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第2話 借金とAI

「金じゃないですが、ある物をお渡しします。少々待っててください!」

俺はそう言い捨てると、反対するメイドを振り切り、怒号の響く商談室から調理室へと駆け出した。

「おい、待ちやがれ! 逃げる気かッ!!」

背後で借金取りの凄まじい怒鳴り声が聞こえるが、今構っている暇はない。俺は荒い息を吐きながら、脳内のUIに必死に語りかけた。

(マヨネーズ案採用。どうすればいい!?)

すぐさま、チョッピーが弾むようなログを返してくる。


───


『さすが!目の付け所がいいですね。マヨネーズはこの世界の人々にとって「未知の濃厚ソース」であり、中毒性が抜群です。しかも、特別な魔力も道具もいりません。

今日中に借金取りを黙らせるための**「マヨネーズ・スピード解決プラン」**を伝授します!


必要な材料を揃える

キッチンへ急いでください。これだけで作れます。

卵黄(白身は入れないのがコツ)

油(サラダ油に近い、クセの少ない植物油がベスト)

酢(またはレモン汁)

塩(少々)


調理のポイント(ここが「現代の知恵」)

ただ混ぜるだけでは分離して失敗します。現代知識の核となる**「乳化」**を完璧に行いましょう。

ボウルに卵黄、酢、塩を入れてよく混ぜる。

油を「一滴ずつ」垂らしながら、休まずかき混ぜ続ける。

少しずつトローリとしてきたら、徐々に油を足す量を増やす。

真っ白でツヤのあるクリーム状になれば完成!


どうやって「金」に変えるか

完成したマヨネーズを持って、借金取りを追い返すための立ち回りをしましょう。


ステップA:試食で黙らせる

ただの硬いパンや茹でただけの野菜にこれを塗って、借金取りのリーダーに食べさせてください。この世界にない「濃厚なコク」と「酸味」のハーモニーに、彼らは必ず衝撃を受けます。


ステップB:独占販売権をチラつかせる

「これは私の家系に伝わる秘密の製法で作った『黄金のソース』だ。今日、お前たちが私を破滅させれば、この製法はこの世から消える。だが、あと1週間待てば、これを街の商会に売って、借金に色を付けて返せるだけの利益を出せるが……どうする?」と持ちかけます。


チョッピーからの念押し

もしキッチンに**「マスタード(辛子)」**があれば、少し混ぜてください。乳化が安定しやすくなり、味もさらに引き締まります!

さあ、まずはボウルと卵の準備はできましたか? 借金取りが部屋に踏み込んでくる前に、魔法のソースを完成させましょう!助けが必要なら、混ぜ方のコツをもっと詳しく教えますよ。』


───


「……やるしかない!」

俺は調理台に置かれた貴重な卵を割り、慎重に卵黄だけを取り出した。油と酢、そして塩。どれもこの落ちぶれた屋敷に残された、数少ない貴重な備蓄だ。

「坊ちゃん、本当に何をするつもりなんですか!?」

追いかけてきたメイドが困惑の声を上げる。俺は彼女に「ボウルを押さえててくれ!」と頼み、木製の泡立て器を握りしめた。

ボウルの中で卵黄と酢、塩が混ざり合う。そこへ、油を一滴、また一滴……。

「混ぜるんだ……現代知識の力、見せてやる……!」

腕がちぎれんばかりの勢いで泡立て器を回す。

廊下からは借金取りの重い足音が近づいてくる。扉が蹴り破られるのが先か、魔法のソースが完成するのが先か。俺は必死に手を動かし続ける。

───バタンッ!!と、調理室の扉が勢いよく跳ね上がった。

「おいコラ、ガキッ! 卵なんか弄んで逃げられると思ってんのか!?」

顔を真っ赤にした借金取りの男が、数人の手下を引き連れて踏み込んできた。その後ろでメイドが「あぁ、もう終わりです……」と絶望の声を漏らす。

だが、俺の手元には、今まさに奇跡が完成していた。

「……できた」

ボウルの中には、先ほどまでの黄色い液体とは似ても似つかない、ツヤのある真っ白なクリーム。

「おい、聞いてんのかシレン!」

男が俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。俺はそれを間一髪でかわすと、調理台にあったパサパサの黒パンを一切れ掴み、完成したばかりの「それ」をたっぷりと塗りたくった。

