メネアン後始末と王都での再会
メネアンでの出来事はナオヤのやらかしでしたが何とか拠点は出来たようです。
さて、次の拠点を造りに行く前に寄り道・・・
思わぬ相手との再会です。
転章1 世界探訪記 勇者家を買う⑩
勇者であり、家を買う行動を始めてやっと最初の家を建て終わった八神直哉です。
落胆はしたものの、基礎の上に収納から屋敷を出して乗せ、移築は完了した。中央部分が少し高いのは屋敷の自重で矯正されたので問題なかった。まだ、上下水道を整備したり、小物類を取り揃えたり、ソリオのバッアッブシステムを設置したり、しなくてはならない。
ちなみに僕が趣味で造った事になってしまった地下室はメジーナ博士に言わせれば上出来だそうだ。大きな空間が取れているので何やら他にも利用しようと画策しているらしい。まあ、その辺はメジーナ博士に任せる積もりだ。
ソルティ諸島唯一の都市メネアンのとなりの小島レウナン島にババロン商会を設立、メネアンはババロン縁の都市だから“技術のババロン商会“にする。かつての技術を復古したり、新しい魔道具などを卸すつもりだ。
具体的な検討はメジーナ博士とこれからするが先ずはメネアンのカワスミ都市長の要望も訊くようにする。都市長との太いパイプを作って置けば今後の運営が楽になるからだ。メジーナ博士からは船の技術に興味津々だったと聞いている。さもありなん。例の改造船はそのままカワスミ都市長に返却されたらしい。
僕は次の候補地に移ることを考えていた。ミューレイからはスタン諸国の内のミライ国の首都パルマにして欲しいとは言われている。だが、僕はメリカ国のバフォメに行こうかと考えていた。バフォメの聖女サフィア様に会って僕達の屋敷を建てる許可は貰ってある。“岩の原“と呼ばれる場所だが特殊な魔物が棲息しているらしい。
ストーンスネークやストーンドラゴン、ストーンゴーレムなどの岩を属性とした魔物らしい。生物と言うよりは魔素が凝集した魔核というものが原因で派生する魔物だという。倒すにはこの魔核を破壊するしか無い。魔石とは違い非固形の核という事らしいがよく分かっていない。
メジーナ博士にも確認したが、研究素体が少なく、手元には魔核が残らないので解らないようだった。
それに、メリカ国のラサメア辺境伯爵ブダイから近々に一度顔を見せに来て欲しいと言われているのだ。アンガス・メフィス・メリカ王からの強い要請があったらしく何度も連絡があったようだ。面倒なことで無ければ良いのだがと思う。
ラサメア辺境伯爵直轄都市バパルカに行こうとしたところ王都の王城のラサメア辺境伯爵の居室に来てくれと連絡があったのだ。
一度は行ったことがある場所なので転送出来る距離まで飛行艇クレイモアで近付けば何て言うことは無い。転送で行けば知らぬ仲でも無いし簡単で便利だ。
まあ、海上都市メネアンから聖都バフォメに行く途中にメリカ国の王都はあるので廻り道とはならない。ついでと言えばついでとして立ち寄れるのだ。
メジーナ博士が屋敷と屋敷回りのの整備の手配をしている間、手隙な僕を始めとしたメンバーはメネアンで買い物をしたり、ぶらぶらと色々な建物を見て回って楽しんだ。
改めてじっくりと見て回るとあちらこちらに僕を懐かしいような気持ちにさせる食べ物があった。アメリカンドッグに似た串に刺さった食べ物の屋台やラーメンに似た麺類の屋台などが並んでいたのだ。僕達はわいわいと食べて騒いで楽しんだ。
だから、多少の名残惜しさを持って僕達は飛空挺クレイモアに帰ったのだった。
ラウンジでは既にメジーナ博士が2人のレプリカントを従えて待っていてくれた。少し背の高めの優男と髪の長い女性だった。
「こちらの男性がレブナント、女性がセレアだ。2人ともカワスミのかつての部下だった。この2人にメネアンのババロン商会を任せようと思う。」
2人が礼をする。
「レブナントと申します、宜しくお願い致します。」
「セレアです。」
その動きも話し方もまるで人と変わらずメジーナ博士の技術の高さを伺わせた。
「紹介しなくても全員の顔と名前を解っているだろう?担当の者を送り込むまで宜しく頼む。」
と僕が言うと再び2人は軽く会釈した。
「既にバックアップシステムは設置済みだから早速送り込んで置くよ。港湾施設などの外構は追々整えて行くから取り敢えずはメネアンとはモーターボート程度で行き来して貰う積もりさ。」
軽くメジーナ博士は僕の気にしていた事を話す。
この分なら心配なく次の場所へ行く前にメリカ国の王都へ行けそうだ。
次の日の昼前に僕とセラはラサメア辺境伯爵ブダイと彼の王都の王城の居室で会っていた。
そこには懐かしい面々が揃っていた。ラサメア辺境伯爵ブダイ、息子ブール、その妻ノストリーア、そして娘のリリアだ。バパルカを離れてから何ヶ月過ぎただろう。ノストーリアがうるうるして僕に抱き付く、横目でリリアが睨んでいるのが可愛らしい。
僕が来るのを知って慌てて王都に来たらしい。積もる話もあったが用事を済ませるのが先だ。ラサメア辺境伯爵ブダイとブール親子と共に僕達はアンガス・メフィス・メリカ王に謁見した。
「久しいな、勇者ナオヤ殿。この度わざわざ来て貰ったのは他でもない頼み事があったからだ。不死の騎士“バラダック率いるツヴァイ・メフィス侯爵の騎士団との試合の時友として力になると言う約束を憶えて居るか?
