リイアとガルドブルク
アシュラム邸を訪れたナオヤ達を出迎えてくれたのはあの人だけど・・・・
この子は誰だ?
転章1 世界探訪記 ビエト連邦~英雄の末裔Ⅳ
勇者八神直哉です。ビエト連邦から出られないのは出られる条件が整って無いからでしょうか?
英雄の話が出たとき僕はベネトン伯爵に会わせたい人が居ると言ってサロメを連れて来た。
どちらの英雄の孫になるのか分からないがベネトン伯爵が見れば何か分かるのでは無いかと淡い期待を抱いたからである。
しかし、結果として分からない。母親似なのか、英雄の面影のようなものは感じられないとのことであった。
まあ、サロメはサロメと言うことで英雄の孫だからどうだと言うことでは無いので問題は無いのではあるが、少しモヤモヤする。
行方不明のヴォルフ・フセスラフが古龍の言葉を覚えていて来てくれれば手掛かりを得られるのでは無いかと期待する。
「3日後の戦いの備えは騎士団長である甥のガルドブルク・アシュラムがしているが儂も身体が治ったからには参加するぞ」とベネトン伯爵が宣言したが執事のサロイが止める。
ナオヤも欠損が無くなったからと言っても血液も足りないし体力も落ちているだろうし戦いには無理があることを伝えると残念そうに断念したが、ナオヤに協力を要請してきた。
奴隷商トリビュートも懇願するので明日再訪して話をする事になった。
アシュラム邸を辞してトリビュートと分かれた後、ナオヤ達は飛行艇クレイモアに戻って食事を取った。ベネトン伯爵の回想が長引いた為遅めの夕食となったが、セラとメジーナ博士を交えてベネトン・アシュラム伯爵と古龍との戦いの話をした。
サロメは遠慮したが一緒のテーブルで中華タイプの食事をさせる。
メジーナ博士は賛成してくれたがセラは余り乗り気では無いようだった。他国のトラブルに巻き込まれるのを嫌ったと言うより竜種との戦いを恐れて居るようだった。
どうやらバフォメを襲った竜種達の戦いで僕が倒れた時のことを思い出して心配してくれて居たようだ。
もちろん、あの時の僕とは違うことはセラにも分かってはいるのだろう。そんな気遣ってくれるセラが愛おしい。
セラとの関係はキスすら無い恋人未満な関係だがセラの心の闇を解決しない限り進展出来ないのは分かっている。焦ってもどうにもならないので今は待つしか無いのだ。
その代わりと言っては何だがミューレイが積極的だ。年齢を感じさせない幼い外見だけど矢鱈と僕に接触してくる。そして、その度に愛を囁いてくる。
消極的だが何時もそばに居て見守って居る葵は忠実な従者のようだ。僕を護る剣を自認する葵はその愚直な態度で僕に愛を訴えてくる。僕だって朴念仁じゃあ無い、葵の気持ちくらい分かるつもりだ。
そこにサロメが新たに加わった。欠損回復をなしたのは葵とセラだというのにその感謝は僕に向けられた。奴隷となったのは最近の筈なのに奴隷のように全てを受け入れて、葵とは違った侍り方をする。
僕としてはサロメはもっと違った態度で良いと思うのだが結構頑固に態度は変えない。
まあ、サロメは愛を囁いたりしないけれど。
話が逸れたけどみんなそれなりの形で僕を思ってくれている。
僕はそんなみんなに何も返してあげれていないのだけれど、出来る言葉は掛けてあげようと思う。
饒舌では無いから素敵なことは言えないし、どんな事をしてあげれば良いのかは分からないけど、誠実であろうとは決めている。
とにかく、古龍退治をする事は決まった。
後は相手の勢力やらこちらが集められる武力によって僕達の役割は変わってくる筈だ。
ベネトン・アシュラム伯爵との正式会合で詳細は詰められるだろう。
その日は飛空挺クレイモアで休んだ。結構重い話を聞いたせいか転生してからは無かった悪夢を見た。何かが心にのし掛かり潰される夢だった。余程疲れたのだろうと思う。
時間の指定は無かったが軽く朝食を取った後、メジーナ博士を除いた全員でアシュラム邸に転送された。おおよそ9時頃でこの世界にしては早い時間である。
僕達クレイモアで過ごす者達は3食食べるのは普通と思っているが、この世界では昼直前と日が暮れて暫くして夕食を摂るのが一般的だ。
セラや葵、ミューレイ達が慣れるまで戸惑いも多かったのでは無いかと思う。
アシュラム邸は静かだった。門兵は来訪を告げると驚いていたが、来ることを聞いていた為に中に入れて貰えた。出迎えたのは執事のサロイだった。
「お早いご訪問でございますね、ナオヤ様。主人より承っております故こちらの部屋にてお待ち下さい。」
と言ってそこそこ広い部屋に通された。
広いテーブルに配置された椅子にナオヤが座ると回りをセラ達が囲んで座る。葵が背後で立っていようとするので無理矢理座らせる。
サロメが最後まで座ろうとしない。むしろしゃがんで侍ろうとするので説得して無理矢理座らせた。
何でこんなことに努力せにゃあならんのか?
