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  (有)オオツカ食品

ざらざらしている細い立ち樹の幹に、縛られている。というか樹を負んぶするようにして後ろで手を組み、両手首を硬い紐みたいな植物で縛られている。直接樹に縛られているという意味ではない。樹と、硬い紐みたいな植物によって行動を制限されている。そんなことよりちょっと見てごらんよ。右のほう、そそ。二メートルほど右ね。ほら、イクジも縛られてやんの。情けない顔してさ。ぷぷ。「俺はここで死ぬべき人間じゃなかった。俺は出るぞ。生きるぞ。」イクジがこんなことを言ってすぐ、こうなった。哀れ、というよりも、笑える。ぷ。こんな変な会社ごっこをしてるおっさん集団に縛られてやんの。情けない顔してさ。しかし、これはどういうことなのか状況が飲み込めない。

「キー坊。何やねん、こいつら。」近くで胡坐をかいているおっさんAに聞かれまいと、小声でイクジが囁く。「さあ。」ってでっかい声で返答してやった。おっさんAが振り返ってこっちを睨みつけ、また向こうを向いた。どうみてもワイシャツにスーツのズボン。の、ぼろぼろになったやつ。壊れて歪んだ黒縁眼鏡。酷く痩せこけていて、頬がぼっこと凹、頬骨がぼっこと凸、奥目。なぜかネクタイは鉢巻きになっていて、ザンバラヘアの隙間からひらひらとしている。酔っ払ってそのまま孤島に流れ着いて、早7年半。みたいな感じで、哀れ。というよりも、笑える。この見張りっぽい小柄なおっさんAは他のおっさんたちから「ハンチョー」と呼ばれていた。班長のことだろうか。この会社ごっこ集団は、なんやねん。だ。

 

 今から数十分ほど前、三人のおっさんに囲まれたとき、樹海の外に出たのではないと覚った。こんなぼろぼろの服で、意味不明な武器を持っている。見るからに遭難者のようだった。意味不明なのは格好だけでなく、このおっさん甲、乙、丙の言動も理解不能なものだった。

「少年たち、黙って前に進め。」背中に槍を突きつけて、おっさん甲が言った。特別に従う必要性が見出せなかったので、じっとしていたが、おっさん乙に槍をつんつんされていたイクジは、もう頭が真っ白、顔は真っ青、びびりまくりのちびりまくりで、かこかこと筋緊張させながら進んでいた。俺にも来てほしそうに目配せしたみたいだから、しょうがなく前に進んだ。

「ブチョー、カカリチョー、何ヶ月振りよ。」おっさん丙が変な言葉を口走った。

「春先だったかなあ、三、四ヶ月ってとこか。」おっさん乙が応えた。続けておっさん甲が

「シャチョーのびっくりする顔が浮かぶぜ。」なんて言う。次長だ課長だ専務だ常務だ、何の会社なんだよ。とにかく、話を聞いていてこいつらはブチョーとカチョーとカカリチョーだということがわかった。それはわかったが、何も掴めない。謎の秘密結社。


 武装中堅役職たちに小屋のある処へ誘導された。近くで見ると小屋は、細い木を雑に組み合わせたログハウスみたいなもので、床面積が六畳ほどのものが二つ、少し離れて一回り小さいのがひとつあり、ちいさな広場を囲むようにして建っていた。その小さな広場の中央に大きな焚き火の跡があり、もすもすと煙が上っていた。俺とイクジは更に奥に連れて行かれ、この木に縛られた。「ハンチョー。とりあえず見張りしとけ。」と小デブのブチョーが叫ぶと、小屋の方から酔っ払いの漂着者「ハンチョー」が長い槍を持ってやってきて、黙って俺たちの前で座り込んだ。そしてこの状態が数十分続いている。

「俺らどないなんねやろ。」イクジがまた小声で言った。

さあね。どうなろうと知ったこっちゃない。俺は初めから屍になるつもりでいるから、煮るなり焼くなり食うなりされようが一向に構わない。イクジはそうでもなさそうだが、それも知ったこっちゃない。

