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恋愛学習(宿題あり)  作者: Tui
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神埼

あわてて理沙の後を追った茜はカウンターで次の酒を頼んでいる理沙に恐る恐る尋ねた。


「理沙先輩大丈夫ですか?」


「え?何が?」


まるで何もなかったかのように振舞う理沙に戸惑った茜が次の言葉を捜していると


「あんな馬鹿ほっとけばいいのよ。あれは私に対する怒りじゃなくてなにかむしゃくしゃすることがあって八つ当たりしてきたんでしょ、ああいうのには逆に冷静でいるほうが向こうには腹立たしいのよ。向こうが怒れば怒るほど丁寧に冷静に接すると向こうは向こうで余計引っ込みがつかなくなるのよ。」


「でも、危ない人だったらどうするんですか、今の世の中後ろからいきなりグサリとかありえますよ。」


茜は最近よくある逆恨み殺傷事件を思い改めて恐ろしくなった。


「そういうのは生きる意味を見つけられなくなった人だったら怖いかもね。でも、あの人は違う。なぜかそう思ったのよ。あの人はただ単に癇癪起こした子供と同じよ。今、きっと悔しくて猛烈に怒ってるか、酔いからさめて青くなってるかのどっちかよ。女にちやほやされているタイプで俺様が付き合ってやっている。とかそんなタイプだろうし、女もそれに従うのよ、でも興味もない女に反撃されて悔しいんじゃない?いい気味~。」



カラカラと理沙が笑うとマスターだろうか、初老の男性が理沙のカクテルを作り終えると神妙な面持ちで謝罪してきた。


「神埼様がなにかおっしゃったんでしょうか、今日は彼は荒れていたようでしたのに、早めのお帰りを進めなかった私の責任です、申し訳ありませんでした。」


彼はここの常連なんだろうか、マスターに名前まで覚えられているなんて、マスターがあまりに深々と頭を下げるので理沙も茜も逆に申し訳なくなった。


「そんな、マスターの責任ではありませんよ。彼が飲みすぎたのがいけないんです。私は大丈夫ですから、これでも打たれ強いんですよ。」


にっこり理沙が笑うと幾分元気を取り戻したマスターが理沙と茜にカクテルをおごってくれた。


「わーい。現金なのでいただけるものはいただきます!大丈夫ですよ、また遊びに来ます。本当に気にしないでください。むしろやり返したので彼がやけになって深酒しないようにしてあげてください。」


理沙の大人の対応に茜は感心した、きっと茜なら酔っ払いの言葉でも傷つくし、自分のことでないのに今だに少し腹立たしい。理沙はそんな様子を微塵ともさせずマスターの心遣いを素直に喜び彼の気も和らげた。


「やっぱり、理沙先輩のようになれるようにしようかな~。かっこよすぎる・・・。」


自分がまだまだ未熟なことにげんなりすると、それを聞いた理沙がふっと笑って


「私になってもいいことばっかりじゃないわよ。茜は茜でいいの。そこがいいのよ。」


またしても大人の返事である・・・・。


がっくし・・・。



席に戻ろうとするとなぜかあの男性が理沙と茜の席におでこをテーブルにつけて座っている。


「真っ青なほうかな・・・?」


その様子をおかしそうに眺めて理沙がその神埼とやらの横に立つと優しい声で何か囁いた。


その瞬間バッと顔を上げると彼の顔は悔しそうに顔を歪めると


「まったくその通りだな、本当に、なんと言うか申し訳ない・・・。それでお詫びに・・」


「お金で買えるお詫びは結構よ。謝罪も聞けたしこれでおしまい、さよなら。」


おそらくなにか豪華な”謝罪”をしようとしていたのだろう、そしてそれを断られると思ってもいなかったのだろう、神埼はあっけにとられた後、理沙のさよならの意味を理解して立ち上がるともう一度理沙を凝視すると


「また会いたい。」


理沙以外は関係ないかのように理沙だけを見つめながら神崎は真剣な表情で言った。


「同じ町に住んでいるんだもの、また会うかもしれないわね。でも、それだけよ。」


理沙は冷たい目で彼を見返すと神埼はこれ以上は無理だというように諦めてその場を去ることにしたようだ。


「まだ諦めたわけではない。俺は諦めが悪いんだ。」


最後に捨て台詞を残してマスターにも謝罪を入れその男はバーを去っていった。


なんだか、横暴なのか馬鹿なのか、かっこいいのか、訳がわからなかった。今までの茜の生活の中でまったくこのようなドラマのような展開に出会った事はないし、人から聞いたらありえないと笑うだろう。

でも実際目の前で二人の火花が散ったのだ。


あの男性も真剣な目だった、理沙を追っかけるのだろうか・・・・。


何のために?あの目は、何を写していたのだろう。


理沙はそんなことが気にならない様に席に着くと2杯目のマーティーニを飲み始めた。


「何だってんでしょう、あれ?」


茜も元の席に座り嵐が去ったばかりの覚めやらない興奮感をもてあましたままだった。


「ただの甘ったれよあんな奴。」


ムスッとした理沙はさっきとは違って彼に対していい感情を抱いていないようだった。

さっきまでは気にもしていなかったのに。


でもほんのり頬が赤いのは2杯目のマーティーニのせいだけなんだろうか。


普段は誰にでも割と優しいの理沙のいきなり変わった酷評に二人の間で何が起こるのだろうかとドキマギしたが無礼者だったので気にしないことにした。



その後、本当は少し将太のことを相談したかったのだが理沙は少しムスッとしていたようなので当たり障りない事を適当に話してそのままその夜は解散となったのだった。




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