間もなくメイド達がやって来て僕達の前で紅茶を入れて持て成してくれた。今暫く時間が掛かると言われて待っていると小さな女の子がメイドを連れてやって来て椅子に座る。
みんなが誰だろうと考えていると自己紹介をしてきた。
「私はリイア・アシュラム、この共和国の宰相をしている。」
どう見ても僕達より小さい。ベネトン・アシュラムの子供だから10にも満たない筈だ。
不審そうな僕達の顔を見て、ため息をつきながらリイアは言う。
「年は8歳だ。こう見えてももう3年程宰相を務めているが王、いや議長閣下からの信任も厚いんだぞ。」
威圧するように見渡す顔は真面目なために却って可愛く見える。
「お前達が勇者一行だな。」
改めて僕達は自己紹介をするとそれなりに驚いて貰えたようだ。聖女や王女が居るからね。
明日の対古龍戦で主力となって戦う積もりのことを言うと何か言いそうだったが口を噤んでしまった。
「戦いの備えは騎士団長であるガルドブルク・アシュラム殿が編成を整えている。各50人の3騎士団が対応する予定だ。ただ、古龍がどれ位眷属を引き連れてくるか判らないのが難点ではある。
普通のドラゴンであれば10匹程度まで無力化出来る練度はあると報告を受けている。ただ、実践が無いのが不安なのだがね。」
判断力、言葉は幼い外見に関わらず宰相のものと言えた。
そこで、サロメが口を出した。
「恐らく古龍は以前と同じ戦力、戦い方でやってくると思われます。何故なら退くときに復讐すると言ったのでしょう?プライドが高い古龍ならその数で無いとプライドが許さないでしょうから。
当時、普通のドラゴンが2体、グランドドラゴン6体、亜種であるレッサードラゴンが15匹だったとアシュラム伯爵さまの話でした。
これだけの数が突然王城の中庭に現れたと聞いています。方法や理由は不明。恐らくは古龍の固有魔法に依るのでは無いでしょうか?
