少しずつの変化
宿題が実は意外と難しいと気づいたのは3日後に少しは可愛く見るようにと髪型をひっつめから少しふんわりまとめるように変えた日のことだった。
いつもは普通に仕事上の会話位しかほとんどしない理学療法士の同僚の加藤君が経過報告が済んだ後突然言った一言だ。
「斉藤さん髪形変えたね。似合ってるね、可愛いよ。」
彼にとっては何気ない一言だったのだろうし、彼は意外と女の子受けのいい、いわゆる軽い部類に入る同僚だったので明らかに社交辞令の部類だろう。それでも茜にとっては普段は「何言っちゃてるの加藤君!何もでないぞ!」と返してしまうのだが、ここは宿題が頭にちらついた茜にとっては焦るのに十分な台詞だった。
「ヴ・・・。あ、あ、・・・。」
「?」加藤君が不思議そうに見ている、ますます焦ったが思い切って、
「ありがとう・・・・。」
と小さく言ってみた。
「あれ、斉藤さん素直だね、今日。ますます面白くていいね~。」
赤くなった茜をからかった加藤君は鼻歌交じりで次の患者を診に行ってしまった。
こ、これは以外に難しい・・・・。おじいちゃんだったら、あら、ありがとう~。で済ませるが若い男性だと、まったく興味の無い加藤君ですら素直になれないなんて。もし、気になる人に対して素直な反応なんてできるのだろうか・・・・。そこで思わず将太のことを思い出してしまった茜は「何でやねん!」と一人突っ込みをしてナースステーションの同僚が茜ちゃん頭大丈夫かね?と話していたのは茜は幸か不幸か知らないままだった。
その後も茜は素直になることを目標に小さなことでも素直に受け入れる努力をしていった。
2週間後には少し自分でも自信がついてきたような気がしていた。
くすぐったいが、ありがとうと言える事で彼らの評価を信じられるよな気がしてきていた。
社交辞令だけじゃない、ほんの少しの真実が混ざっているのかもしれないと。
髪型と化粧も少しだけ、いつものファンデとマスカラだけから時には淡いアイシャドーもするようなったし、乙女力が上がってきた気がしていた。同僚からの評判も良く、何人かの同僚に似合うと言われた。そこで素直にありがとうと言えたのは茜にとって嬉しい成果だった。
こまごまと近況報告をしていた理沙に嬉しい報告をすると、
「優秀優秀。それでは次のレッスンに移りますか!」
と手帳を出した先輩はまたいつものところで呑みながら話そう!と意気込んでいた。




