メジーナ博士と都市メネアン
まず、向かったのはメジーナ博士が担当の 古き都市メネアン であった。
なぜ、メジーナ博士はここを選んだのか?
ババロンとの関係は?
転章1 世界探訪記 勇者家を買う③
勇者であり、家を買う行動を始めた八神直哉です。
実際の都市メネアンはある意味廃墟だった。かつての栄光を失い寂れつつある都市の容貌を見せていた。そしてそこに住む住人もまた過去に縋り付くかのような薄手の貫頭衣とフレアスカートのような姿をメネアン市民はしていた。貫頭衣は色とりどりではあり、あちらこちらがレースで出来ていたりして、防寒性の無い形だが気温の高いこの地域ではこの姿が楽ならしい。
都市の中央に聳える途中で折れた形の尖塔はかつての軌道エレベータであってその基底施設だけが生きていて、都市長の居る市庁舎施設になっていた。
僕はメジーナ博士を伴って昼前早くに此処メネアンに来ていた。
「市庁舎に都市長が居るようだ。予め面会予約してあるから会える筈だよ。」
「一体どんな口実で面会予約したんだ、メジーナ博士?」
悪戯っ子ぽい顔でメジーナ博士は
「寄附を申し込んである。それもおいそれとは追い返せない位の額でね。
そこから話を進めればレウナン島の買い取りも可能だろうと言う腹積もりさ。」
かつてババロン研究所のあった島の名前がレウナン島らしい。
今飛空挺クレイモアはその上空で姿を消して滞空している。
「そろそろ予定の時間だから中に入ろう。」
メジーナ博士が先に立って受付に行き訪問を告げた。
2人居た受付嬢の片方と話をしていたメジーナ博士が後ろで立っていた僕を呼んだ。
「彼女が案内をしてくれるそうだから行こう。」
僕は頷いて案内嬢とメジーナ博士の後を追った。
受付横に昇降機があり、案内嬢が開閉扉横の4つの魔石の内の1つにに触れると扉が閉まり、上昇し始めた。
僕が少し驚いて居るとメジーナ博士が小声で説明してくれる。
「昔と変わらんな。魔導炉がまだ活きているのだろう。
ただ、荷重を感じる所からして重力低減器は死んでいるようだ。」
流石はババロンの転移者が作り上げた施設だと感心していると数分で到着した。案内嬢とメジーナ博士と僕達が降りると昇降機は自動で戻って行った。
案内嬢を先頭に僕達は通路をそのまま進み、正面の両開きのドアを開けた。
そこは都市長の執務室で大きなデスクで書類を無心で読んでいる人物が座っていた。
「都市長、お連れしました。」
案内嬢が声を掛けると
「おお、イリアありがとう」と言って立ち上がった。
大きな窓を背景に立ち上がった人物は恰幅が良く小柄だか品の良い白髪の老人だった。
イリアと呼ばれた案内嬢はつつと歩いて都市長の横に立った。秘書を兼ねているようだった。
「私が都市メネアンの市長をしているカワスミじゃ。メリーゼ・カワスミ・メネアンと言う。」
えっ?とメジーナ博士と僕は小さく声を上げてしまった。外見はどう見てもおっさん風だから男と思ったのだ。しかし、ソプラノで濁りの無い綺麗な声だったのだ。
「女性でしたか?」
僕が尋ねると軽快な笑い声を上げながらカワスミ都市長は机を迂回してソファの方へ歩みながら答えた。
「初めて会う者達は必ず驚くんじゃ。儂が男と思い込んでな。」
僕に差し出された手を握手して僕も自己紹介をした。
女と言いながら言葉遣いはまるっきり男だ!?
「莫大な寄付金をありがとう。それにしても『ババロン商会』とは大きく出ましたな。この都市で登録されている『ババロン商会』はこれで4つじゃぞ。
元祖ババロン商会、本家ババロン商会、真ババロン商会メネアン本部とあるからのぉ。」
メジーナ博士が突っ込みながら言う。
「ただの『ババロン商会』は如何したんです?」
「ははは、他のババロン商会に潰されたんじゃよ。だからお前さん方の『ババロン商会』は実に3年ぶりの『ババロン商会』と言うことになるのぉ。
ふむ、知らないと言うことはシジャビットの『ババロン商会』とは無関係なんじゃな。」
何とも言えない顔で答えないでいるとメジーナ博士が説明をする。
『まあ、名前だけの『ババロン商会』はあったかも知れませんが私達は本当に『ババロン』ですよ。』
言葉に詰まったかのようにカワスミ都市長は複雑な顔をした。
「カワスミ家にしか伝わっていない秘密を言いましょう。それが本当の『ババロン』である証拠に為りましょう。」
とメジーナ博士が言う。
益々複雑な顔になったカワスミ都市長か鋭い眼差しをメジーナ博士に向ける。
「秘密?何のですかな?」
カワスミ都市長の隣に立っていた秘書イリアが興味深そうに市長を見詰めていた。
「これですよ。」と言いつつメジーナ博士が都市長室の壁に掛けてあった巨大な額縁付きの抽象画に近づく。
カワスミ都市長の視線がメジーナ博士を追っている。
「この画は初代カワスミが設置したユートピアを表した抽象画です。そう説明するように言われている筈です。しかし、本当は…」
メジーナ博士が振り返って額縁に手を置き、素早く正確にまるで規則性があるかのように模様をなぞり始めた。
そして、抽象画から少し離れる。
すると、甲高い機械音をさせて抽象画が分解されていく!
