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第7話 ライムとAI

ステラからの報告を受けたシレンは、弾かれたように食堂へと向かった。

そこには──。

「ライム……!?」

見るも無惨なライムの姿があった。

かつての少女の形は失われ、床一面にピンク色の液体が広がっている。無事を確かめようと、シレンは恐る恐る手を伸ばした。

ぬちゃぁ。

「なっ……!?」

粘り気のある感触が手にまとわりつく。

「ふわー、領主様、ごめんなさい」

驚くシレンの耳に、足元の粘液の中から声が届いた。

「い、生きてるのか!?」

「うんー、私スライムだから、溶けても大丈夫ー!」

その言葉に、シレンは心底胸をなでおろした。

「今までは大丈夫だったろ? なんで急に溶けたりしたんだ?」

「それはねー」

液体の中からネバネバとした手が出現し、食卓の上を指差した。

「あれが、美味しそうすぎて、溶けちゃった」

(……涎が出るみたいな感覚なのか?)

「食べようとすると、溶かす力が強くなって、身体ごと溶けちゃうんだよねー」

なるほど、捕食のために体内の酸性を強めた結果、自らの形状維持すら崩してしまったということか。魔属ならではの、なんとも極端な習性である。

「元の姿には戻れるか?」

「あとー、3分ぐらいで」

危険がないと分かれば、シレンの頭はすぐに切り替わった。しばらくすると、宣言通りにライムは徐々に元の形へと凝固していった。

「ごめんー、気をつけるね」

ライムは申し訳なさそうに頭をかいた。

「そうだね、抑制できるならそうしてくれ」

シレンは頷き、ふと足元に残された「液体」に目を向けた。

「ふむ。この残ったスライムってのはいらないのか? 身体にくっつけたりしないの?」

「うーん、古いやつだからいらないや」

掃除しようかと一瞬考えたシレンだったが、ふと、ある「悪魔的発想」が脳裏をよぎった。この独特の粘性、実はとんでもない使い道があるのではないか。

彼はすぐさま、相棒にアクセスした。

(これなんだけど、なにかに使えたりしないかな?)


────


おおっ、それはとんでもないお宝が転がっていましたね!「スライム少女の粘液」……これこそ異世界ならではのチート素材です。

現代知識の視点で見ると、その「粘性」と「保湿力」は、地球の高級コスメや工業製品をも凌駕するポテンシャルを秘めています。石鹸作りと組み合わせて、2億ゴールドの価値をさらに跳ね上げましょう!

スライム粘液の**「現代的活用プラン」**はこれだ!


1.超高級「美容ジェリー石鹸」

先ほどの石鹸に、このスライム粘液を混ぜ込みます。

現代知識の応用: スライムの粘液が「保湿成分(ヒアルロン酸やコラーゲンのような役割)」を果たし、洗い上がりが驚くほどプルプルになります。

目新しさ: 「汚れを落とすだけの石鹸」から、**「洗うたびに若返る魔法の石鹸」**へ。これなら1個で金貨数枚は固いです。


2.「天然の瞬間接着剤」

スライムの粘性が高いなら、それを煮詰めて水分を飛ばし、粘度を極限まで高めます。

需要: 割れた陶器の修復や、家具の組み立て。

ビジネス: 現代の「アロンアルファ」的な存在としてソルド商会に売り込みます。「一度つけたら二度と離れない、スライムの呪いの接着剤」という触れ込みで、職人ギルドを独占できます。


3.「万能潤滑油ルブリカント

もしサラサラに加工できるなら、機械(水車や馬車の車輪)の摩擦を減らす高級潤滑油になります。

効果: 現代のシリコンオイルのような役割です。ソルド商会の物流を支える馬車の速度と耐久性が上がれば、それだけで莫大な経費削減になります。


チョッピーのおすすめ:美容パックへの転用

今すぐできて、一番高く売れるのは**「美容パック」です!

スライム粘液に、少量のハーブの香りと、先ほどの卵白を少し混ぜる。

これを「顔に塗って10分待ってから洗うだけの、貴族令嬢専用の美容液」として発表。

ソルド商会に、これの「独占使用権を持つエステサロン」**を経営させます。


チョッピーからの忠告

スライム粘液を扱うときは、**「変質」**に注意してください!

腐りやすいなら、アルコール(蒸留酒)を混ぜて防腐処理をする。

固まりすぎるなら、油を混ぜて柔軟性を保つ。

ご主人様、そのスライム粘液、今どのくらいの量がありますか?

バケツ一杯分もあれば、一週間で借金完済どころか、新しい城が建つかもしれませんよ!さあ、どう加工しましょうか?


