部屋
なんだかんだしているうちに部屋についてしまった。
緊張でギクシャクしていないかな・・・。
なんとなくお互いに言葉少なくドアの前に立ち茜が鍵を出すのを待った。
「あ、あの、なんか、ありがとうございます。」
「あ、いや、いいよ。暗くなっていたし・・・。」
ガチャリと鍵が開いた。
「え、っと、よって行きますか?」
やっぱりお茶くらい出したほうがいいのだろうと思った茜はできるだけカジュアルなことを装って聞いてみた。
「え・・・。」
一瞬固まった将太はそのまま無言になった。
「・・・・。」
やばい、地雷だった?
軽い女だと思った?
「はーーーーー。」
長いため息をついた将太は目を上げて茜を見つめた。
その目はちょっとギラギラしていて男の目をした将太に少しひるんでしまった。
「茜ちゃん、俺、男だよ。」
見つめられたまま言われると、いや、性別が男なのは分かっているし、ここで女だった方がびっくりするけど、いや、完全に混乱している。
「はい、そうですね・・・。」
なんとか答えると将太は大きく一歩前に出ると二人の間の距離を一気に縮めた。
「っ・・・。」
ち、近い。
見上げることができなくて将太のネクタイの柄を見ていた。
あ、ストライプかと思ったら、その生地自体は格子柄になっていて可愛い。
こういうの好きなんだ・・・。
「現実逃避してる?」
しばらくネクタイを見ていたのだろう、切羽詰った感じの将太が私の顎を持ち上げた。
その瞬間目が合った茜は動けなくなった。
息がかかるほどの近い距離。
ドキドキしすぎてやばいかもしれない。
心拍数が上がりすぎてます。
危ない、このままだと心臓がやばい。
「・・・・・・キスがしたい。」
搾り出したような声を出す将太に、思わず、
おい!したいならしてくれよ~~~!!!
強引な人は実は嫌いだけど、ここで宣告されると、どうぞ?って答えるの?
丸投げジャン。
私が決めなきゃいけないの?
しかも自分でして下さいとか、無理だし。
初めてでもなんでもないけど、なんとなくそんな感じになるって感じじゃない。
私に、決断を求める?
ありえない~~。
恥ずかしすぎる。
二人で固まることおそらく10秒。
でも、私の中では3時間くらい。
でも、やっぱり、キスしたい。
でも、キスしてくださいって言えないし・・。
覚悟を決めた私は自分から背伸びをするとそっと将太の唇に近づいた。
触れた唇は温かくて、気持ちがよくて、癖になりそうだった。
私の枯れていた体は久しぶりの刺激に爆発したようにこのキスを欲した。
将太が私をドアに押し付けてキスを深めていく、支えられるように抱えられて、
永遠に続くかと思えたキスが小鳥がついばむような愛おしいキスになり、
額が押し付けられたまま終わった。
将太も、茜も息が上がっている。
肩で息をしながら二人は見つめあった。
完全に火のついた将太の瞳に茜も震え上がった。
どうしよう、このまま先に進んでもいい、彼のことが好きだ。
初めて会った人でもない、お互いに好意があると思う。
でも、将太との、ファーストキスと、初めての夜が一緒の日なのはどこか悲しい。
勢いだけなような、なんとなく。
本当になんとなく嫌な気がする。
でも、体はこの気持ちに大反対だし、将太にキスをやめて欲しくない。
そんな葛藤を繰り返してると将太がスッと体を離して
「今日は本当は軽いキスをするのが目標だったんだ。実は前回もしたかった。」
少し赤くなって目をそらす将太は可愛かった。
将太の気持ちが嬉しい。
「・・・私も、して欲しかった。」
素直に言えた。
もう、どうしようもないほど好きになっている。
もう一度将太が襲うように深いキスをくれた。
もう、このまま二人の時間を過ごしたい、ちょっとだけの気持ちの葛藤くらいどうでもいい。
茜がキスに酔いしれていると不意に唇を離した将太が
「でも、送り狼になる予定じゃなかったんだ。・・・・・・・・・今日はこれで帰ったほうがいいと思う。じゃないと絶対無理・・・・・。
大事にしたいんだ。」
涙があふれた。
将太が自分と同じ気持ちで、思い出を大事にしたいと言った事。
男の人のほうが辛いかもしれないのに止めてくれた事。
勢いだけではないこの気持ちがある事。
「ごめん、傷つけた?」
あわてて聞く将太に首を振って
「嬉しい。私も、大事にしたい。」
涙を流しながら笑顔になると将太が私の顔の横のドアにゴンと頭をぶつけると
「・・・・あおんないでよ・・・・・。」
と情けない声を出したので思わず笑ってしまった。
「本当に、ひどい奴・・・。」
ぶつくさといっていたけれど、最後にぎゅっと茜を抱きしめて、
「今度のときは我慢しなくていい?」
その意味が十分理解できる茜は赤くなりながらも腕の中でうなずくと、バッと将太が茜をはがして離れた。
「このままじゃ、本当にやばいから、また今度。もう、いくよ。」
将太が離れた後は夏なのに肌寒い気がした体を抱えるように抱いて、
「はい、おやすみなさい。気をつけて帰ってくださいね・・・。」
と微笑んだ。
世界一素敵な笑顔で将太が手を振って走っていった。
ものすごい全速力だったから、駅に着くまでには体の火照りも落ち着くといいのだが・・・。
家の中に入ったとたん茜はずるずると玄関に座り込むとしばらく動けなかった。
昔の恋愛は甘い子供じみたものだったんだろうと今更ながら思う。
自分は流され、受け入れるだけだった。
将太の男らしさも、優しさもそうだが、自分が欲した。
彼を、自分が欲しいと思った。
「・・・・・・欲求不満なだけだったりして・・・。」
それでもしばらく玄関から動けない茜だった。




