燦々大珊瑚礁(キラキラ・ラグーン)
夏を楽しむナオヤ達。
真夏の太陽は若者達の世界です。
どんな敵が待ち受けて居るのでしょう。
転章1 世界探訪記 勇者家を買う④
勇者であり、家を買う行動を始めた八神直哉です。
カワスミ都市長が出した条件とは言わば海賊退治であった。
「ここ数ヶ月の間に幾つかの商船が襲われて居るのじゃ。襲われている海域はここメネアンと隣国の大中華帝国を挟んだ燦々大珊瑚礁じゃ。
燦々大珊瑚礁は浅瀬でのう、複雑な道筋を通らないと抜けることが出来ん。潮の流れを知っておる者で無いと抜ける事は愚か永遠に迷う事になると言われて居る。
だから余程詳しい者で無いと海賊など出来ん筈なんじゃが、襲われた船には人はおろか食料も荷物も無くなっているから海賊としか思えんのじゃ。」
それは海上の保安を保っているメネアン海兵隊の見解らしい。現状にカワスミ都市長も頭を抱えているようだった。
原因不明とも言える海難事故を解決して欲しいと言う要望を受けて僕達は海に出た。
海洋都市メネアンのメメント港を北西に向けて出港して、燦々大珊瑚礁の入り口に来ていた。
きゃいきゃいと華やいだ声が聞こえる。
船首近くで海を眺めている僕に
「ナオヤ~」と先頭を笑顔で近づいてくるのはミューレイだった。
彼女はオレンジ色ーベースとしたセパレートの水着を着ていた。
後ろを恥ずかしそうに付いてくるのは白一色の水着のセラだ。
セラと並んで緊張した顔で歩いているのはライトグリーンを基調とした水着の葵である。
かく言う僕も青ベースでカラフルな海パンを履いて、海風避けに軽い上衣を着ている。
この船、総排水量31トンを誇るクルザー“カワスミ号“を操っているのは真っ赤な水着のメジーナ博士で、近くにはサロメが黒い水着を着て今後の対策を話し合っている筈だった。
カワスミ号のスペックは
全長 15,21M
全幅 5,5M
喫水 0,95M
最高速度 39ノット
巡航速度 21ノット
旅客定員 45名
である。
クルーザーとしてはその最高速度は破格の性能である。現代日本の軍艦である駆逐艦に並ぶほどの39ノット(70.2㎞/s)は他に例が無い速度なのだ。その秘密は大きな総排水量に対する喫水の少なさにある。喫水が大きいほど水の抵抗を受けるから船速は上がらないのだ。
そして、秘密は他にもあるのだ。元々のカワスミ号にはそれほどの性能は無かった。メリーゼ・カワスミ・メネアンの個人所有物で有力者を歓待する為の船だからだ。好きに使ってくれて良いと言われたメジーナ博士がババロンの技術(地球由来)でチューンナップし過ぎてしまったのが原因なのだ。
早過ぎるだろ!と言う突っ込みにをメジーナは今回は海賊相手だからと言い訳をした。確かに海賊船などに追われたら逃げるには最適な船速である。但し、その時は船底が海から離れて浮いてしまうらしい。メジーナ博士も試験していないから理論的な話らしいが、そんな事にならないと良いのだがと思う。
船には海兵隊の尖鋭が10人ほど乗り込んでいて見張りに立っているから僕と一緒に来たセラ達はすっかりバカンス気取りだ。
「取り敢えずまだおかしな事は無いようだよ。エスカル第3海兵長さんの話だと出口付近で襲われているらしいし、のんびりしていても大丈夫。」
僕はセラ達に言った。
「少し皆で泳ごうと思ってで出来たのよ」
と返事をしたのは一人ではしゃぎ、きゃいきゃい言っているミューレイだった。
「まあ、ゆっくりした船速だから大丈夫かな?それに遅れたら2人は天地自在で戻ってくれば良いさ。セラだって転移すれば簡単に戻れるだろう?」
みんなが頷く。
珊瑚礁だから大きな魚もいないし、脅威になるような魔物も居ない。ミラージュの魔法で姿を消している飛空挺クレイモアがバックアップしているからなおさら安心だ。
そんなこんなで海賊退治と言う雰囲気でも無い僕達はバカンス気分だった。
