あと一日
今日を乗り切れば将太との週末が待っている。
ビールで理沙先輩と神埼さんの事を祝った後、そのまま寝た茜は朝にシャワーを浴びて部屋の掃除を始めた。
将太との週末は一日出かけた後、茜の部屋に帰ってくることになっていた。
どこかに部屋を取ろうかと言ってくれた将太だったが、やる気満々なホテルより、楽しく一緒に夕食を部屋で食べてもっとリラックスした夜をすごしたいと茜は提案した。
そして前に約束していた将太にお弁当の代わりに夕食をご馳走することになっていた。
二人とももう子供ではない、初めてのときのようにロマンスだとか、焦りだとか、場所と雰囲気などそういったものにこだわりはなかった。
等身大の自分で、できるだけ自然な形で二人の時間を過ごしたいと思った。
部屋の掃除も終わり細かなところまできちんと掃除ができた。
明日の夕食の献立でも考えようと思っていたら携帯にコールがきた。
ディスプレイを確認すると理沙からだった。
「もしもし。斉藤です。」
「もしもし茜?半田でーす。」
「お疲れ様です、あれ?神崎さんとはもう一緒にいないんですか?」
「昨日は、重ね重ねすみません・・・。本当に、茜にお世話になってしまったわ・・・。神埼の野郎もお礼を言ってくれって。今日は仕事だからもう行っちゃった。」
「良いんですよ!でも、本当によかったー!最初は心配だったんですよ。」
理沙先輩の神崎さんに対する言葉が照れ隠しのようで微笑ましいと思った。
「まったく、いい年して私達何してんだか・・・・。でも私も頑なだったところがあるのよね、一人で大丈夫って相手を突っぱねて、神崎さんも傷つけた。だから茜にもきちんとお礼を言いたくて・・・。」
「お礼なんて。でもなんか劇的ですよね先輩達の恋愛。私なんて将太さんとやっとファーストキスでしたよ。」
「そうそう、その話も聞きたかったのよ。自分にいっぱいいっぱいで最近話もできていなかったし。
でも、ファーストキスは前に一回してなかったっけ?」
理沙先輩はおそらく高田先生にデートに誘われた時に将太に突然されたキスの話をしているのだろう。
でも、あの時は触れる程度なしかも自分ではされたことすら気づかないような本当に一瞬のキスだったのである意味カウントしていなかった。
「でも、あれは一瞬だったし・・・。今回はきちんと恋人のキスというか・・・。お互いの意思のもとしたというか・・・。」
もごもごしていると明らかに電話の向こうでニヤニヤする理沙先輩が見えるようだった。
「なるほどね。二人も亀なりに進んでるんだ~。おばさん心配して損したわ~。」
「な、何言ってるんですか!」
「で、もう熱い夜はすごしたの?」
「ま、まだです!でも、明日うちの部屋に来ることになっているんです。それが一応・・初めての夜というか・・・。」
「え!明日?しかもあんたの部屋なの?」
「はい、成り行きに流されるより、次にしようって。でも、リラックスしたいので中途半端なホテルとかより、家が良いかなって・・。」
「ふーん。じゃあ、まだ詳しい予定は決まってないんだ?」
「はい、夕食は作ろうと思っているんですが、それ以外は決まっていないです。でも、将太さんが決めてるかも。分からないです。」
「そっか・・・。でも、楽しい夜になるといいね。」
「はい。でも照れちゃって。今日は早上がりの遅番だし、いろいろ準備しないと。」
「いろいろね!でも茜も幸せそうでよかった。将太君と一緒に今度また呑みたいわね!」
「えへへ。はい、そうですね。私もいつもの理沙先輩が戻ってきてくれて嬉しいです。」
「本当、茜に心配かけているようじゃ私もまだまだね。」
「何言ってるんですか。」
「今回のことは本当に心から感謝してる。私も頑張ってみるよ。だから茜も自分を信じて頑張って。」
「はい。ありがとうございます。」
「今日仕事か・・。じゃあ、もう切った方がいいね。じゃあ、またね~。」
「はい。じゃあ、また。」
電話を切るともうすぐ出かけたほうがいい時間だった。
献立は今日の夜に決めれば良いだろう。
金曜日の夜はきっと忙しいけれどそれはそれで時間があっという間に過ぎるという利点があるので早く明日になって欲しいと思いながら鞄を持って茜は家を出た。




