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2.王子様との出逢い(シリルファリナ 三歳)

王子様登場です。


 はいはいができるようになり、立っちができるようになり、そして発音や活舌は悪いものの何とか話せるようになって…………。気が付いたら私は、三歳になっていた。今では当然、羞恥ぷれいに遭うこともあまり無くなっている。そして、前世のことは前世のこと、とかなり割り切って考えられるようになってきた。

 そうそう。私の正式な名前はシリルファリナ・クリスティーン。兄さまはセラヴィノーイ・クリスティーンだ。

 

「ひゃっ!」

 お昼寝から目覚めると、目の前に、凄い至近距離に、緑の瞳があった。キスしてたんじゃないかってくらい。一拍おいて気が付いた。セラヴィ兄さまだ。

「にーしゃま。」

 呟くと、兄さまはニッコリと笑った。不特定多数の女性を再起不能に貶める、強烈な笑顔。それが妹にのみ向けられている時点で残念な美少年確定だけれど。

「シリル、ただいま。よく眠っていたね。」

 涼やかな声に、私は軽く目をこすってから腕を伸ばした。

「おかえりにゃしゃい、にーしゃま。」

 兄さまは難なく私を抱きかかえる。そして私ごと振り返った。

「殿下。私の最愛の妹、シリルです。」

 見ると、これまたもの凄い美少年だ。アメジストの瞳は煌めいて、光量の少ない場所では漆黒にも見えそうな濃い紫の髪は艶やかで。殿下ということは正真正銘の王子様なのだろうが、色素の違いの為か、兄さまの方が正当派王子様らしく、本当の王子様は少々腹黒っぽい雰囲気がある。

 それは置いといて、兄さまから床に下ろされた私は王子様に挨拶をした。挨拶は人間関係の基本。抱っこされたままの状態じゃ失礼よね。それに齢八歳の兄さまにとって三歳児はやっぱり重いに違いないし。

「はじめまちて、おーじしゃま。しりるふぁりな・くりすちーんでしゅ。」

 自分の名前さえ、まだ上手く発音できない。その分、笑顔を大放出だ。

 そんな私を見て、王子様は微かに目を瞠った。

「セラが殿下と言っただけで、俺が王子だと解るのか?幾つだ?」

「しゃんしゃいでしゅ。」

 サ行と、それからナ行、ラ行は難しい。でも王子様は頷いた。

「三歳か。…………ファリナ。俺はレヴィナイス・アレン・ジョーイ・クロスフィード。呼びにくいだろうからレヴィンで良い。セラヴィと同じ八歳だ。」

 私の周りはみんな、私のことをシリルと呼ぶのに、レヴィン王子は何の躊躇いもなくファリナと呼んだ。そんな彼は、私の記憶の隅、前世の世界での子供達から見ると、妙に大人びて感じる。まだ八歳だとは到底思えない。王子という立場がそうさせるのかもしれないけど。

「よろすぃくおにぇがいしましゅ。」

 ニッコリ笑ったまま少しだけ首を傾げるように見上げると、レヴィン王子は戸惑ったような表情になった。

 宮廷魔術師長であるお父さまと王妃の従妹であるお母さまを両親に持つ為、おそらく兄さまはレヴィン王子の側近となるべく、教育を受けているのだろう。落ち着きがあって頭の切れる兄さまは、どちらかというと、お父様の後を継いで魔術師になるよりも、宰相とかの方が合っている気がする。そしてレヴィン王子とは同じ歳。親しい間柄になるのは必然だろう。でも。

「おーじしゃま。おしろにいにゃくていいんでしゅか?」

 私が尋ねると、レヴィン王子は微かに口元を緩めた。何となく黒い笑み。

「抜け出してきた。息抜きだ。」

 えーっ?!それって非常識じゃないですかーっ?!

「おーじしゃま、おしろにかえってくだしゃい。」

 思わず咎めるように言うと、途端にレヴィン王子の瞳が鋭く歪められた。

「何だと?!」

 でも負けちゃいけない。兄さまの為に。余り角が立たないように、落ち着いた口調を意識して、頼むように言った。

「おーじしゃまがにーしゃまといっしょにいにゃくにゃったら、にーしゃまがしかりゃれましゅ!おーじしゃまににゃにかあったら、にーしゃまがせきにんをおわにゃいといけにゃくにゃるんでしゅ!でしゅから、おしろのだれかにいってかりゃ、またきてくだしゃい!おにぇがいしましゅ!」

(「王子様が兄さまと一緒にいなくなったら、兄さまが叱られます!王子様に何かあったら、兄さまが責任を負わないといけなくなるんです!ですから、お城の誰かに言ってから、また来て下さい!お願いします!」)

 一瞬、レヴィン王子の瞳に怒気が燃え上がる。

「兄さま兄さまって、一体何なんだよ!」

 放出する怒りに、叩かれるんじゃないかって思わず目を瞑って身を強張らせてしまった。

が、それでもレヴィン王子はやはり王子だった。一拍おいて、溜息が諦めたように響く。

「…………解った。今日はこれで帰る。次回は、ちゃんと許可を取ってから来ることにしよう。」

 八歳とは思えない自制心を見せたレヴィン王子は、兄さまに向き直って尋ねた。

「…………どんな風に育てたら、こんな口喧しい三歳に育つんだ?」

「口喧しいですか?壮絶に可愛いでしょう?」

 微笑みながら兄さまは、レヴィン王子と一緒に部屋を出ていった。

「シスコン兄にブラコン妹め!!」

 レヴィン王子の声が響いていた。


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