ラサメア辺境領の隣りにアナンダ辺境領がある。アナンダ辺境領は由緒ある古き領なのだがこのところ大森海が浸食しているのだ。アナンダ辺境伯爵も尽力しているのだが人材に乏しくて救援を要請されて居る。そこで勇者ナオヤ殿に力を貸して頂きたいのだ。」
「話は分かりましたが何故国軍を
動かさないのです?メリカ国にも軍はありますよね?」
「国軍に動かれては面子が立たないのですよ。」
僕の疑問に別室から答えながら入ってきた者がいた。
「紹介しよう、彼がアナンダ辺境伯爵ロードウィクだ。そして、その息子ジャンジャルだ。」
メリカ王が答えた。
その2人を見て僕とセラは固まった。
ジャンジャルはセラの悪夢の相手だったのだ。その悪夢の内容を僕は知っていた。幼なじみであり、セラを暴行した貴族の男!、それがジャンジャルだった。
「初めまして勇者殿。私が王より紹介されたアナンダ辺境伯爵ロードウィクです。そして、息子ジャンジャルです。」
大仰な礼をして自己紹介をする。
ロードウィクは人の3倍はあるかと思われるほどのでっぷりとした腹を揺すってみせた。しかし、その細い目はまるで蛇のようだった。
「久しいね、セラ。」
ジャンジャルは僕を無視してセラに話し掛ける。
「あの時以来だ。随分と捜したんだよ?バフォメに逃げたかと思えば勇者殿に連れて行かれてしまうしね?」
舌舐めずりをするジャンジャルに怯えてセラは小さく震えて僕のコートを掴んで隠れた。
過去の出来事が許せない。態度が気に食わない。それ以上にセラを怯えさせている事は許さない。僕は眼光鋭く言い放った。
「お受けするには条件があります。」
アナンダ辺境領は300年ほど前の初代アナンダ・ウワンタが辺境開拓で開いた由緒ある領なのだが、子孫はその功績に胡座をかき、大森海を拡げられる程の力量を持たないまま今のロードウィクの代なったのだと言う。武力は無いがロードウィクは権謀術数に長け、王弟ツヴァイ・メフィス侯爵に取り入りその威光を利用して豪奢な生活をしているらしい。
その癖、領地経営は酷いものだと言う。ラサメア辺境領に比較して税は3割高、転地を認めない上に災害対策は各地の官僚任せのため横領賄賂が絶えないのだと言う。
ただ、川沿いに領地が伸びている故かそこそこ肥沃のため何とか為っているらしい。
今、その川沿いに大森海が浸食、魔物が大挙して押し寄せているのだと言う。川を遡る水棲馬、巨大怪魚、水棲蛇、瘤爪蟹などと共に軟泥オーク、森林ゴブリン、跳躍ラビットなどが川沿いに入り込んでいるのだと言う。
既に幾つかの村々が襲われ人々が逃げて来ている為にアナンダ兵が対応しているが相手が強すぎて手を拱いて逃走を繰り返すばかりなのだと言う。
状況はロードウィクやジャンジャルから聞いたのでは無くラサメア辺境伯爵ブダイからであった。自領の事を訊いているのに2人は何も把握していなかったからだ。
悲惨な領地であると同情を禁じ得ない思い以上にロードウィクとジャンジャルに対する怒りが増す。
メリカ王に出した条件の意味をあの2人は理解していないだろう。だが、言外の意味を正しくメリカ王は理解したに違いない。メリカ王の表情を見れば以前から機会を窺っていたのだろうと知れる。
依頼内容など大したことは無いが手順に間違いないようにラサメア辺境伯爵ブダイ達にも伝える必要があろう。
親交を温めながらちょっと悪い顔で僕は勇者らしからぬ謀で新しい拠点を造ることにしたのだった。
セラの悪夢・・・・
怒り満点のナオヤは何を画策しているのか。
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いつも 二番煎じ を読んで頂いてありがとうございます。
今年最後の投稿となりました。
不定期な投稿ですが少しでもご興味ありましたらナオヤの今後を楽しみにお付き合い下さい。
来年も宜しくお願い致します。皆さんにご多幸がある年でありますように御祈念致します。
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