デート前の波乱
約束の時間まで少し時間がったので駅前のデパートをうろうろしていたら後ろからトントンと背中を誰かにたたかれた。
振り返ってみると笑顔の将太がそこにいた。
「将太さん・・・。」
驚きとこれから出かけるデートのこともあって罪悪感が茜を居心地の悪い気持ちにさせた。
「久しぶりですね。買い物ですか?」
何も知らない将太は嬉しそうに声も弾んでいる。
「お袋の誕生日が近いんで仕事帰りにプレゼントでもってきたんだけど、よかったな。」
何がよかったのかいまいちわからない茜だが、何もいえないでいると
「今日はこの後用事ありますか?よかったら飯、食べに行きません?」
最近の自分はどうしてしまったのだろうと思えるくらいだ。少し髪型を変えて、化粧もきちんとするようになった、それだけで今まで存在皆無だった私生活が突然あわただしくなってきた。
「あの、今日は、ちょっと・・・。」
携帯を見るともう待ち合わせの時間も迫っていた。
なんだか浮気現場に鉢合わせてしまったような心苦しい気持ちだった。
「あ、そうなんだ・・・。もしかして・・・。デートとか?!」
おどけたように将太が言った言葉に過剰に反応した茜をみて
「あ、そう・・か。彼氏?」
「ち、違います。彼氏じゃありません。内の病院の先生で、ちょっと誘われて。初めて出かけるんです。本当です。」
慌てて答える茜に将太は少しほっとしつつ、
「茜ちゃん。」
真剣な顔つきで茜を見つめた。
「誘ったのが俺でも出かける?」
いつもは自分を丁寧に僕、私、と呼ぶ将太が’俺’と自分を呼び、いつもより男のオーラが出ていることで茜は焦ってしまった。
え、どうしよう。もちろん出かけるし、むしろ嬉しい・・。でも、そんながっついたこと言ったら引かれる?
「あの、えっと。あのです「いいよ。無理しなくて~!」
いつもの優しい笑顔になって諦めたように将太が笑うので茜は苦しくなった。
「違うんです!誘ってくれたら嬉しいです!」
茜は思わず将太のスーツのすそをつかんでいた。
びっくりしたように茜を見つめた後将太はふんわり笑顔になり、
「じゃあ、今度覚悟してもらおうかな?」
とにんまり笑った。
「じゃあ、今日はデート中も俺のことを忘れないようにするおまじないかけていい?」
「おまじないですか?」
「うん。」
”はい”と返事をするよりも早く茜の唇に柔らかいものが一瞬触れた。
はにかみ笑う将太をみて初めて何が起こったかわかった茜は真っ赤になり
「うそ・・・。ここデパートですよ!!!」
と大きな声がでた。
「誰も見ていなかったよ。茜ちゃんが大声出すまでは。」
はっとして周りを見ると通りすがりのおばちゃんが何事だろうかと見ていた。
慌ててうつむいて真っ赤になってしまった茜をみて将太は嬉しそうに眺めると
「茜ちゃんは可愛いね。」
ボン!!と言う音がしたと思う、本当に。脳みそが飛んだ、絶対。
「将太さん、キャラが違います!!!」
「だって、茜ちゃん、ほんわかして可愛いと思ってゆっくりいこうと思ったけど、とんだ邪魔虫が入るならこっちだって黙っていないよ。だから覚悟しておいてね?ほら、もう行かないとデートに遅れるよ。」
あまりの出来事に自分でも何が起こったかわからない茜だった。
背中を押されるように歩き始めたが将太が止めに後ろから耳元で
「うっかりキスなんかされちゃ駄目だよ。」
「!!!!」
穏やかで、やさしい将太の男としての一面をみてそのままフラフラになって待ち合わせ場所に向かった茜だった。




