待ち合わせ
なぜ待ち合わせの日は早起きしても時間道理に事が運ばないんだろう。
髪の毛はうまくいかないし、お化粧もうまくいかない気がする。
服装は昨日の夜から選んでおいたのにどうもおかしい気がする。
夏が本格的に到来してから夏服でも、映画館で寒い思いをするかもしれない。
でも、熱過ぎて汗をかきたくない。
そうこして悩んだ挙句、夏らしいはっきりとした花柄のワンピースと薄手のカーディガンを合わせてみた。
色が渋いタンになり始めた皮のショルダーバックを合わせて。
「大丈夫かな・・・??」
鏡の前でもう一度チェックをしていたら家を出ようと思っていた時間は10分前だと気づく。
「やばい!!!遅れる!」
あわてて走りだろうとしたが、魔法を思い出してもう一度鏡を見ると
「今日も可愛い。がんばれ私!」
にっこり笑ってから走り出した。
待ち合わせの駅は茜のアパートから3駅ほどだからぎりぎりになるが間に合いそうだ。
時間にルーズだって思われたらどうしよう・・・。
実は茜は仕事で遅刻した事はないくせにプライベートでは時間ぎりぎりになってしまうのだ。
早起きをしていても・・・・。
駅について改札まであわててかけていくと将太がすでに待っているのが見えた。
思わず足を止めて将太に見とれた。
将太は背が高く大きな体格もあってなんでも似合うんだと思う。淡い色のTシャツにチェックの半そでのシャツを合わせて下はカーゴの半パンをはいている。その足元を見て思わず微笑んだ。
ビーチサンダルである。
将太がスマートな格好を得意としていないだろうということは分かっていた。
でも、ビーさんでデートに来る男の人は少ないんじゃないだろうか。
おしゃれなビーさんではない。
ゴムのビーさんだ。
緊張していた気持ちが解れて早足で将太に向かって走っていった。
「お待たせしました。」
少し走ったせいで頬が赤くなった茜が笑顔で挨拶をすると将太は少し耳を赤くし顔をそらしそうになったが踏ん張ると。
「おう、待ってないよ。」
「よかった!」
それじゃあ、いきましょうか。と声をかけようとしたら将太が後ろでおかしかった。
「きょ、きょ、くお。。くお。」
「え?くお?」
突然挙動不審になった将太に混乱していると真っ赤になり始めた将太が
「今日も、くぁ、可愛いね。」
と搾り出した。
くぁいいね? 可愛いね?
今、可愛いねって言った?
服装?髪?
私???????!!!!!
思わず赤くなったけれど前に理沙が言っていたことを思い出した。
相手を褒めるのにも勇気がいる。
将太は真っ赤になって一生懸命に言ってくれた。
昔の私なら、「そんなことありませんよ!何も出ませんよ。」
なんておどけて見せた。
そこで笑いが起こって終わり。
でも、将太にはそんなことしたくない。
可愛い女の子になりたい。
「あ、ありがとう、将太さん。」
えへへと笑って見せると将太の顔がぱっと明るくなり嬉しそうにしていた。
あ、この人、犬かもしれない。
バーチャルな尻尾が後ろに見えそうだ。
怖い感じの人かと思っていたら、出会ってから男の顔、スマートなところ、犬っぽいところ、
いろいろありすぎて混乱していたが、この人は知れば知るほど犬かもしれない。
二人でえへへ。と笑ってゆっくり歩き出した。
ペタン、ペタン、ペタン。
コツ、コツ、コツ。
「ふふふふふ!」
「え?なに?」
「将太さん、なんでビーさんなの?」
「え?なんで?熱いよ、今日。」
「いつもはいてるんですか?」
「これは3年目。俺、おしゃれとかあまり得意じゃなくてさ・・・。今日は暑そうだったけど、デートなのでシャツを着てみた。おれ、かっこわるかった?」
「え?!いえ、大丈夫です、かっこいいです。ラフな感じがまた。」
思わず答えると二カッと太陽のような笑顔を向けてくれた。
嬉しい、等身大の自分でいられる。
安心感と高揚感が心地いい。
「俺さ、人は好きな格好すればいいと思うんだよ。おしゃれな奴もいいと思もうけど、熱けりゃ熱い日なりの格好。寒いと思ったら上着を着ればいい。俺はビーさんが好きだからはいてしまえって。昔、秋の暑い日に似たような格好して出かけたら、「秋にビーチサンダルなんて恥ずかしい」って言われてさ。馬鹿馬鹿しいなって思ったんだ。秋でも暑いのに無理して秋色の服装しないといけないなんて制服で卒業したと思ったのに。」
きっと恥ずかしいって言ったのは元カノだろうか。
確かに真冬にビーさんはちょっと気になるけど、私はそこまで相手の格好を気にしたりはしない。
ちょっと見えない誰かの影になんだかもやもやした気持ちがしたが、無視することにした。
「そうなんですか、真冬は嫌ですよ?」
冗談っぽく言うと将太がまた笑ってくれた。
「前にニュージーランドに行った話ししたっけ?あの国さ、普通の先進国なんだよ。イギリスの文化とマオリって言う先住民の文化が混ざっている国なんだけど、みんなのんびりしているんだよ。
仕事は生きるために必要なだけで、仕事をするために生きているわけではないって。
日本人の生活と違うだろ?それに夜のスーパーにはパジャマで平気で買い物している人いるし、中には裸足の人もいるんだよ。街中でだよ?初めて見たときはびっくりした。」
「裸足??裸足で歩いているんですか?」
「そう、普通の人が、昼休みにオフィス街の人が公園でお昼食べても平気で靴脱いで芝生でくつろいだり。ああ、俺、なに焦って生きているんだろうって思ったよ。みんな周りが何言っても気にしないんだよ。自分は自分っていうスタンスで生きている人が多かったと思う。そんな時、前に良いっていたDr Suessの本、見せてもらって俺も好きなように生きてみようって思ったんだよ、間違ってもいいかなって。」
将太に安心感を抱けるのはこの、他の人に揺るがない「自分」を持っているからだと思う。
この人は自分に自信のある魅力的な人だと改めて思った。
「素敵な生き方ですね。」
本当に心から思った。
自分に自信を持ちたい。そう思い始めた自分には心から思える。
私もそんな風に生きたい。
自分は自分、周りに惑わされず自分の幸せをつかみたい。
「そう思う?よかった。」
将太が嬉しそうに茜を見た。
「よかった?」
「俺が大切にしている思いを大事な人に認めてもらえるのは嬉しいことだよ。
茜ちゃんがそういってくれて嬉しい。」
大事な人・・・・・。
照れたように話す将太をみてこの人は海外で学んだことは素直に生きる事だけではない気がする。
素直に言葉にできる将太が眩しくて、ほほを赤らめて茜は微笑み返すしかできなかった。




