【短編】その生徒会長、女王様気質につき (3)
短編3。
集書き方の練習中です。読みづらいかもです。
時に教師は、生徒に責任を転嫁する。
その最たる例が、いじめの現場を目撃した際にする言い訳だ。
教師は『いじめられる側にも問題がある』と言った。私の記憶には、それに反論した記憶がある。
どうにも言葉に出来ない感情で、その時は『それは違う!』としか言えなかった。
それでも、今なら分かる。
それは、加害者の子供に問題があって、両親から十分な愛情を受けられなかったか、"痛み"に対する教育が足りないのだ。
子供自身が、不満の捌け口として選ぶのが、自分より弱そうな子供であるのは確かである。
だけど、暴力にしろ精神的な攻撃にしても、受ける側の"痛み"を知らないのだ。
教師は『選ばれる基準』を語っているだけで、仮にその子供が強くなったら、次に選ばれるのは後に控えた子供である。
では、どうすれば良いのか。そこまでの解決方法があれば、人類が争うことなんてなくなる。
前世の私が、非業の死を遂げることなんてなかったはずだ。
唐突に、なぜこんな話をしているのか。
それは、授業免除の特権を使って、校内を散歩していた時のこと。一人を複数人で取り囲み脅している生徒達がいた。
この学校における生徒会長の仕事は、こういう時に『実力行使』に出ることである。
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「何をしているの?」
酷く怯えた男子生徒に向けて、後ろから声を掛ける。
すると、その生徒を取り囲む体格の良い、上級生と思われる男子生徒が、こちらに向いてきた。
「た、助けて」
「お前は黙っていろ」
お山の大将でも気取っているのか、優越感を湛えた表情は、私という弱そうな見た目の女子生徒が近づいてきたことに、歓喜している。
「何をしてるか、聞いているの」
望まなければ、助ける義理はない。けれど、問いかけた結果、言葉が返ってきたからには、この状況をどうにかしなければならない。
「私は生徒会長。山吹 紅葉です。見ると……それは財布ですか? 窃盗は犯罪ですよ」
この学校は、生徒会長の実力行使が正当化されている。
もちろん、やりすぎたら罰則があるけど、生徒会長とは生徒の見本となる象徴である。
「生徒……会長? なら、俺らが袋叩きにしても、逆に許されるんだろう?」
いやらしい笑み。下品な顔つき。
取り巻きの何人かは、一瞬だけ怯むような反応を見せたが、大将くん(仮名)は気にするどころか、逆に嬉しそうに反応している。
死なない範囲なら、生徒会長へは異議があれば実力で反抗していい。
校則に書かれた、免罪符である。
「副会長はどうした? 一人か? ああ。今は授業中だったな」
わざとらしく、分かりきったことを口にする。
馬鹿なのか、それとも悪戯にだけは頭が回る性格なのか。
「囲め」
財布を取られていた生徒は、ただ呆然として、その光景を見ていた。
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私は手を叩く。すると、氷で出来た鏡がその場に現れる。
これは魔術。日本では9割の人間が使える『魔法』の、上位互換の技術である。
使える者は、魔法使い人口の1%にも満たない。
「こいつ、魔術師か」
色めき立って、周囲の戦意が膨らんでいく。武道の心得がある者がいるのか、その動きは思っていたより、素人ではない。
ならば……。
「虚像の鏡。蜃気楼――」
鏡が割れて、地面に氷が散乱する。
その欠片の一つ一つが、顔を覆うほど眩しい光に変わっていく。
蜃気楼。私の魔術の一つ。
現実ではない、幻を見せる技術。魔力で作られた仮想世界を、男子生徒達に見せる。
「ようこそ、私の世界へ」
ここで起きたことは、現実とはならない。ただし、痛みも苦しみも、死の恐怖さえも、精神的に感じさせる。
もちろん、この私も。
「これは何だ? 何をした?」
大将くんが取り乱した。周囲の取り巻きも、戸惑っている。
そこへ私は、西洋風のサーベルを投げる。相手には、何もないところからいきなり、武器を出したように見えただろう。
「ここは幻惑の中。痛みは感じるけど、怪我もしないし死にもしない」
「ほう。ここなら、気兼ねなくやれるってか?」
飲み込みが早くて助かる。度胸だけは認めてあげる。
「そこの貴方もよ」
「え?」
いじめられていた生徒へも、剣を投げて渡す。
地面に転がり、砂と金属が擦れる音が響く。
「ここから出るには、私を倒すか、私が満足するまで戦う必要があるの。貴方も例外じゃない」
そもそも、ある程度の精神的な強さを見せなければ、また同じ目に遭っても対処が出来ない。