そしてそこに現れたのは先ほど登ってきた昇降機の入り口だった。
「ん!それは!」息を吞んでカワスミ都市長が声を上げた。
「誰にも開けられる筈の無い地下への昇降機!
いや、しかしババロンの血縁にしか開けられず、カワスミ家の協力者しか知らない開け方の筈だ!
一体、あんたは誰なんだ?」
カワスミ都市長は驚きと歓喜を持ってメジーナ博士に詰め寄った。
「だから、先ほどから言っている本当の『ババロン』ですよ。
私の名はメジーナ・ババロン!
初代カワスミの友人にしてこの軌道エレベータの設計者ババロン!」
驚愕に染まるカワスミ都市長にどや顔のメジーナ博士が少し鬱陶しい。
後で聞いた話では抽象画の額縁に魔力を通しながら初代カワスミの名前をなぞると開くようになっていたと言う事だった。
「地下施設へ入ってみますか?メリーゼ・カワスミ・メネアン都市長殿。」
昇降機の入り口から少し退いて手を差し伸べてメジーナ博士が仰々しく言う。しかし、その顔は笑顔だ。
興味深そうに目を細めてカワスミ都市長は頷いたので、メジーナ博士を先頭に皆で昇降機に乗り込む。秘書のイリア嬢も一緒だ。
メジーナ博士が操作すると重力を感じさせない機械音だけして昇降機が動き出す。
イリア嬢が眉を顰めながらメジーナ博士の操作を見詰めている。
「ああ、四属性魔法が使えないと重力低減器は働かないんですよ。イリア嬢は魔法は何をお持ちです?」
と何でも無いように訊く。
「ええっと、私は水属性魔法しか使えません。」申し訳なさそうに頭を下げて小声でイリア嬢が答える。
「メジーナ様のように四属性も持つ者はメネアンでは私だけでしょうな。」とカワスミ都市長がイリア嬢を庇うように答えた。
ピーンと金属音がしてどうやら昇降機が地下施設へ到着したようだった。
「では、カワスミ都市長に操作方法を後で教えましょう。」とメジーナ博士が言うと、カワスミ都市長は「よろしくお願いします。」と答えた。
昇降機のドアが開くとそこは大きなホールのようだった。
壁がかなり遠くにある高さ10Mくらいの空間だった。天井は白くて仄かな光を放っている。
昇降機近くには見たことがあるような台座があった。転送装置であろうか。
「ここは避難施設ですよ。」と僕の方を見ながらメジーナ博士は言った。
「メネアンに何かあったときに市民を避難させようと造ったものです。メネアンは巨大な岩盤の上にあり、その岩盤内をくり抜いて造られているのです。
ここの施設ではおおよそ10,000人程度収容出来る筈です。
他にも幾つかある筈ですが、伝え忘れ去られているようですね。」
「なる程」とカワスミ都市長は頷いていたが僕には納得のいかない説明だった。しかし、何も言わないで置いた。
何も無い避難施設にいても仕方ないので昇降機に戻り、メジーナ博士がその操作方法をカワスミ都市長に教え、都市長室に帰る。
ソファに僕達が座り、メジーナ博士が口を開く。
「実はお願いがあるのですよ。メネアンの東にあるババロン研究所のあったレウナン島を買い取らせて欲しいのです。」
避難施設の余韻に浸っていたカワスミ都市長が目を見開く。
「勿論、あの島は伝承に依ればババロンの持ち物だったと聞いていますから了承するのに吝かではありません。が、しかし私は納得しても議会が納得しないでしょう。レウナン島は都市メネアンの管理下にあるので売却は可能ですが私の一存では無理と言うものです。…ちなみに金額はどれ位を出せるのです?」
と身を乗り出しなが訊く。
メジーナ博士が答えた金額を聞いてカワスミ都市長は「寄付金とは別になるのですよ?支払いは大丈夫なのでしょうね?」と念を押す始末だった。
それくらいメジーナ博士が提示した金額は高かった。
うんうん呻りながら小声でイリア嬢と相談をするカワスミ都市長だったが、腹は決まったようだった。
「指定日までに金貨で支払いが可能であれば都市長権限で許可しましょう。
ただし、条件があります。」
メールがアイテムボックスから金貨の詰まった袋を幾つか取り出し、テーブルに積み上げる。
ガシャガシャ音を立てて置くとテーブルがミシミシ音を起てる。
メジーナ博士が言った。
「即金です。是なら問題無いでしょう?」
どや顔がメジーナ博士は得意なのだろうか?
金貨2万枚、おおよそ20億円ほどである。
因みにサロメは金貨1,000枚(1億円)で落札されている。
即座に現金を積まれ、カワスミ都市長は金貨をイリア嬢に任せ、条件を話始めた。
カワスミ都市長の示した条件とは?
ナオヤの前にまた難問が立ち塞がる。
果たしてナオヤは解決出来るのだろうか?
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何時も 二番煎じ を読んでくれてありがとうございます。
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