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二番煎じの転生者  作者: きゅうとす
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騒乱の元に

西の聖女セラとして


やるべき事をするだけ

承章2 混乱都市 バパルカ③


私の名前はセラ・バフォメ。

ついこの間までは普通の村娘セラだった。今は狂気と混乱の都市の中で冷や汗を流している。


彼が原因、と言うか彼が残した“びっくり箱“が怪しい。

メイド頭のサルーンさんの話では“びっくり箱“はラサメア辺境伯爵が持って行ってしまったらしい。

狂気な笑いに取り憑かれたラサメア辺境伯爵の言動は非常識になった。上げられてきた報告書に間違った指示を出し、人を困らせる命令を下す。意味もなく高笑いをする、それを聞いた別の人が同じ様に笑う。そしておかしくなる。

狂気の連鎖が続き混乱が起きた。


狂気の笑いに呼応出来なかった者がサルーンであり、自分なのだ。

狂気に侵された者は攻撃的になり、暴力を振るう。

セラ付の技僧兵の片方は正常だったのではないかと思う。自分を護るためにおかしくなった同僚に敵対し、相打ちになってしまったのかも知れないと考えたのだ。


それを自分は知らずに寝ていたのだ。己を恥入らずにはいられなかった。申し訳なかったと思う。

だから、自分に出来ることをしようと思うのだ。それにはラサメア辺境伯爵のところへ行かなくては為らない。

メイド頭のサルーンにそう告げると躊躇いながらもサルーンも同行してくれる事になった。

他のメイド達はこのまま隠れていて貰う。

私とサルーンだけで何が出来るのかと言う思いもあるが、何もせずに見過ごす事など出来なかった。それに、私には女神ガライヤからの霊夢もある。


サルーンに依れば恐らくラサメア辺境伯爵は謁見の間に居るのではないかと言う。と言うのも、高揚した時のラサメア辺境伯爵は謁見の間で良く独り言を高らかに言っている癖があるのだそうだ。

サルーンと私はサルーンの案内で謁見の間へ向かった。もちろん混乱している者に見つかったら厄介な事になるので隠れ隠れてである。

謁見の間の入り口は大きな扉となっていてその近くには衛士が倒れていた。

胸を袈裟懸けにバッサリと切られて倒れていた。油断しているところを切られたらしい。

恐らくはラサメア辺境伯爵であろうと思われた。狂気に染まったラサメア辺境伯爵には誰も敵にならなかったのだろう。


入り口をそっと押して隙間を開けて様子を伺う。

高らかに歌うように何事かを叫んでいるラサメア辺境伯爵が居た。足下には例の箱が置かれているようだ。

他には誰もいない。

あの箱を何とかしたい。

そっと通路の角で隠れているサルーンの所へ戻った。

サルーンに様子を告げると少し考えて答えた。

「わたしが裏口から音を立てて伯爵様の気を惹きますから、その隙に聖女セラ様があの箱を奪ってくれませんか?」

見付かればラサメア辺境伯爵に襲われる危険がある。今のラサメア辺境伯爵は超危険人物であった。


ラサメア辺境伯爵は元冒険者であった。それも名の知れたSSクラスの冒険者である。

その腕を買われて15年程前に辺境の森の魔物から国を護る伯爵となったのだ。現役を退いて10年以上ではあるがその腕の衰えはほとんど無いと言われているのだ。そんな人物と知っているサルーンが恐れていない訳がなかった。だからこそ、姿を見せずにラサメア辺境伯爵様の気を引く事に勝算があった。

謁見の間の裏側には隠し通路があるのだ。それは代々メイド頭と執事長にしか知らされていないのだ。

その事はラサメア辺境伯爵がこの城の主となる前からの秘密だった。いざという時に主人を連れて逃げるための避難路だからである。

謁見の間の避難路に通じる隠しドアは辺境伯爵が座る椅子をずらす事で現れる。

サルーンは避難通路のドアの下から何かで叩いて音を立てて注意を引く積もりであった。

知らなければどこから音がするのかと箱に背を向ける筈であった。そうすれば如何にラサメア辺境伯爵が超優秀な元冒険者であっても隙が生まれると言う考えであった。


箱さえ何とか私が出来れば狂気に侵された人々を救えると言う傲慢も有ったのかも知れない。

他に非力な2人の女には方法が浮かばなかったのだ。


メイド頭のサルーンが避難路に回り込む為に通路の奥まで進み、ふっと消えた。

隠し通路を使ったのだろう。

それを確認したセラは再び謁見の間のラサメア辺境伯爵の様子を伺う。

先ほどと様子は変わっていなかった。

ほっとするのもつかの間、サルーンが陽動したら直ぐに箱まで走り、箱を蹴り飛ばす用意をした。箱にはどうあっても直接触れたくはなかった。

霊力を以て箱を見ると禍々しい闇の魔力がまとわりついているのが見えたからだ。

あれでは触れたら侵される。



じっとその時を待つ。

ガタガタっと大きな音がしてラサメア辺境伯爵が音のする方へ恐ろしく早く移動する。

いまだっ!!

扉の隙間にからセラは飛び出した。

ラサメア辺境伯爵が振り向いてこちらを見た。

禍々しい、余りにも禍々しい歪んだ顔がにんまりした。

その時、セラは全て見通されているのでは無いかと戦慄を禁じ得なかった。

ラサメア辺境伯爵は顔をこちらに向けたまま、椅子を蹴飛ばし、隠しドアを引き起こし、あっという間にサルーンを引きずり出し、箱に向かって投げ捨てた。

体ごと滑りながら箱にぶつかり止まるサルーン。

ニヤニヤ笑いをしたまま、何故かゆっくり歩いてくるラサメア辺境伯爵。

後一歩に来ていたセラには全てがゆっくり過ぎているように見えた。


サルーンが気付いて箱を抱えて箱を見詰めながら立ち上がった。

私はサルーンの正面に立っていた。

狂気に侵されたサルーンがこちらを見上げるのと、ラサメア辺境伯爵が大刀を振りかざしてサルーンを切ろうとするのが、私には重なって見えた。


立ち竦んだセラには成す術もなかった。


セラの最大の危機!


救いはどこに

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