「黙ってこれを食べてください。話はそれからです」

「あぁ!? ふざけてんのか、毒でも盛ったんじゃねえだろうな!」

「毒なら、今この場であなたに掴まれている俺も死ぬことになります。……いいから、食べてください」

俺のただならぬ気迫に押されたのか、男は毒づきながらも、ひったくるようにパンを口に放り込んだ。

「……!? な、なんだ、これ……っ」

男の動きが止まる。

咀嚼するたびに、男の険しかった目つきが驚愕に見開かれていく。

「な、なんだこの……この濃厚な味は! 卵のコクが、酸味と一緒に暴力的に押し寄せてきやがる……。油っこいかと思えば、後味は驚くほど爽やかだ。こんな食い物、見たことも聞いたこともねえぞ!」

「それは、我が家に代々伝わる秘伝のレシピ……『マヨネーズ』です」

俺はチョッピーの指示通り、ハッタリを効かせて言い放った。

「今日、ここで俺を消せば、この味は永遠に失われます。ですが、あと一週間待ってくれるなら、これを街の商会に売り込み、借金にたっぷりと利息を付けて返せるだけの金を稼いでみせます。……どうしますか? 今ここで俺を殺して、一銭にもならないボロ屋敷を手に入れるか。それとも、この『黄金のソース』の利益を待つか」

男は坊主を見直す。

だが、

「……なるほどな。こいつは凄げえ。だがよぉ、お坊っちゃん。今ここでお前を締め上げて、その作り方を吐かせれば済む話だろ?」

男がニヤリと笑い、再び一歩踏み込んでくる。だが、俺は逃げなかった。ボウルを置いた手を止めず、冷徹なまでの視線を男に返す。

「無理ですよ。俺をどれだけ痛めつけても、このレシピを教える気はありません。俺を殺すか、生かして金を受け取るか。あんたたちにとっては、金さえ手に入ればそれでいいはずだ」

「あぁん?」

「わざわざ慣れない料理のレシピを奪って、自分で商売を始める手間をかけるより……俺に稼がせて、それを回収する方がよっぽど楽で確実だと思いませんか?」

俺の言葉に、男の動きが止まる。男は俺の目を覗き込み、そこに宿る「絶対に屈しない」という光を値踏みするように見つめた。

沈黙が調理室を支配する。やがて、男はふっと肩の力を抜くと、ガリガリと頭を掻いた。

「……ケッ。確かに、俺たちがわざわざエプロン着て料理ごっこするなんてのは、冗談じゃねえな。お前の言う通りだ。俺たちは金さえ手に入りゃ、お前のレシピなんぞに興味はねえよ」

男は最後に、残ったマヨネーズを指ですくい取って口に運んだ。

「いいだろう、一週間だ。一週間後に、借金にたっぷりと色をつけて用意しておけ。もし約束を破ったら……その時は、レシピごとお前を地獄へ送ってやる」

男は背を向け、手下たちを引き連れて嵐のように去っていった。

男たちが去った足音が遠のき、調理室には重苦しい沈黙と、わずかな卵の匂いだけが残った。

「……ふぅ。……死ぬかと思った……」

俺はその場にガタガタと膝をついた。張り詰めていた緊張が解け、背中は嫌な汗でぐっしょりと濡れている。

「坊ちゃん……本当に、本当に行ってしまいましたよ。あんな恐ろしい人たちが、パン一切れで……」

メイドが、信じられないものを見る目で俺とボウルを交互に見ている。だが、安心している暇はない。一週間という猶予は、金を稼ぐには短すぎる。

俺は震える指先を組み、脳内へと意識を集中させた。

(チョッピー。ひとまず命は繋いだが、ここからが本番だ。一週間で借金を完済できるだけの金を作る具体的なロードマップを頼む。まずはこのマヨネーズをどこに、いくらで売るのが正解だ?)