「あ、あのお・・・」イクジが恐る恐るハンチョーに声を掛けた。ハンチョーはくるっとこっちを向いたかと思うと、イクジを睨みつけてすぐまた向こうを向いた。

 さっきから広場の方で声がしている。色んな声が聞こえるが、何を話しているのかまでは聞き取れない。時々「賛成!」とか「異議なし!」とかの合唱が聞こえてくるだけだ。また「異議なし!」という声がした後、少し静かになり、また少しして中年のみすぼらしい男たちがぞろぞろとこちらにやってきた。ブチョー、カチョー、カカリチョーとひょろ長い馬面、浅黒い肌の筋肉質の計五人が俺たちの前に並んで立った。ハンチョーは胡坐のままこちらを向いた。

 ひょろ馬が一歩前に出て、後ろに手を組んで、咳払いをしてから蝉のような高くてしゃがれた声でしゃべり始めた。

「有限会社オオツカ食品へようこそ。男二人で心中かね。むさ苦しいね。えー、まあそれはともかく、本日の緊急会議で決定した事項を伝える。えー、まあこれから君たちは我々の食料になります。」って僕たちふたり、ほんとに煮るなり焼くなり食うなりされるみたいだね。うん。

「そんなあほなことあるかい!」イクジが焦ったように叫んだ。

「えー、君たち、死ぬつもりで来たんでしょ。じゃ、いいじゃないの。」と、ひょろ馬がにやにやしながら首を前に突き出して返した。

「俺は出れたら出よう思って来たんや。それにお前人殺しやぞ!そんなんしてええんか!」

「出れなかったね。ああ残念だったねえ。可哀そうにねえ。変な子たちだねえ。まあ君が我々の食肉になるってことは決まったからね。ここじゃあ警察や政治家、聖職者も居ない。まあ要するに法律も倫理もないんだよ。ここでは我々だけのルールがあるだけなんだ。まあここで殺人はノープロブレムなわけだから、えー、まあ諦めなさい。変な子たち。」ひょろ馬はイクジをコケにして、いかにも楽しそうに気色の悪い笑みを浮かべて言う。

「んなあほな!クソたれが!この紐はずさんかい!ウマヅラ!」イクジがじたばたしたって馬面はただにやついているだけだ。なんとなく腹が立った。

 一番偉そうにしている黒筋肉が、ひょろ馬の肩にばんと手を載せて「ジチョー、あんまり虐めてやるな。しかし左っかわの、賑やか過ぎるな。とりあえず殴っとけ。」見た目のイメージとは違って少し高めの徹った声だったからちょっとだけ笑えた。

「えー、殴っちゃってもいいんですかシャチョー。えー、まあ大事な大事な食材なんですから今回は見合わせますよ。えー、じゃあこの辺りにしておきましょうか。えー、じゃあシャチョーから最後に一言、えー。おねがいします。」と、歯の隙間からしいしいと息継ぎをしながら、へえこらとした態度でひょろ馬ジチョーが早口で言った。黒筋肉のシャチョーは、腕を組んでどっしりと構え、あの高くて徹った声を出した。

「そこの左っかわのお前、勘違いするな。お前は肉だ。俺たちは肉を食う。生きるために肉を食う。それの何が悪い。お前らも生きるために肉を食うだろう。牛や豚は良くて人間は駄目なのか。それは人間の勝手だ。傲慢だ。生きとし生けるものの命は、皆、平等だ。わかるな。お前らは、ただの肉だ!」そう言い捨て、シャチョーは広場の方へのそのそと歩いて行った。ハンチョー以外の社員はぞろぞろと後に続いた。

「待てや!お前ら何やねん!」顔を真っ赤にしたイクジが、首の横の筋をびんびんに張って叫んだ。馬面のジチョーはくるっと振り返り、後ろに手を組んで真剣な顔をした。

「えー、我々は、有限会社オオツカ食品。聞いて驚くなかれ。もともとは、君たちのように自殺するためにここへやってきた者たち。しかし、偶然にここで出会い、ここで生きる術を見つけた。煩わしい法律や倫理なんかに縛られずに楽しく生きる術を。」そして顔の筋肉を緩め、またあのいやな笑顔をした。「さあ、今夜の宴の準備だ。おい、ハンチョー、ちゃんと見張りしとけよな。」胡坐をかいているハンチョーの背中を軽く蹴って、軽快な足取りでシャチョーを追って向こうへ行った。ハンチョーはただ黙ってうつむいていた。

 今は、なんだか笑えないな。

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