「皆さん、まだ夢を見ているようですね」
投げナイフを6本、この場にいる男子全員を攻撃する武器を幻惑で作り出す。
「この痛みは、現実ですよ?」
曲芸師のように、正確にそれぞれの腕や足に刺していく。
「ぎゃあああああ」
「うっぅうう」
痛みに呻くように、全員が足や腕を押さえて声を上げた。
その瞳に映るのは、恐怖と絶望。
「まるで、子供ね」
私の顔は引き攣っていると思う。足元の鏡を見れば、嗜虐的に笑っている。
そして気を取り直すように、手を叩いて全員に向き直る。
「痛みは消えたでしょ? 傷もなくなっている。さあ、武器を取って掛かってきなさい」
「あぁ……あああああああ」
一番初めに立ち直ったのは、やっぱり大将くんだった。これだけ精神的に強いのに、何でいじめなんかするのか。
さあ、かかってきなさい。全員まとめて。
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最終的には、全員が私に対して切りかかってくる。
それでも、同じ武器を持った私は、剣技を使ってあしらう。
ひらりと避けると、すれ違いざまに切りつける。
確か拷問の中に、細かい切り傷を作って、致命傷を与えないよう苦しめる方法があったと思う。
「くそっ、何なんだよ!」
「もう、嫌だよ……」
敵わないまでも、少しでも相手に向かっていく姿勢があれば、多少は強くなれるだろう。
恐怖によって憎しみを塗りつぶし、上には上がいる事を思い知れば、少しはマシになるだろう。
「今日のところは、これくらいにしてあげようか?」
「「え?」」
これ以上やれば、相手が精神的に壊れてしまう。ここが引き際だった。
まだ、ぎりぎり戦意を保った者も居たけど、希望のない戦いをして、この言葉は光に見えるはずだ。
そうすれば、人の心は簡単に、水のごとく低きに流れる。
「また見つけたら、今度は手加減しないから。分かった?」
二度目は無いぞと、脅しを掛ける。殺すことはないけど、もう少し過激なプレイをすることになる。
「返事は?」
呆けたように、全員が持っていた剣を地面に落とす。
「はい」
「……はい」
本物の理不尽は、こんなものではない。
私はもう一度、手を叩く。
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幻惑の空間が消え去って、大将くんが財布を返して謝っていた。
全員が暗い表情で、葬儀に出た後のような顔をしている。
私は背を向けて、もう用はないので歩き始める。
「あの、待ってくれ! 待ってください!」
大将くんが、私の後を追いかけてきた。
「何か?」
今回は負傷者なしで、目撃者もゼロである。今更言わなくても、見逃されたことに気付かないほど鈍くはないだろう。
「生徒会長、あんたの強さに惚れました。俺を……」
何を言っているのか、理解できなかった。
告白か? あの流れで?
「俺を、舎弟にしてください! 何でもしますから!」
「は?」
予想外の言葉が飛び出してきて、私はしばらくフリーズした。
そして、一分間は馬鹿みたいに口をあけて、はしたない表情をしていたと思う。
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「俺の名前は、松原宗二です」
どうしてこうなった?
「あの……、舎弟なんて要らないから。さよなら」
「待ってください!」
あれ? さっきまでと印象が違う。頭がおかしくなったのだろうか。やりすぎたか。
「さよなら」
気分が悪くなったので、素っ気無く返すと、私は早足でその場から逃げようとする。
手を取ってきたので、叩き落としながら振り返ると、少し嬉しそうな表情をしていた。
「姐さんの、その冷たい表情が最高です。認めてくれないなら、勝手に舎弟を名乗ります」
姐さんって……どこの不良映画だよ。
押し売りも、ここまで露骨だといっそ清清しい。
「分かった……」
私はそこで了承してしまった。
言われるままに、久しく使っていなかった携帯電話を取り出して、連絡先を交換する。
通知領域に見知った名前と、妹の名前が表示されていた。
もう、会話なんて何ヵ月もしていない。
そこには『私』を心配する文面が並んでいたけど、もうその私は居ないのだ。
そして、複雑な心境のまま、色々なことが起った一日が終わりを迎えた。
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短編1と短編2に、評価を入れて下さった方、ありがとうございます。
とても励みになりました。
見ているか分かりませんが、ありがとうございます。