魔法と冷蔵箱
ナオヤの面目躍如です。
更にやらかしちゃう?
承章1 始まりの村 アデル⑧
僕の名前は八神直哉。
どこにも居る普通の中学生だ。でも、甘えてばかり居られない年頃だ。
冷蔵箱に使ったのはメリダさんの所で家事の材料として燃やされる筈だった“麻“である。メイちゃんを助けた沢の付近でメイちゃんが盛んに薬草として麻を採集していたのを見ていたから麻を冷蔵箱の断熱材として利用する事を思いついたのだ。
冷蔵箱を恒常的に利用出来れば低温を必要とするデザートを作る目処が立つ。彼がプリン作りに失敗した訳は現代社会では安価に手に入る卵、牛乳、砂糖がこの女神ガライヤの世界では高価であることを知っていなかったからだ。また、5年と言う月日も経済状況を変えてくれていた。卵の入手はさほど変わらないが、牛乳はその価値を認められ隣村イーナで牧畜が普及したため約半額まで安価になり、甘味としての砂糖はむしろ高騰していたが、代替品として蜂蜜がどの家庭でも定着していたので作れる環境ではあると言える。
プリンをアデルの村の特産品とするためには卵か蜂蜜の産業化を目指せば良い。そこは村長のメイクンの判断だろうと思う。プリン作成のためのレシピとその要点を書かれた紙をメディアさんに渡す。メディアさんだけでなくノワールの皆さんに喜んで貰えたから少しは彼の汚名返上は出来ただろうか。
お昼を回っていたが、冷蔵箱の件が終わったらまた違う話を聞きにメリダさんの家に戻る事にする。昨日の時点で予定を話して置いたのでメリダさんはお昼を用意しておいてくれた。軽くホットドックもどきを摘まみながらメリダさんと話をする。
「メイちゃんの童話の内容を教えてくれると言う事でしたが童話と内容が違うのでしょうか?」『始まりの書』と言う名前の童話の内容はこのガライヤの世界の神話を童話と言う形式で表したものなので、使っている文字は子供向けの表音文字タンだけで書いてある。言うなれば“ひらがな“に当たる。挿絵の横に大きな絵文字のようなものがかかれているが、これは表意文字ダンである。一語で一つの文章を表したり、台詞を表したり出来る。2つ以上になるとさらに隠された意味を持たせることも出来るらしい。だから、アデルの村で使っている文字はダンタン文字と言われている。
「何、ちょっと補足をな。ホレ、魔法について知りたがっていただろう?」ちょっと意味深な言い方でメリダさんは言う。
初めに魔法だけがあった世界に遙か彼方から女神ガライヤが現れた。女神を中心に渦巻きが現れて7つの属性が出来た、すなわち火水木土風光闇である。ガライヤが呼びかけると応える声が5つあった。すなわちマーメイド族・エルフ族・ドワーフ族・人族・魔族の5部族の誕生である。呼び掛けに応えなかった火と風の魔法属性はガライヤの従神となって名前を与えられた。火の従神をウォルトフ、風の従神をキルエレヤと言い、龍の姿をしていたと言う。女神ガライヤは2柱の従神に世界を任せ、神々の世界に帰ったと言う。
ここまでが前半で後半は光の属性を持つ人族の英雄が世界を統一し火の従神ウォルトフに認められる英雄譚である。
メイちゃんは後半の英雄譚を好んで読むそうだが、僕が気にするのは魔法の属性の事である。神話でも登場人物は魔力を使い魔法を発現させている。5部族の属性はその属性魔法が得意であると言う理由付けにされているだけで他意は無いとメリダさんは言う。メリダさんは使えないけれど光の属性を使う人族は回復・癒やしの魔法が得意であって教会はそんな人達の集まった場所なのだそうだ。もちろん女神ガライヤを奉っているそうで冒険者やハンターは良く利用しているそうである。アデルの村には教会が無いのでメリダさんを始め他の薬師の薬草やポーションを使っているのだ。
童話の最後にメイちゃんの手書きのダン文字が書かれていた。拙い描き方だか“アデル村のメイのもの“と書いたらしい。言わば署名だろうか。メイちゃんに聞くと持っている本の殆どに書いてあると言う。どうやらメリダさんの真似をしたらしい。メリダさん曰く、どこの家でも本は貴重なので買うと必ず書くのだそうだ。
そこで僕はハンコを作る事にした。象牙のように堀り易く扱い易いものは無いけどホーンラビットの角が使えるかも知れない。メリダさんにホーンラビットの角が余っていないか聞くと薬に使った余りが少しあるというので持ってきて貰った。メイちゃんに木の皮にダンを書いて貰い、それを魔素で包んで木魔法で文字を切り出して角の一部に当てて、角の中に埋め込む。埋め込んだ木の部分だけを燃やしてハンコの出来上がりだ。印影が逆転しているがハンコにインクを乗せ、確かめるように紙を擦るとちゃんと押せた。メイちゃんはわあ!わあ!と大喜びして、メリダさんは目をむいていた。
「これは何だい!」と言うのでハンコと言う決まった形を繰り返し書くことの出来る道具だと教えた。作り方はメリダさんが見ていた通りだが、途中で普通の魔法に無い魔法を使っていたので再現性があるだろうか?
そうメリダさんに言うと怒られた。魔法を使わないで角に金具を使って掘り出せば問題ないと言う。魔素を使った魔法は無属性魔法のような結果を見せる。つい、他の人にも同じ事を求めるのは間違いな事を忘れてしまう。
メリダさんは本屋のメデックに教えると言う。買った本人に所有者の印をするのと同じように作る側も作った者の印を付けるのは道理だった。多分アイデア料として支払いがあるよと言われたがメイちゃんの為に考えた事だからメリダさんに任せる事にする。
他に細々と魔法について訊ねた。生活にどの程度魔法が使われているのか、物を浮かせる魔法はあるのか、転移と言う魔法はどの系統のどんな階位の魔法になるのか、魔法が使えない人はいるのか、最強の魔法は何かなど思いつく限りを訊いてしまう。5部族の事まで訊いた。5部族に会ったことはあるのか、どこに住んでいるのか、言葉は通じるのか、魔法どうなのかとか、気になったことは全て訊いた。メリダさんも呆れながらも知っていることは全て教えてくれた。
それから最後になんでアデルの村の人達の名前がMから始まる名前なのかと訊くと「今更、そんな事を訊くのか?」と呆れられた。村の名前のアデルとは『アデル・メフィス・メディリカ』から付けららた名前で、始まりの木からこの地に降りてきた建国の祖に由来するという。位置的にはメディリカ共和国の東方海岸線にある村なのだ。建国の祖の名前のメフィスに因み皆名前をMから始まる名前にしていると言う。始まりの村は特別な村の為貴族並みの扱いをされると言う。建国よりずっと変わらないのは地形的な問題もあるが神聖視されているが故なのだそうだ。
彼が現れて騒がれた時は王都から迎えが来たが、迎えが到着する前にトラブルで彼は姿を消した。
今回の冷蔵箱の事でナオヤを認めた村長のメイクンが王都に使いを出すだろうとメリダさんは言った。
王都まで馬車で片道2週間、2人目の始まりの木の人が現れたと言う知らせを伝えるだろう。彼とは違いナオヤはちゃんとしているから王都からの迎えに応じて王都に行った方が良いとメリダさんは言った。
となると、長くても4週間しかここに居られないかも知れない。彼のように姿を消すか、正攻法で行くか決めないといけなさそうだった。ナオヤは神様に相談する事に決めた。
危険を承知で王都に行くのか
ナオヤの明日はどっちだ!