合体魔法(ユニオン)と進化
慌ただしい中にも生活があります。
葵の場合は・・・
転章1 世界探訪記 ビエト連邦⑦
勇者八神直哉です。ビエト連邦はとにかく寒いです。
慌ただしい1日が過ぎて次の日の朝日が登る頃、葵が稽古の為に起き出す。
冷たいシャワーを浴びて身を引き締めた後稽古用の道着を身に着ける。
慣れたもので短くクレイモアに指示し訓練室に転送して貰い、ランニングトレーナーに乗りゆっくりとランニングを始める。
10㎞程走った後、腹筋、ウェイティング、鉄棒をする。
きちんとインターバルを挟みセットを作り込んで鍛えている。
へとへとになるまでやらず、軽く汗を流す程度に抑えているのだ。
その後近接のサウナに入り汗を流し、温めの風呂に浸かり朝の鍛錬は終わりだ。
ババロンにくる前は野山を駆け回る走破をしてから滝に打たれて終わるような鍛錬しか出来なかったが、此処では効率的に安全に快適に出来るので葵は満足している。
鍛錬の後食堂に行き朝食を取る。
何時もは静かな食堂だが今日は些か違っていた。
食堂の一角にナオヤが連れてきた奴隷の子供たちが食事をしていた。
ナオヤも一緒だった。
葵が入ってきたのを見て、ナオヤが立ち上がり話しかけてきた。
「葵、おはよう」
葵が挨拶を返すとナオヤが葵の視線に気付いて
「昨日買ってきた奴隷の子供たちだ。紹介するから一緒に来てくれ。」と言った。
近くまで行くと子供たちが一斉に立ち上がりこちらを見た。
「皆、この人が“おおいあおい“さんだ。しっかり覚えてくれ。」
口々に宜しくとかおはようございますとか言う。
葵が戸惑っているとナオヤが更に説明した。
「セラとミューレイ、メジーナ博士が揃ったら先ずはサロメの治療をするから助けてくれ。」
サロメと呼ばれた女の子はかなりの美人だが見せないようにしている右半身にケロイドが見えたので葵は頷いた。
葵は何時もの如く近くに控えているサーバントに朝食を頼む。
少し離れた位置で座り直して奴隷の子供たちを眺めた。
様々な姿をした獣人の子供たちとサロメ。最初の6人は分かるがサロメと呼ばれた女の子と鷹の姿をした獣人の男の子が増えていた。
総勢9人、女神ガライヤ様の指示で人を捜しているのは分かっていたがこの子達はどうするのだろう。
只の同情で連れてきた訳では無いのだろうとは理解していた。
葵の視線は子供たちを見ていてもサロメに戻って来てしまう。どうにもサロメが気になってしまうのだ。
運ばれてきた朝食は普通の人が食べる量と較べると多い。野菜もあるが主役は肉だ。切り分ける必要が無いようにカットされていてレアに焼かれている。
それから加工肉のソーセージやミートボールが並ぶ。
一通り食べ終わるとババロンに来て習慣となった乳製品を食べる。
メジーナ博士が鮮度に拘った為、クレイモアの船底には乳牛が飼育されている。
朝取りの新鮮な牛乳が飲めるのだ。
王侯貴族でさえ望めないような朝食である事は葵も理解していた。クレイモアで休み、食べられるときはしっかりと食べて体力を培って置かないといざ戦いとなった時へばってしまう。そうしたらナオヤの力になれない。それだけは避けるのだ。
そうこうする内にセラ、メジーナ博士、ミューレイとやってきた。ナオヤが葵の時と同じように話し掛けて説明する。
3人は葵にそれぞれ挨拶して近くに座り、朝食を取り始めた。
ミューレイが昨日の出来事を食べながら話してくれた。
ナオヤさんがサロメと言う女の子を買い取った後に起きた襲撃事件を聞いた時に思わず立ち上がり掛けたが、ナオヤさんの鮮やかな対応を聞いてほっとしたのと同時に自分がその場に居られなかった悔しさを感じる。
そして、鷹の獣人兄弟の話と侍を雇ったと言う話を聞いて自国の事を思い浮かべた。誰か知り合いだろうか?
そんな話をしている時に食堂の入り口に気配を感じて其方を見た。
葵の行動に釣られて他の3人も首を回す。
入り口には着流しを着た男が立っていた。
葵にはその男に見覚えがあった。
ナオヤさんが立ち上がって
「おお、起きたか。ちょうど良かった。
みんなに紹介するよ。」
その場からナオヤさんが声を上げる。
「侍のシレンさんだ。子供たちの指導をしてくれる予定だ。
シレンさんも一言頼む。」
シレンは居住まいを正し、お辞儀をして口を開いた。
「シレンだ。武者修行の為の小遣い稼ぎの護衛中にそこのナオヤさんと出会って此処に連れて来られた。
ナオヤ君、此処は一体何処なんだ?」
葵が立ち上がり、ツカツカとシレンに近づく。
葵に気がついたシレンが声を掛ける。
「おお、本当に葵だ。久し振りだな。」にこにこしていてまるで警戒していない。
シレンの目の前に立ち、葵が言う。
「一体何処をふらついて居たんです?兄弟子。師匠も随分と探したんですよ!