水温も泳ぐには適温で、様々な小魚達が燦めいている。板状珊瑚や樹状珊瑚や机状珊瑚など様々な珊瑚が繁殖し船の航行を規制している為に自然の海路が入り組んでできている。珊瑚の上をミューレイが泳ぎ、岩礁で小魚をセラが捜して戯れる事にしたようだった。。だからあっと言う間に2人は船に置いてきぼりになってしまった。
葵は船に負けじとずっと前を力泳していてまるで先導しているかのようだった。
それぞれが海を満喫しているのを見て僕は船室に足を向けた。
船室ではメジーナ博士とサロメとエスカル第3海兵長がソファで話をしていた。操舵は副隊長がしている。
「あっ、ナオヤ様。そろそろ呼びに行こうと思っていました。」
サロメが僕を見て嬉しそうに言う。
「まだ、時間はあるんじゃ無いかい?」
「あるが何時までも気を抜いてばかりいられんだろ?」
僕の問いかけをメジーナ博士が窘める。
肩を竦めて僕はスキルで着替えてしまう。
何時ものロングコートでは無くて要所要所をプロテクトしたメジーナ博士オリジナルデザインのライトアーマーだ。
防御力よりも軽量化優先でありながら市販のフルアーマー並みの防御力がある。腰には長刀に変えた無形を差している。
「それじゃあお二人も着替えますか?」
笑いながら頷く2人の肩に手を乗せ、スキルを使う。
僕が使用した『全瞬装』はインベントリーにある服を誰であろうと瞬時に着替えさせる事が出来るのだ。
メジーナ博士は赤の水着から赤ベースの司令官服に、サロメは黒ベースの下士官服になる。
2人は戦いに参加しないからこれで問題ない。2人の護衛には複数の海兵隊員が付く。まあ、何かあってもプロテクトリングがあるから安心だろう。もちろん、メジーナ博士独自に開発した船ごと防御する魔法道具も用意されている。
遊んでいる葵やセラやミューレイを飛空挺クレイモアの転送で船室内に呼び戻す。
ミューレイはまだ遊んで居たいと不平を漏らしたが自分たちだけが水着なのに気付いて大人しくなった。
「ほぼ中央まで来ているようだ。この辺から船速も落とさざるを得ないらしい。」
僕はエスカル第3海兵長の言葉を伝えながら、3人を順番に着替えさせる。
セラはパステルカラーのピンクがかった貫頭衣に白一色の大きなフード付きのコートとローファーだ。
葵は何時ものライトグリーンのフルプレートアーマーながらハニカム構造を採用した軽量かつ高硬度な仕様になっている。ハニカム構造部分が露出しているのが良いアクセントとなったデザインだった。
ミューレイは僕の色違いのライトアーマーで魔術師らしい小さなマントが付いていて、踵の高いブーツを履いている。ブーツはミューレイ特注らしい。
みんな今回だけの海バージョンといったところだ。
間もなく要注意海域に到達する。被害にあった船が見付かった場所はそれほど広くは無い。こんな動きが制限されるような珊瑚礁帯で襲ってくる海賊はそれなりに特殊な力を持っていると考えて対応しないと危ういだろう。
エスカル第3海兵長達が注意を促す前に僕は異変が起こり始めたことに気付いた。靄というか霧が発生し始めたのだ。こんな珊瑚礁が入り組んだ海域で霧とは不自然すぎる。坐礁の危険もあるので次第に船速も落ちてくる。
不自然な霧は魔素放出を妨害していて普通の魔法が効きにくい空間を造り出していた。霧が濃くなるに連れ、船は完全に停止せざるを得なくなった。
そして、どんよりとした霧の中から声が響いてきた。
いよいよ敵との遭遇。
ナオヤ達の手に負えるのか?はたまた、熾烈な戦いになるのか?
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やっと更新が出来ました。お待たせしました。
でも、まだ導入部ですね。
次こそ意外な相手との戦いです。
楽しみ~♡
何時も 二番煎じ を読んでくれてありがとうございます。
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これからも よろしくお願いします。
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