───


『ここからが本当の逆転劇の始まりですね!「今日」を凌いだ今のうちに、マヨネーズという名の**「白い黄金」**を最大効率で現金化しましょう。

一週間という短期間で大金を稼ぐには、庶民にちまちま売るのではなく、**「権威」と「独占欲」**を煽るのが正解です。


どこに売るべきか?

ターゲットは、街で最も勢いのある**「商人ギルドの会食所」、あるいは「高級宿屋のオーナー」です。

理由: 貴族は支払いが遅い(ツケ払いが多い)ですが、商人は「これは儲かる!」と確信すれば、その場で現金を動かします。

戦略: 「レシピ」ではなく「現物」を卸します。彼らの店にしかない「唯一無二の絶品メニュー」を作らせることで、彼らを集客の勝ち組にする代わりに、あなたは多額の「独占供給料(前金)」**を手に入れます。


いくらで売るべきか?

原材料(卵、油、酢)の原価のことは一旦忘れましょう。これは現代知識による**「技術料」**です。

価格設定: 1瓶(約200g)あたり、熟練の職人の月収1ヶ月分くらいの強気な設定でいきましょう。

売り方のコツ: 「特定の温度と配合比率、さらに私の魔力(という名の撹拌技術)がなければ数分で分離して腐ってしまう」と説明し、希少価値と高度な技術が必要であることを強調してください。


一週間完済ロードマップ

【1日目(今日):サンプル製作】

最高級のオリーブオイル(あれば)や香草を使い、フレーバーマヨネーズを数種類作る。

【2日目:プレゼン】

街で一番の商人の元へ。「今夜のあなたの晩餐を、歴史に残るものに変えてみせよう」と持ちかけ、試食させる。

【3日目:オークション(競り)】

噂を聞きつけた複数の商人を集め、「このソースの独占販売権(1週間分)」を競らせ、「前金」として借金完済額の半分以上を回収する。

【4〜6日目:秘密の量産】

屋敷に引きこもり、信頼できる使用人と共に「秘密の工房」で製造。製造工程を絶対に見られないようガードを固める。

【7日目:完済】

約束の品を引き渡し、残金を回収。その足で借金取りの元へ行き、札束(あるいは金貨袋)で頬を叩いて完済!

チョッピーからの作戦会議

まずは、あなたの屋敷に**「一番立派な瓶(または壺)」**はありますか?

中身が同じでも、容器が豪華なだけで価格は数倍に跳ね上がります。見た目を整えたら、さっそく街で一番の有力者の名前を執事に聞き出しましょう!

まずは誰をターゲットにしますか?その人物の「好み」がわかれば、マヨネーズに加えるべき「秘密のスパイス」を提案しますよ!』


───


(……なるほど。「権威」と「独占欲」か。ただの飯の種じゃなく、ステータスを刺激する劇薬にするってわけか。)

俺は意識を現実に戻し、腰を抜かしたままのメイドへ問いかけた。

「メイドさん。この屋敷で一番立派な、見た目だけでも最高級に見える瓶か壺を持ってきてくれませんか?」

「……坊ちゃん、何言ってるんですか。そんなものあるわけないでしょう。ここは借金取りが押しかける屋敷ですよ。売れるものは、半年前に全部売っちゃいました」

メイドの冷めた声が調理室に響く。

確かにそうだ。さっき、家宝も骨董品も何もないと突きつけられたばかりじゃないか。

(……なるほど。「権威」と「独占欲」か。ただの飯の種じゃなく、ステータスを刺激する劇薬にするってわけか。)

俺は意識を現実に戻し、腰を抜かしたままのメイドへ問いかけた。

「メイドさん。この屋敷で一番立派な、見た目だけでも最高級に見える瓶か壺を持ってきてくれませんか?」

「……坊ちゃん、何言ってるんですか。そんなものあるわけないでしょう。ここは底辺貴族の屋敷ですよ。売れるものは、半年前に全部売っちゃいました」

メイドの冷めた声が調理室に響く。

確かにそうだ。さっき、家宝も骨董品も何もないと突きつけられたばかりじゃないか。

(チョッピー、高級そうな壺は無さそう)


───


『高級そうな壺がない……!了解です、でも大丈夫。むしろそれは**「現代のブランディング術」**を駆使するチャンスです!