あなたが飛び出してしまったからえらく苦労させられましたよ。」
アハアハと軽薄にシレンが笑う。
「それよりも葵、師匠から皆伝許可が出たんだって?強くなったのか?
なら、後で俺と試合おう。」
シレンがガッと葵の肩を掴む。
「葵との話も試合も後にして取り敢えず朝食を食べて下さい。」ナオヤさんが話し掛けてシレンに食事をさせる。
→♪
シレンには何が食べられるのか分からないからナオヤさんが代わりに頼んであげる。
出てきたのはコンソメスープとサンドイッチだった。
シレンは見た目に驚き、食べてはその味に驚いていた。それはそうだろう、白くて柔らかいパンなんて貴族でさえ食べられていないのだから。
シレンが食事を済ますと
「よし、これで全員が揃ったな。それじゃあサロメとグリフォン獣人兄弟レンとライに回復魔法を掛けるぞ。セラ、葵頼む。」
サロメと獣人兄弟レンとライを中央に、セラと葵が挟み込む形で少し離れて立つ。その周りをみんなが更に離れて見守っている。
ロキシーの時と同じように葵がリバイブを唱え、葵ごと全員にエリアヒールを掛ける。
すると、サロメと獣人兄弟レンとライの身体が光り出す。
白い光の中に目を射るような輝線が入る。サーチライトのように当たりを照らし出しながら白い光が治まると身体に燐光を纏ったサロメとレンとライの兄弟の姿が見えた。
光っていたのは1、2分程度であろうか。
レンとライの姿は一回り大きくなり、背中の折られて小ぶりだった羽も産毛が無くなり茶褐色の羽根へと変化していた。
鼻と口を覆っていた嘴が無くなり人間のような顔となった。
目は薄い金色で瞳孔の形が丸くなく縦に楕円形をしていた。
髪は羽根のような色質で暗褐色となっていて、耳元に少し小さな羽が残っていた。
子供から成人した一人前に変わったのだ。
そして、その種族名もただの獣人から“グリフォニュート“となっていた。
スキルは『飛行』が『飛翔』に変わり、『千里眼』が加わっていた。
ステータスも全体的に少し上がり、風魔法が初級から中級になっていた。
レンとライの背丈は殆ど変わらない為双子の様であり、レンが面長でライが丸顔くらいの違いでしかない。
2人はお互いを見やって喜び笑い合っていた。
サロメの変化も劇的だった。欠損していた右腕が元に戻り、右半身を覆っていたケロイドも消え、毒物の影響を受けていないと思われていた所もまた回復していたのだ。
青紫の髪の毛は軽くウェーブして肩まで掛かり、同色の睫は濃く長くくっきりと目元を彩っていた。
歪んでいた鼻梁は真っ直ぐに伸び、少し歪んでいた唇は赤く引き締まり、顔全体のバランスが整った。
太目の眉毛は意思の強さだけでなく思考までが豊かであることを示していた。
右に歪んでいた背骨は真っ直ぐとなって、背丈も伸びたようである。
元々艶やかだった肌は大理石のような輝きを纏う程で、魔法の余韻というより自らの魔法が発動している様に見えた。
サロメは自分の顔や身体を触り、確かめる度に喜び、何やらぶつぶつ言っている。
譲渡された時に確かめたスキルの『賢明』は『怜悧』へと変わり『並行思考』が加わっていた。
火魔法は初級から中級となり、新たに水魔法を覚えたようだった。
3人の回復作業が終わった余韻も醒めやらぬ内に僕は子供たちの“隷属の首輪“を外して変わりに腕輪を装着して回る。
何事なのかと子供たちはざわつくので全員に説明を始めた。
「君たちは今から奴隷では無くなった。変わりに金銭貸借契約者となった。
つまり、働いて自分たちを買い戻して貰う僕の部下となった訳だ。
付けて貰った腕輪は僕と雇用契約を結ばれている証拠であり、居場所を特定する為の物でもある。
先ずは半年ほど勉強や自衛訓練や魔法の修得をして貰う。その後僕の指示で様々な職業に就いて貰い、金銭の返却と必要な労働をして貰うことになる。
自分の生まれ故郷に帰りたい場合は休暇を取って帰ることも条件に依っては許す事になると思う。
追々僕や僕たち仲間の事情も話して行くので不安も解消されると思う。」
「じゃあ、メジーナ博士子供たちの着替えを宜しく頼む。」
そうメジーナ博士に振れば
「分かったよ。最初に子供たちを連れてきた時から大急ぎで色々用意してあるから別室で着替えたまえ。
私に着いて来ると良い。」
メジーナ博士はサロメやレンとライ兄弟を含め子供たちを引き連れて食堂から出て行った。
残されたセラ、葵、ミューレイに再度彼らの事について話そうと僕は向き直った。
ババロンの完成はまだですがナオヤの周りの仲間作りは着々と進めつつあるようです。
ナオヤのこれからの目論見は何でしょう?
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何時も読んでくれてありがとうございます。
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ブクマどんどんお願いします。
これからも 二番煎じ を宜しくお願いします。
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