従者ミネリダ、市民商店街へ征く1
「お嬢さまとクマチャン」の続きです。
「どこなのでしょう、ここは……」
お淑やかな女性の味方麦わら帽子さんを持ち上げて、従者ミネリダは辺りを遠くまで見回した。
立ち止まってキョロキョロと頭を動かすミネリダは、往来の激しい市民商店街であってもとても目立っていた。
「うぬぬ、お嬢さまに聞くことはすなわち敗北……自力で探し出してみせるのですよ、私」
ミネリダの片手には蝦蟇口、おそらく500イェン入っていることだろう。
ミネリダは直情だから、すなわちそういうことなのだ。クマチャンクマチャン欲しい欲しい。
「ううー……こ、コッチだッ! い、いや、コッチかなッ! そ、それともアッチッ!?」
指さし確認は定まることなく円を描いた。なんと、ミネリダは人間コンパスへ進化した! この上なく馬鹿らしい。
ついには挙動不審なミネリダの周りを商店街の人々は避けるように歩き、ここにミネリダエリア(奇妙な人間コンパス)が完成してしまった。
悩みに悩んでヘッドバンギングを10往復2セットし終えたミネリダは、次に髪の毛をむしゃむしゃ掻きながら打開策を考えていた。
肩ほどで切り揃えられている綺麗な髪がゆらゆら揺れる。自然と香ってくる香油の良い匂いがミネリダの焦る心を落ち着けた。そうして熟慮して5秒、ミネリダの頭上でピッコーンと蛍光ランプが輝いた。原理はわからない。
「そうです! 案内人が居れば良いのですっ!」
意気揚々とミネリダは人任せにすることにした。自力で探すことは諦めたようだ。しかしお嬢さまに聞かないので敗北ではないらしい。どんなへりくつだ。
「それで、俺を捕まえたの?」
「そうですよ~、ささ、私をクマチャン屋へ連れていってくださいまし~」
ミネリダの対面に立つ少年は、明らかに嫌そうな顔をしながら、その頭上に大きな荷物を携えている。おおかた、荷物運びの仕事の最中だったのだろう。
しかし残念だ、ミネリダは不屈の心を持っている。まったくの憂慮も気遣いもなく少年へと声をかけたのだ!
「いや、普通わかるだろ。声かけないだろ。俺忙しいの。お姉さんわかる? とにかく俺忙しいの」
「もうっ! コノいけず~」
「ふん、なんとでも言えよ」
「コノ意地っ張り~」
「それはお前だろ」
「コノ皮付き~」
「……はい?」
「……ん、あれ、その荷って皮付きお肉でしょ?」
「なにお前『言ってからやっぱり恥ずかしくて後悔しました、よしこうなれば適当に誤魔化してしまえ』って顔してんだよ!」
「お前うるさいのですっ!」
深く麦わら帽子を被り(あ、別に被るって皮とかそういうのとか関係ないですから! 決して関係ないですよ!?)ミネリダは恥ずかしげに俯いてしまった。
つ、つづくっ!