表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

3.三歳児との出逢い(SIDE レヴィナイス)

王子様視点です。第二話とかぶるので、抵抗のある方はスルーして下さって構いません。


 最近、いつも俺の隣にいる同じ年齢の男、セラヴィノーイ・クリスティーン。俺の唯一無二の親友だ。

 俺はクロスフィード王国の国王夫妻の長男として生を受けた。つまり第一王位継承者だ。勿論、父上もまだまだ若い。俺が王位を継ぐのは三十年も四十年も後のことになるだろう。それでも、自分の行く末がある程度確定していて選択する余地が無いことや、王位に就く重圧から逃げることも赦されないという現実は、俺にはとても重く感じていた。

 五歳の時に引き合わされたセラは、掛かる責任の重さが違うとはいえ、俺と似通った境遇にあった。父親が国王の親友で、しかも王国の魔術師達の頂点である王宮魔術師長の座にあるのだ。身の内にある魔力は、父親からの遺伝か、規格外と称して遜色ない程膨大らしいが、セラ本人は魔術を行使するより、知識を得たり戦略を思案したりと、そういう頭脳活動の方が好きらしい。つまり、魔術師としての教育を受けるより、宰相となるべく勉強していきたいみたいだ。そう簡単にはいかないようだが。

 そんな俺達が親友にならないという方がおかしいだろう。俺は、将来王位に就いた時には、魔術師でも宰相でも構わないから、身近にセラを据えたいと思っている。

 だがそんなセラには、親友である俺以上に大事な存在がいた。それが三歳になるセラの妹だ。セラが言うには、天使、ということだが、単なる三歳のガキンチョにうつつを抜かすセラには、正直ドン引きする。嫉妬?そうかもしれない。兄弟のいない俺には、両親以外で心を許せる相手はセラしかいないのだから。


 ある時俺は、我が儘を通して、セラの家まで一緒に行った。セラがそこまでデレデレする妹君を見定める為に。

 セラの後について部屋に入ると、ベッドに小さな女の子が眠っていた。豊かに波打つ栗色の髪、桃色に染まるふっくらとした頬、艶やかで可愛らしい唇。今は閉じられている瞼が開くと、瞳はどんな表情いろを映すのだろう。

 そこまで思いが流れてから認めた。確かにセラが大切に愛しても仕方ないだけの美少女だ。今は三歳だと言うが、近い将来、相当な美人になるだろうことは間違いない。

 案の定セラは締まりのない顔で、躊躇うことなく少女に顔を近付けていく。キスするんじゃないかってくらい。

 と、少女が身じろぎした。ゆっくりと瞼を開ける。その紺碧の瞳を認めた途端、俺の中で何かが止まった気がした。

「にーしゃま。」

 透明感のある綺麗な声。

 その声にとろけそうになりながら答えるセラが、訳もなく苛立たしく感じてしまう。

「シリル、ただいま。よく眠っていたね。」

 セラから向けられる愛情とか優しさとか……、そういったものを全て受け止めるが如く、少女はヤツに手を伸ばした。

「おかえりにゃしゃい、にーしゃま。」

 当たり前のように少女を抱きかかえるセラ。いや、少女の兄という立場だし、当たり前なんだろうが、妙に刺々しい気持ちが湧いてくる。親友のセラに、何の理由もなくこんな負の感情を持ち、それを持て余すなんて初めてのことだ。

 セラは少女を抱っこして、俺の方に振り返った。彼女の紺碧の瞳が俺の瞳を認めた時、俺の周囲の音が全て無くなって、ただ自分の速くなった鼓動だけが響いている気がした。

 そんな俺にセラは微笑んだ。

「殿下。私の最愛の妹、シリルです。」

 その笑みは黒い。セラは優しくて聡明な極上男に見えるが、実際その中身は腹黒だ。一見、腹黒っぽく見られがちな俺が純粋培養された無垢な少年に見える程に。そんなヤツが俺に黒い笑みを見せるということは、少女が俺の中に起こしている戸惑いや混乱に気が付いているからだろう。鋭いのも大概にして欲しい。

だが、俺のそんな思考は、一瞬にしてぶっ飛んだ。

「はじめまちて、おーじしゃま。しりるふぁりな・くりすちーんでしゅ。」

 彼女が俺に向かって喋ったのだ!満面の笑顔付きで!!

 思いがけず動揺してしまった俺は、自分でも解らないその動揺の意味をセラに気付かれたくなくて、慌てて言った。

「セラが殿下と言っただけで、俺が王子だと解るのか?幾つだ?」

「しゃんしゃいでしゅ。」

 指を三本立てて見せる。その手は玩具のように小さくて、自分の掌で包み込んでみたくなったが、何とか耐えた。

「三歳か。」

 と、そこで俺は考えた。セラが妹をシリルと呼んでいることは、家族はみんな彼女をシリルと呼んでいるだろう。となれば、使用人や親戚関係にしてもおそらく同じ。だが俺は、俺しか呼ばない愛称で少女のことを呼びたい。そんな感情が溢れたのは一瞬で。

「…………ファリナ。俺はレヴィナイス・アレン・ジョーイ・クロスフォード。呼びにくいだろうからレヴィンで良い。セラヴィと同じ八歳だ。」

 口をついて、一気に言葉が走り出た。

 彼女は一瞬目を丸くしたものの、何事も無かったかのようにニッコリと笑った。

「よろすぃくおにぇがいしましゅ。」

 かっ、可愛い!!小さい女の子って、こんなに可愛いものなのか?!

 だが、その後が悪かった。何故に第一王位継承者である俺が、三歳児に説教されねばならないんだ?!しかも兄さま兄さまって、セラのことばかり言いやがって、腹が立つ!年上の余裕で勝ちはファリナに譲ってやったが、沸き上がる苛立ちは到底隠し切れるものではなかった。

「シスコン兄にブラコン妹め!!」

 つい怒鳴ってしまったが、それは仕方ないことだと思って欲しい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