4.謁見
三日後。
私はお父様と一緒に王宮に行くことになっていた。何がどうなったのか解らないけれど、先日のレヴィン王子へのお願いが、レヴィン王子の父親である国王に漏れてしまったらしく、会ってみたいとの仰せだそうだ。国王に求められたら、謁見を断るという選択肢は無い。とはいえ、親バカなお父様は
『嫌なら断っても良いんだぞ?こぉ~んな可愛いお前を陛下に見せるのは勿体ないし。』
と言っていたけど。
謁見の間に通され、お父様と暫く待っていると、国王陛下と王妃様が一緒に現れた。目を瞠るような美男美女のカップル。勿論、お父様とお母様も美男美女だけれど、国王陛下夫妻は、格が違う。正に“完璧な”と付けても言い過ぎではない程の美しさ、お似合いのご夫婦だと思う。こんなお二人の愛息子であるレヴィン王子があれだけの容姿を誇るのは当たり前だね。
ぼんやり見とれた後、お父様の苦笑に気が付いて、慌てて臣下の礼を取った。といっても、お父様の見よう見まねだけれど。
「陛下。私の愛娘、シリルファリナでございます。」
「おはちゅにおめにかかりましゅ。しりるふぁりな・くりすちーんでごじゃいましゅ。」
「顔を上げよ。」
陛下に言われて恐る恐る視線を上げると、夫妻の優しげな瞳が見つめ返してきた。
「そなた、レヴィナイスに説教したそうだな?!」
怒ってる!と慌てた私だったけど、意外にも陛下も王妃様にも怒りの色は見えなかった。ただ、少々面白そうな光が見える。からかうつもりなのかもしれない。
「…………ごめんにゃしゃい。」
くくっと陛下は小さく笑った。思わずドキッとする。滅茶苦茶色気のある男だ。三歳児である私も、前世の記憶を持つ分、精神年齢はもっと高い。つい頬が熱を持ってしまう。だけど、陛下も自重して欲しい。いたいけな三歳児を誑かして、一体どうするつもり?!
「レヴィナイスと部下達の名誉の為に言っておくが、あやつが無断で抜け出したとは言っても、影なる護衛がいつも付いている。それを承知した上での行動なのだ。羽目を外したとはいえ、あやつもまだ子供であることには違いない。赦してやってはくれないか?」
多分私は、益々真っ赤になっているだろう。確かにレヴィン王子は第一王位継承者。常に護衛が付いていて当たり前だ。それに考えが至らなかった私はかなり間抜けだと、自分でも恥ずかしく思った。私がレヴィン王子に抗議という名のお願いをしたことも、おそらくその影の護衛たる存在から報告を受けたのだろう。
「…………ごめんにゃしゃい。」
もう一度謝ると、王妃様が微笑んだ。とぉっても温かくて美しい笑顔。また見惚れてしまう三歳児。
「怒っている訳ではないのよ?まだたった三歳だというのに、物事の道理に思い至る聡明さや兄上を護ろうとする愛情深さが素晴らしいと思ったの。」
「それに、レヴィナイスが面白い反応を見せたと聞いてな。それだけ可愛いお姫様を一目見たいと思ったところで罪は無いだろう?!」
陛下はまたくくくっと笑っている。面白い反応なんてしたっけか?覚えてなくて、どう答えて良いか解らず首を傾げたら、王妃様が溜息と共に囁いた。
「んまぁ!本当になんて可愛らしい!」
いや、まぁ、三歳ですから。
「シリルに手出しは無用ですよ?!殿下にもそうクギを刺しておいて下さい!」
陛下の言葉にムッとしたようなお父様の声。何で不機嫌になってるんだろう?
けれど、そんなお父様にもからかうような笑みを見せて陛下は言った。
「心配しなくて良い。あやつに婚約者がいることは、お前も知っているだろう?!」
「…………だから尚更、見境無く娘に近付いて欲しくない、とそう申し上げているんです。」
お父様は苦虫を噛み潰したように言った。
陛下は、めちゃくちゃイイ男ですが、笑い上戸です。