Lesson 3 自分にかける魔法
あの後、神埼だったか、あの男性が理沙に対して何をしたのかはわからないが理沙の機嫌が微妙な日々が続いた。別に誰に対して機嫌が悪いわけではないがどこか緊張感が張り詰めた空気をまとっていた。
そんな理沙に呼び出されてレッスン3の話があると言われたのだ。
その日は遅番だったので仕事終わりに出かけたのは夜も11時を過ぎたころだった。
やはりその時間になるとそれなりに冷えてくるので二人はいつもの居酒屋に向かうことした。
暖簾をくぐって中に入ると週末というのもあってまだ結構人がいた。
いつもの奥の席が空いていたのでおじちゃんに挨拶を済ませると早速生ビールとともに話し始めた。
「レッスン3って何なんですか?目標が見えてきて私も結構自分で言うのも変ですけど結構生き生きしてきましたよ。」
もぐもぐつくねに手を出しながら自信が出てきた自分を報告すると、理沙がしたり顔で
「だから次の段階なのよ、茜は自分自身のことを認めて、自分の目標となりたい自分が見えてきた。でもそれは自分の中だけで他人に、たとえば将太の前ではどう?自分に自信もって対応できる?」
将太の事をいきなりあげられて思わずつくねが詰まった。
「うぐ・・・・。ごほっ、ごほっ! ビ、ビール・・・。」
ごくごくビールを飲んでつくねを飲み込むと涙目で理沙を睨み付けた。
「別に自信満々になれって言っているわけじゃないのよ、ただ、自分の事を信じてあげるって事、おしゃれしたり、誘われたりした時に自分の頭の中で「ありえないから」とか「自分には無理」とか自分で自分を落とさないこと、おしゃれしたときに「私可愛い」って鏡に向かって言ってあげること。要するに自分に魔法をかけるのよ。」
確かに自分の中でよく、「ありえない」、「無理」と自分のチャンス逃してしまうことがあったと思う。
自分にかける魔法・・・・・。
「どういう風にかけるんですか?」
コンセプトはわかるが、実際は何をしたらいいのかわからない。
「要するに自分に自信がつくまで言葉に出して言い聞かせるのよ。私は可愛い、ってそして大丈夫できるって。デートの前にはにっこり笑顔で自分を見返してあげるの。デートに出かけた相手は少なくとも好意があって誘っているのだもの、相手を特に男性が女性を褒めるのって人によっては結構勇気いるのよ?それを否定したら相手もげんなりしちゃうわよ。だから笑顔で自分に可愛いって言ってあげるのよそして、実際に必要なときは女優にでもなった気持ちで自分に自信があるふりをするのよ、負けそうになったら自分に自信がある自分んだって言い聞かせるのよ・・・。
そしていつかその魔法が本物になるの。
本物の自信になる。
だから、自分に魔法をかけるのよ。攻撃は一番の防御っていうでしょ。」
奥が深いと思った。確かに、仕事中は患者さんの前で演技ではないが、ステージの上で役目を果たすような時がある、例えば、正直、様態がまずいと思っても患者さんと家族を不要な不安を挑発して混乱させない様に自信をもって接していると治療に対していい効果が出たりするのだ、病は気からじゃないが、医療と患者の信頼関係とチームワークは重要だ。
それと同じなんだと理解した。おどおどしていてはデート相手としてもつまらないだろう。
自分に自信を持った人は魅力的だ、美人だ、男前だではなくて、魅力的な人間は自信があり、人を引き付ける。
自分も魅力的な人間になりたい。
自分らしい、魅力的な人間に。そして素敵な恋がしたい。
「なんか、わかる気がします。私にもできますね?」
「大丈夫、茜ならできるわ。私は今でも自分に言い聞かせる事があるわ。意外と簡単よ、ただ最初は毎日鏡に向かって言っていたわ。」
にっこり笑って残りのビールを飲み干す理沙は綺麗だった。
「じゃあ、私、自分にこれからは話しかけます。」
「独り言はいいけど、一人会話は気がふれるのの始まりよ。気をつけなさいよ。」
いたずらな目をした理沙がウィンクした。
「返事はしませんよ~。」
たぶん・・・。
自分にかける魔法。
魅力的な自分、なってみたい。それで将太をドキマギさせられたら素敵かもしれない。
思わずニヤニヤしてしまう怪しい茜だった。




