高速!遺跡階層中層の攻略
ローレルと言う冒険者の常識をナオヤが破壊していく。
常識破壊は勇者の特質!
転章1 世界探訪記 勇者家を買う25
サイロン領の領都リシテルでガラドア遺跡ダンジョン攻略を始めた勇者八神直哉です。
ナオヤ達はガラドア遺跡ダンジョンを攻略し始めた。順調に進行しアッという間に遺跡階層中層を攻略する。
遺跡階層が深くなるにつれ更に出現する魔物の種類が変わって行く。集団が少なくなる代わりに個々の魔物の自力が上がって来たのだ。その力は洞窟ダンジョンの魔物のおおよそ3倍以上に及ぶ。
ケイブマンティコアやケイブストライプホース、ケイブグランドドラゴン、ケイブミノタウロス、ケイブノーマンである。ケイブノーマンだけは集団戦闘する。
初級ダンジョンであればボスクラスの魔物がナオヤ達の集中砲火にあって易々と倒されていく。解体は体高、質量共に簡単なもので無いのでナオヤのインベントリへ保管されていく。その収容能力に魔族であるヨシュアでさえ目を丸くしている。
優れた魔法使いである魔族であっても無限収納は不可能で神のスキルだというやっかみをナオヤはヨシュアに受ける始末だ。
強力な魔物の中にあってナオヤ達が唯一手を焼いたのはケイブノーマンであった。一見、何の変哲も無い裸の人間のようであって、生殖は無く、スリムマッシッブな成人男性とほぼ同じに見える。
しかし、その異質性はケイブの名を持つ魔物に相応しい。閉塞状態の洞窟は自由度が制限される。大剣は振りにくいし、強力な殲滅魔法は使えない。
更に少人数でバランスを採ったパーティーは回復役を失うと攻略が困難になる。
そんな悩ましい事を知っているのかのような人間めいた思考能力を持った魔物がケイブノーマンなのだ。
ケイブノーマンは出会った人間の能力を模倣し、攻撃する。
そして、人間の人数を上回る数で模倣した能力で攻撃するので冒険者達は劣勢に追い込まれ、回復役を護ろうとするとそこを集中的に攻撃し始めるのだ。
ただ、ケースの模倣能力に限度があるのでローレルはともかく、葵モドキでは葵の能力を模倣仕切れない。葵に体感でも3割程度の能力であった。
ローレル完コピ=ケイブノーマンは問題無くても葵モドキは葵もやりにくかったようだ。
ナオヤモドキも現れたが模倣能力がバグってしまっていた。スピードを模倣したつもりなのか動きが早くなったり遅くなったりでナオヤにとってはただの的でしか無かった。
ローレルですら倒せて居たのだからそのバグり方が分かろうと言うものだ。
なのにヨシュアは模倣されなかった。
魔族であることが影響しているのか、それとも別の要因があるのか分からなかったがケイブノーマンに広範囲魔法を模倣されなくて良かったとローレルが一番ほっとしたものだ。
攻略最下層が近づくに連れ魔物の攻勢は更に激しくなり、種族はさほど変わらないのに個々の強さが上がっていった。
ハイエンドマンティコア、レアブラックミノタウロス、ダークネスグランドドラゴンが主流でレッサーが付随してパーティーめいた集団を構成していたのだ。
魔物の強さもさることながら遺跡ダンジョンの複雑さは増していた。隠し部屋に行き止まり、感覚を擾乱する機構、無臭無色の毒ガスなど残虐な罠が至る所にあった。
ダンジョン構造についてはローレルの独壇場だった。
殆どの罠を見破り、避け、仕掛けを壊して見せた。葵に向かってドヤ顔を見せるために葵の気分がどんどん悪くなっていった。
ヨシュアも葵の気分が悪くなると同じようにローレルに突っ慳貪になり、パーティーの機能も落ちている。
しかし、そんな状態で攻略速度が低下してもナオヤ達の攻略は止まらなかった。ヨシュアの限定的殲滅魔法の殲滅力が効率的なだけで無くナオヤの勇者としての力が特質していたからである。
体表が硬くて通常の攻撃が通用しないような相手にはヨシュアの殲滅魔法で弱体化させてはいたが、スピードを上書きさせたナオヤの複数回攻撃が激烈を極めていた。
葵が一度攻撃を通す間にナオヤは四方八方から攻撃してローレルが止めをさせるほど弱体化させてしまう。攻撃の先方である葵に攻撃が集中しそうになれば周りの魔物の機動力を奪う攻撃を与えてしまう。
後から全体を見る事が多いヨシュアにはナオヤが残像で複数人居るように見えていた。
魔物の遭遇をローレルが避けていたとは言えエンカウントしない訳にはいかない場合が多かったのにナオヤのスタミナは底なしであった。
密かに体力的にもナオヤに遜色ないと自負していたヨシュアは自身を疑わないでは居られなかった。
ローレルは既にお手上げで護られっぱなしであったし、葵ですら戦闘後の小まめな休憩は必須な状態が続いていた。青息吐息とまでいかないまでもパーティーとしてはその実力は超級冒険者と遜色ないものであった。
その日の攻略を終える頃、ダンジョン外では夕刻過ぎには遺跡階層の24階層に達していた。
たった1日でのダンジョン攻略としては異例であった。
ローレルが唖然としている。
上級結界石を多く配置したテントの中でローレルが語った話では視察で超級冒険者に随行した時でさえ1日での遺跡階層の攻略は10にも満たなかったと言うのだ。
葵は当然と言う顔をしていたし、ヨシュアもそんなに意外そうでは無かった。
寧ろ、ナオヤは不満だったようだ。
冒険者の跳梁を許さないのがダンジョンと言うもの。
待ち受けるは 意外性。