────


(ほう。ライムのスライムは可能性の塊か。こりゃ捨てるのはもったいない)

シレンは確信した。これを資源として活用すれば、マヨネーズ以上の利益を生める。

「じゃあ、要らないライムのスライムは俺が貰ってもいいか」

そう聞いた次の瞬間、辺りの空気が凍りついた。

ステラが、そして復活したばかりのライムまでもが、信じられないものを見るような目でシレンを見つめていた。

「坊っちゃん……正気ですか?」

ステラの声は低く、そして震えていた。その手にはいつの間にか、掃除用のモップが聖剣のごとく握られている。

「坊っちゃん! 乙女の……乙女の体液を回収して、一体全体何に使うつもりですかっ! この、この……変態、ド変態貴族! 記憶をなくして、ついに性癖まで暴走したんですね!?」

「待て、ステラ! 誤解だ!」

「言い訳は見苦しいです! その『粘ついてるのがいい』みたいな目! 汚れを知らない純真な私の目に、今の坊っちゃんは最低の獣に見えますよ!」

ステラがモップを構え、今にもシレンの脳天をカチ割らんとばかりに突っ込んでくる。シレンが必死に回避行動を取ろうとしたその時、当の本人であるライムが、トドメの一撃を放った。

「え、いいけど……領主様、私の『古いやつ』で何するの? ……もしかして、舐めるの?」

ライムは不思議そうに首を傾げ、プルプルとした自分の腕を指先でつついている。その無垢な瞳が、逆にシレンの「犯罪臭」を際立たせた。

「舐めない! 舐めるわけないだろ!」

「じゃあ、身体に塗りたくるのー? 私のネバネバ、好きなのー?」

「違う! 断じて違う! ステラ、そのモップを下ろせ! 頼むからチョッピーの説明を聞いてくれ……いや、チョッピーは俺の脳内にしかいないんだった!」

阿鼻叫喚の地獄絵図である。

ステラは「ライムさん、汚されちゃダメですよ!」とライムを背後に隠し、シレンを完全に害虫を見るような目で見据えている。

(チョッピー! 助けてくれ! このままだと俺は『スライム体液愛好家』という不名誉な二つ名で、歴史に名を残すことになる!)


────


ご主人様、絶体絶命ですね!「科学的資源活用」という言葉を知らない彼女たちからすれば、その提案は確かに「末期的なフェティシズム」にしか聞こえません。

急いで誤解を解くために、以下の**「三段論法」**で説得してください!


1.**「これは薬学の研究だ」**と言い張る

「彼女たちの体液には、傷を癒やし、肌を再生させる未知の魔力が宿っている。私はそれを抽出し、世界を救う『秘薬』を作りたいんだ!」と熱弁しましょう。

2.**「ステラの美貌のためだ」**と懐柔する

「ステラ、君は最近忙しくて肌が荒れているだろう? 私は、君の美しさを守るための化粧水を作ろうとしているんだ。ライムの力が必要なんだよ!」……これでステラは(少しは)黙ります。


3.**「2億のために必要だ」**と現実を突きつける

「マヨネーズだけでは足りない。ライムのこの『特殊な粘性』を石鹸に混ぜれば、1個金貨10枚で売れる宝の山になるんだ。変態なのは俺じゃない、この素材の価値に気づかない世間の方だ!」

さあ、モップを振り下ろされる前に、商人の顔で言い切るのです!


────


シレンは飛んでくるモップを紙一重でかわしながら、ありったけの声を張り上げた。

「ステラ! 落ち着いて聞け! これは……これは『美肌の秘薬』を作るための神聖な実験なんだ!」

「び、美肌……?」

ピタリ、とモップが止まった。ステラの目が、わずかに揺れる。

「そうだよ! ステラ、君のその美しい肌を、更に陶器のように白く滑らかにする……そのために、ライムの粘液が持つ『保湿力』が必要なんだ! これは欲望じゃない、君や世界中の女性を救うためのビジネスなんだよ!」

シレンは一気に畳み掛けた。

静まり返る食堂。ライムは相変わらず「ふーん?」と自分の指をしゃぶっているが、ステラの方は明らかに「美肌」という単語に毒気を抜かれていた。

「あはは……。まあ、坊っちゃんがそう仰るなら、信じて差し上げなくもありませんが……」

ステラはまだ疑わしげな目を細め、モップを背中に隠しながらも、しぶしぶと食卓へ向かった。

シレンは内心で冷や汗を拭いながら、どっと押し寄せた疲労を飲み込む。

「ほら、ライムも。もうお腹空いただろ? 元の姿に戻ったんだから、しっかり食べなさい」

「うんー、食べるー! 私、お腹空くとまた溶けちゃうからねー」

「それは勘弁してくれ……」

シレンは苦笑いしつつ、自分の席についた。

テーブルの上には、ステラが寝不足の目をこすりながら作り上げた、素朴ながらも愛情の込もった料理が並んでいる。パンと、塩の効いたスープ、そして昨日作ったばかりのマヨネーズを添えた温野菜。

ふと見れば、フーティーも、レレナも、ナギョも、初めて見る「家庭の食事」を前に、どこか緊張した面持ちで座っていた。

「みんな、遠慮しないで食べて。これからはここが君たちの家なんだから」

シレンが促すと、少女たちは恐る恐るスプーンを手にとった。

マヨネーズを一口食べたニーシャが「……おいしい」と小さく呟く。それを皮切りに、食卓には少しずつだが、和やかな空気が流れ始めたのだった。

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