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恋愛学習(宿題あり)  作者: Tui
17/36

勝負です

将太に会い行く日がきた。


別に約束もしていないが、スーツを着ていたので週末なら休みなんではないかと予想して土曜の仕事が終わって明日の日曜日と月曜日は連休だ。


デートに誘ってみよう。



将太にはあのキスの日から会っていない。


お互いの連絡先なんて知らないから連絡の手段はおっちゃんの店に行くだけだ。



理沙には今日の目標を話しておいた。嬉しそうにがんばれと励ましてくれたことが嬉しかった。



鏡に向かって控え室で


「髪型よーし!、服装よーし!笑顔よーし!!」


と叫んでみた。


周りの看護師がギョッとして


「斉藤さん?」


「茜さん?大丈夫・・・?」


と恐る恐る聞いてきたので


「今日は勝負の日なので!」


と意気込むと周りが赤くなっているがその辺はスルーで「おっしゃ!」と勢いをつけて歩き出した。


一般的に勝負の日は要するに大人の時間の日のことなのを思い出してあそこまで意気込んだ自分が恥ずかしくて悶えるのはまだ先のことだった。



まだ店が込み合うには早い時間に茜が店の前につき、自分をもう一回いきり立たせて店の扉を開けると中から騒々しい男の集団がいた。


「こんにちわ・・・」


中に入ってびっくりした。



将太とそのほかおそらく10人前後の大柄な男達と中には少人数の女性達もいて彼からが貸しきり状態で座敷席を囲んでいた。



「あら、茜ちゃん、いらっしゃい。今日はかわいらしい格好して!」


ニコニコ顔のおばちゃんに出迎えられたが完全に想定外のシチュエーションに茜は固まってしまった。


え、どうしよう。


ここは一人で食事をしにきたことにする?ここはご飯もおいしいから一人暮らしの男性が一人でのみに来ることもある。女性でそれをするのは気が引けるがだめなことはない。


でも、知り合いに囲まれている将太に声をかける勇気はない。


どうしよう。どうしよう。


頭の回転が回らなくて棒立ちになっている茜を見たおばちゃんは嬉しそうに


「ごめんなさいね、うるさくて。将太の仕事が一段楽したみたいで今日は打ち上げだって早々皆さん来てくれたのよ。茜ちゃん、今日は一人なの?」


固まったまま何も考えられなかった。

仕事仲間なんだ、すごく仲が良さそうだ。綺麗な女性もいる。


なんだかちょっと自分が馬鹿みたいになってきた。


意気込んで、キスされたからきっとチャンスがあるんじゃないかって。


高田先生みたいに完璧を素で行く感じの将太じゃないからもしかしたら自分にもチャンスがあるんじゃないかって勝手に思って。


等身大の自分で恋ができそうな気がしてたのに。


恥ずかしい。








「あ、はい・・・・。」



一人寂しく食事をする女性ってことにしよう、今日は。


ご飯はおいしいはずだ。ビールでも飲んで元気になろう。



そう思って返事をすると誰かがとたんに立ち上がり何かをこぼしたようだ。



「うわ、おめー!将太何やってるんだよ!!」


「冷たい!」


「わ、ごめん。ちょっと、待ってて!」


あわてていたのは将太で台布巾を同僚に投げると茜に向かってかけてきた。


「茜ちゃん。久しぶり!あの、元気にしていた?」


ちょっと意気が上がった将太を見上げていた茜は少し惨めな気持ちになった。

久しぶりって、まったく気にしていないようだ。


最後に会った時はあんなに私を混乱させたのに。


ちょっと悔しくなった茜は済ました対応をすることにした。


「お久しぶりです。元気ですよ。今日は楽しそうですね。」


にっこり笑顔で答えるとちょっと動揺した将太があわてて一緒に呑まないかと誘ってきたので丁重に断った。


少し考えた風になった将太はだんだん茜の存在を推測し始めた外野に気づいて茜の腕を引くと二階の居住地に上がって行った。


「親父、茜ちゃん上げるから。ちょっと居間で話してくる。」


「おー。」


とおじさんが答えるとそのグループが


「おお!!!!!将太!やるー!!」


と叫び始めたので真っ赤になりながら茜は二階に引っ張られていった。


二階の住居は一階のお店と同様純日本家屋だ。


居間にはソファーがあるが床は畳で床に座るような低いものだ。


ちゃぶ台がその前においてあり、なんだかほっとする空間だった。


下の騒々しさから開放されてほっと息をつくと将太が振り返り茜の顔を覗き込んだ。


「怒ってる?」


少し申し訳なさそうな顔で見られるとどうしていいかわからなくなる。


自分の計画で、シナリオで、台詞で、デートに誘いたかった。


何もかも想定が良すぎて一生懸命勇気を出したのに何もかもうまくいかない。


だんだん情けなくなってきた。


「う・・・。う・・・。」


気がついたら涙が出ていた、今日はウォータープルーフマスカラじゃないのに、泣いたらパンダになっちゃうのに、せっかくお化粧がんばったのに。


でも涙が止まらなかった。


ここにくるまで緊張でどうにかなりそうだった。


自分にかける魔法は勇気を奮い立たせるまでで使い切ってしまった。


今の茜には自信がある魅力的な女性にはなれなかった。



そんな茜を少し微笑んだ将太がそっと抱きしめた。


ふわっと、でもしっかりと。


温かかった。


将太のにおいが鼻をくすぐる。


落ち着くにおいだった。


何でなんだろう、落ち着く匂いがする。