固有魔法の制限は重さと配置のエリアの大城さでしょう。そう考えると連れて来た眷属の種類と数に合点が行きます。
ただ、不安なのは古龍の色です。灰色系の闇色と伺ったのですが、闇魔法系統のイレギュラーとすると前回の龍息以外に特殊能力を持っている可能性があります。
考えられるのは叫び声に依る混乱や麻痺などの特殊攻撃、それと衝撃に依る行動遅延や過重力攻撃などです。
対応として特殊装備による耐性向上があります。
騎士団の皆さんにはそのようなものは配備されて居ないでしょうから古龍以外の敵との戦いが相応しいと思います。武器もドラゴン由来の武器があれば良いですが通常の黒鉄製では古龍には通じません。
そこから考えれば古龍に対応するのはナオヤ様と葵様、ミューレイ様は普通のドラゴンをメインに遊撃、セラ様は負傷された騎士団の方々の回復を為さるのが良いでしょう。騎士団の方々は普通のドラゴンを含めたグランドドラゴン以下のドラゴンを殲滅するのが効率的と思います。」
一気に話したサロメに一同が唖然としていたがナオヤだけが満足顔そうだった。
そこへ突然ドアが開きベネトン・アシュラム伯爵が執事のサロイと1人の騎士を連れて入ってきた。
「素晴らしい戦力分析と作戦だ。ナオヤ殿が連れてきているだけのことはあるな。」
俯いたサロメが小声で
「差し出がましい口を利きました。申し訳ありません。」
と言った。
先程までの熱の籠もった弁舌とは打って変わった怯えの含まれた声であった。
「サロメの作戦で行きたく考えますが如何でしょうか、ベネトン伯爵様。」とリイア・アシュラムの横の椅子に座るベネトン伯爵に向かってナオヤは問いかけた。
ベネトンは背後に立っている騎士に声を掛けた。
「今のを聞いてどう思う?ガルドブルク。」
「確かに我ら騎士団が古龍に敵わないかも知れない。だが勇者ナオヤ殿が敵うとは言い切れないと思う。勇者ナオヤ殿の実力を知りたい所ですな。」
ギロリとナオヤを睨みつけるガルドブルク騎士団長。
若い。と言ってもナオヤより年上の18歳なので葵よりひとつ下ではある。
「そして、ベネトン伯爵様がお使いになったカサナイダてあれば古龍と言えども倒せるかも知れん。」
サロメが何かを言い掛けたのを片手で制してナオヤが答えた。
「仰る通り僕の戦っている姿を見せていないから信用できないのは分かりますよ。」
満足そうに頷き、ガルドブルク騎士団長が続ける。
「そちらに居る騎士の方と対戦させて頂きたい。」
意外にもナオヤとの対戦で無く葵を指名してきた。
確かに葵はフルプレートの全身鎧をした偉丈夫なのでこの中では強そうに見えた。
間違いを正そうとするナオヤが答える前に葵が怒りを込めた受け答えをした。
「承った。拙者がお相手致そう。」
唖然としたナオヤだが首を振り、それを了承した。
苦笑しながらリイアが話をする。
「それと話は変わるがアシュラム家のものとして此処で正式に謝意を表したい。
本当に父を治してくれてありがとう。
どんな財貨でも望みを満たせる事を全力で成そう。
そして、この国の宰相としても感謝する。ベネトンアシュラムはこの国の英雄だ。議長からの直接的な褒章は出来ないが代わって礼を言う。
何某望みはあるか?」
ナオヤが立ち上がると全員が椅子を引いて立ち上がる。
深くお辞儀をしてナオヤが
「感謝を受け取ります。
僕は勇者なので出来ることをしたまでですよ。
望みと言えばこの国での円滑な活動をお許し願えればお願いしたい。」
と言って再び座る。
葵以外の全員が座るとリイアが
「では、そのように通達を出そう。それから聖女セラ殿の活動に支障を来さぬようにガライヤ教会の活動制限を取り外そう。
まあ、この国の国教とも言うべきガライヤ正教会があるので無制限とは行かぬがな。」
「何の礼も要らぬとはいえ、我が感謝を少しばかり財貨として用意したので持って行って欲しい。」
そう言ってベネトン伯爵が執事のサロイに運ばせたのが金貨の詰まった袋2つである。
金貨2000枚をナオヤはインベントリーに収納する。
「ありがとうございます。とても助かります。」と礼を言うとベネトン伯爵も満足そうであった。
「時に勇者ナオヤ殿に頼みがある。」
リイアがニコニコ顔を引き締めて話し掛ける。
「西側にアシュラム家の領地があるのだが50㎞程離れた地に“瘴毒の沼“が発生して魔物が活性化して近々の村を襲っているらしいのだ。これを何とかして貰いたい。」
瘴毒とは水が瘴気に侵され毒と化したもので近づく動物を魔物化し、凶暴にすると言われているものだ。浄化の魔法を使わないと消すことが出来ない厄介なものである。
だが、葵の神聖魔法なら浄化も簡単に済むだろう。
ナオヤは頷いて
「古龍戦の前に片付けましょう」
と言った。
対古龍戦の為の打ち合わせにハプニングです。
ガルドブルク・アシュラム対葵
果たして。
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何時も読んで頂きありがとうございます。
ブクマ宜しくお願いします。
批評批判、誤字脱字指摘承ります。
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