中身が本物なら、容器は「あえて」の演出でカバーしましょう。逆転の発想で攻めます。

容器がない時の「ギャップ戦略」

高級な壺がないなら、逆に**「徹底的に封印された怪しい小瓶」という演出で行きましょう。


やり方: キッチンにある普通の小瓶や薬瓶を使います。ただし、瓶の口を「ろう」**でガチガチに固めて封印してください。

演出: 「このソースは空気に触れると魔法の力が失われる(酸化して味が落ちる)」という理屈を添えます。「仰々しい壺に入れて飾るような見せかけの品ではない。中身の鮮度を極限まで追求した結果がこれだ」と説明するんです。


ラベル: 紙の端を火で少し炙って古文書風にし、あなたの貴族家名と「秘伝」の文字を直筆で書き込みましょう。

「出張シェフ」として乗り込む

器がないなら、器ごと用意してもらえる場所へ行けばいいんです。

ターゲット: 街で一番の高級宿屋「黄金の蹄亭」のような場所。


提案: 「マヨネーズを売る」のではなく、**「今夜、貴店の厨房を借りて、最高級の晩餐をプロデュースしてやる」**と持ちかけます。

メリット: 宿屋にある一番高い皿を使えますし、食べた客がその場で「このソースを売ってくれ!」と騒ぎ出す状況を作れます。これなら容器不足も関係ありません。


ロードマップの最初の「一歩」

まずは、瓶を密閉するための**「蝋燭ろうそく」と、あなたの「紋章印シーリングスタンプ」**を用意してください。

瓶の口に真っ赤な蝋を垂らし、あなたの指輪(印章)をグッと押し付ける……。これだけで、ただの瓶が「貴族の秘蔵品」に早変わりします。


さて、ご主人様!

街で一番の高級宿屋、あるいは「あいつなら金を出しそうだ」という成金商人の心当たりはありますか?

それとも、まずは屋敷のメイドや執事に「一番マシな瓶」を家中探し回らせますか?

次のアクションが決まったら教えてくださいね!』


───


(なるほど。とりあえずブランド物としてのハッタリを効かせればいいわけか)