将太はコロンなんてつけていないし、今まで仲間に囲まれて呑んでいたからタバコやら、お酒やらのにおいがするはずなのに今の茜には将太の温かいにおいがわかった。



だんだん落ち着いてきた茜が泣き止むとそっと腕を緩め、でもまだ腕に囲ったまま将太はすっと茜のほほに流れた涙を親指でふき取った。


「どうしたの?」


そう尋ねる将太は本当に心配そうだ。


眉毛がハの字になっている、ちょっとかわいい。


「ふふ・・。」


泣き止んだ茜が泣き笑いな笑顔を見せると将太も嬉しそうに笑った。


「あの・・・・今日・・・・私、将太さんに会いにきたんです・・・。」


思い切って茜が将太の腕の中から打ち明けると将太は真っ赤になり


「それ、上目遣いで言うのは反則だよ・・。」


とうなだれた。


耳まで真っ赤になった将太は可愛かった。落ち着きを取り戻した茜は魔法も取り戻した。



できる。きちんと誘える。


いざ、言おうと思ったら


「茜ちゃん、可愛すぎるよ、初めて会ったとき宝くじに当たったくらい思いっきり好みでびっくりしたし。」



爆弾発言だ。


ボッと赤くなって何もいえなくなった。


いえ、あの、今までも普通に恋愛してきましたが、一目ぼれされるような容姿はしていませんよ?

うそ??

この展開はまたしても考えていなかった。



「え・・・・・。」


固まっている茜に将太はさらにそっぽを向きながら


「初めて会ったときから気になっていたんだ。だから他の人の存在に焦って暴走して自己嫌悪になって、仕事が忙しかったからそれを理由に逃げてたんだよ。でも、今日会いに来てくれて嬉しいよ。」


これは告白でしょうか?告白ですか?


昔恋愛してときはいきなり「付き合ってください」と玉砕覚悟で告白したら、

「いいよ~。」といわれて付き合ったことはあったが、これはどうなんですか?



大人の恋愛はちょっと難しい!!


ここはどうやって答えるのが正解なんだろう。


理沙せんぱーい!!!!!


頭の中が完全にテンパッていたが


「あの、あの、その、う、嬉しいです。」



何といったらいいのか分からずに思った気持ちを言ってみた。


そっぽを向いていた将太が向き直り茜の目を見つめて


「迷惑じゃない?引いてない?」


と聞いてきたのでとんでもないですとブンブンと首を振ると嬉しそうに笑った。


二人でてんぱって、早とちりして、暴走して、慌しい。


そんなことを思ったらおかしくてなんだか笑えてきた。


二人で見詰め合って思わず笑い出した。


「あはははは」


「笑うなんて、ひどいですよ、将太さん、ふふふ。」


笑い声も一段落すると茜は今日、目標にしたことを実行しようときちんと立ちなおし、今は将太から開放された体を姿勢良く伸ばして将太に向き合った。



「将太さん、今日は明日、一緒に出かけられないか誘いにきたんです。」


できた。いえた。


嬉しくなる。きっと今はパンダで不細工だけど、目的は果たせた。


「明日仕事休みなの?」


「はい。」


「よかった。是非、出かけよう。どこか行きたいところある?」


「あの、実は見たい映画があって、どうかなーって・・・。」


デートプランで考えたのは最近話題の3Dのアクション映画だった。

映画館なら時間を共有できる上に映画の最中は話さなくてすむ、映画を見た後は話題に困ることもないだろう。完璧なプランだった。


「映画?いいね。明日、駅で待ち合わせる?それと、携帯番号交換しないとな。前からずっと聞こう聞こうって思って聞けなかったんだよ。」


あわてて携帯をバックから出して番号を交換した。

将太の携帯にひとつシンプルなストラップが着いていた。


黒の皮の紐にシルバーのS。他に飾りも何もない携帯に少し意外なストラップだった。


それが引っかかったが特に気にしないことにした。


「あ、斉藤っていうんだ、俺、時田将太で。昔は苗字、名前の両方が’た’で終わるのが嫌だったんだよね。」



「あ、そうですね。ときた、しょうた。私は昔、アニメのキャラクターと同じ名前でなぜかそこから男女って呼ばれて嫌でした。キャラすら違うのに・・。」


わけの分からない名前に関する台告白をして一通り笑って次の日の10時に駅で待ち合わせることが決まった。



「おれ、そろそろ下戻らないとあいつらうるさいかもな。茜ちゃん、大丈夫そう?」


「う、下に下りる勇気ないかも・・・・。」


「大丈夫だよ、きっともう酔っ払ってたいして俺のことは覚えていないから。今日はどうする?混ざって召し食っていく?」


「いいえ、とんでもないです。今日はこのまま帰ります。」


あわてて両手を振って断った。


今日は十分にがんばった。これ以上は無理だ。


「そうか・・。」


ちょっと残念そうに将太がリードして下に戻るとおじさんとおばさんは嬉しそうにしていたが何も言わずにそっとしておいてくれた。


将太の同僚はまだ宴会も始まったばかりとガンガンに呑んでいるようだ。


そのまま外まで気づかれることなく出て行き、駅まで送ると言い張る将太を無理やり中に戻し明日、会うことで別れた。



駅までの道のりは来たときとは違いすがすがしいものだった。


夏も夜風は気持ちい。


嬉しすぎて怪しい人になりそうだが、「雨に歌えば」の映画のように雨の中ではないが歌いながら電柱をくるくる回り、ジャンプし、大声で喜びを歌いたかった。


「ふふふふ、ふふふふ・・・・。」


嬉しすぎてこぼれる微笑に完全に回りに怪しまれていたが茜にとってはどうでもいいことだった。



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