンターに動揺らしき反応を見せたのはそれまで静かだったヨシュアだった。
一体 ヨシュアは何に動揺したのだろうか?
怪しい魔族