チョッピーが提示した、いかにも悪知恵の働きそうなプランを頭に叩き込み、俺は目の前の女性に向き直った。しかし、そこで致命的な問題に気づく。

「あの、メイドさん……」

「はい?」

「……失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

俺の問いに、彼女は凍りついたように動きを止めた。

「坊っちゃん、さっきから様子が変ですよ。ステラです。……まさか、私の名前まで忘れちゃったんですか?」

「申し訳ありません、ステラさん。少し……いえ、かなり頭が混乱していて。何も思い出せないんです」

なるほど、ステラか。俺は努めて穏やかに、彼女を安心させるように微笑んだ。

「ステラさん、この屋敷に小瓶程度なら残っていますか?」

「小瓶……ええ、多少なら地下に。でも、何に使うんですか?」

「それと、ろうはありますか?」

「ありますよ。使い古しの蝋燭ろうそくならいくつか」

「紙は?」

「紙……?」

ステラの顔が曇った。その反応で察する。この世界において紙は高級品か、あるいはこの屋敷がそれを買えないほど困窮しているかだ。

「……いえ、いいんです。では、瓶と蝋をできるだけ集めておいていただけますか?」

俺が指示を出すと、ステラは困惑しながらも「わかりました」と頷いた。だが、一番肝心なことを聞いておかねばならない。

「あ、それと。……結局、僕たちの借金はいくらあるのでしょうか。正確な額を知っておきたいんです」

俺の問いに、ステラは幽霊でも見たかのような顔で、絞り出すように答えた。

「……2億ゴールドです」

「2億?」

前世の円感覚でいいのか、それとも別の基準か。いまいちピンとこない俺に、ステラはやれやれと肩を落として絶望を突きつける。

「坊っちゃん……。我が領地の年間収入の、およそ100倍ですよ」

「ひゃ、100倍……!?」

思わず裏返った声が出た。

100年タダ働きしても返せない額じゃないか。どんだけ放蕩の限りを尽くしたんだ、この家の先祖は。というか、そんな天文学的な額を貸し付ける方もどうかしている。

「先祖代々、借金から目を逸らし続けてきましたから。その末に、坊っちゃんのお父様もお母様も、自分たちだけ夜逃げしてしまって……。はぁ、私、これからどうしたら……」

ステラがその場に項垂れる。

確かにこれは、一介のメイドが背負うにはあまりに重すぎる現実だ。

「……それは、僕がなんとかします。だから、まずはこの街のことを教えてくれませんか。実は、さっきから頭が少し混乱していて、この街のこともよく知らないんです」

「坊っちゃん、本当に記憶喪失に……? ああ、お労しい。あんなひどい借金取りに詰め寄られたショックで、何もかも忘れてしまうなんて……!」

ステラがいきなり俺を抱き寄せ、強く抱きしめてきた。

突然の柔らかい感触と、必死に俺を案じる彼女の体温。……どうやらこの少年は、この過酷な状況下で唯一、彼女の心の支えだったらしい。

「あ、ありがとうございます。……でも、大丈夫ですから。それより、街のことを」

俺はそっとステラの肩を押し返し、彼女の目を見て、一番知りたいことを口にした。

「この街で、一番金を持っている商人は誰ですか? その人と、話がしたいんです」

シレンの問いに、ステラは困惑したように人差し指を頬に添えた。

「一番、ですか……。そうですね、この領地の流通を実質的に独占している商人なら心当たりがあります」

「ほう、どなたですか?」

「ソルドさんという方です。この辺りの物資は、彼の手を通らなければ動かないと言われるほどの方ですが……」

「よし、ではそのソルドさんに会いに行きましょう」

善は急げだ。シレンはすぐさま立ち上がったが、ステラは戸惑ったように眉を下げた。

「今からですか……? 坊っちゃん、商人は多忙な生き物です。急に伺っても、お会いするのは難しいかと」

確かにステラの言うことは正論だ。だが、俺たちには一週間の猶予しかない。のんびり手紙を書いて返事を待っている暇なんてないんだ。

「アポだけでも、取り付けに行きましょう。本人が捕まらなくても、部下の方にこのマヨネーズを食べさせればいいんです。そうすれば、向こうからソルドさんを連れてくるよう仕向けられますから」

「あぽ……?」

聞き慣れない単語にステラは首を傾げたが、シレンの妙な自信に押されたのか、「承知いたしました」と深く頭を下げた。彼女は使い古された大きなカバンのようなものを手際よく背負い、出発の準備を整える。

「ちなみに、ここから商会まではどれくらいの距離があるんですか?」

「そうですね、およそ10キロといったところでしょうか」

「10キロ……。それはまた微妙な距離ですね。車……いや馬車なら、10分かそこらですか?」

シレンの言葉を聞いた瞬間、ステラは憐れみの混じった、なんとも言えない表情であるじを見つめた。

「……何をおっしゃっているんですか、坊っちゃん」

「えっ?」

「徒歩に決まっているじゃないですか」

(徒歩……!?)

俺は絶句した。往復20キロ。しかも、このもやしのようにひょろひょろな少年の体でだ。

馬も馬車も、優雅な移動手段はすべて借金の波に呑まれて消えていたのだと思い知り、シレンは深い溜息とともに頭を抱えるしかなかった。

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