起きる
三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅういち。
小さくカーテンを開くと、痛いほどのオレンジ色が一斉に部屋に入り込んできた。
思わず目を閉じてしまう程にその光は強く、そして暖かかった。
遮光カーテンはその隙間以外からの侵入を許さず。
入りこんだ一筋の光は、暗い部屋により一層強く映った。
「……」
部屋の中はまだ少し暖房のついていた名残がある。
時間設定で消えるようになっているから、少しずつこの部屋も冷えていくだろう。朝食後には仕事に戻るからつけることもあるのだが……まぁ、点けっぱなしもよくないのだろう。
おかげで頭はぼんやりとしているが、指先から徐々に冷えてきていけない。
「……」
外は今日もまた風が強いのか、木々が傾いているように見える。
それでも天気はいいようだから、あの子供たちはきっと、変わらず駆けているのだろう。これが夏ならば、向日葵が映えて良いように映るのだろうけど……今は生憎冬の季節だ。こんな時期に、夏の象徴が居るわけがない。
「……、」
布団の中に隠れている足先は、まだ少し暖かい。
徐々に冷えた空気に体温を奪われ、ベッドの上に座っていた私の上半身は冷え切ってしまった。思わず震える肩に、もう一度もぐりこんでしまおうかと思ってしまう。
「……」
時計を見れば、いつもの時間よりは少しだけ早い。
それでも、その近くにかかっている鳥籠の中身は空っぽだ。
いつからそこに冷えた空気が居座っているのかは知らないが……アイツはいつ起きても、私より早く出ているから感心してしまう。
「……」
まぁ、でも。
冷えた空気のおかげで、徐々に頭も冷めてきたし、起きてしまうことにしよう。
このままここで座っていてもいいけれど、なんだかそれは惜しいような気がしてしまう。
早起きは三文の得というのだったか……それほど早起きというわけでもないのだが、まぁ、いつもより早いのだから、早起きという事にしておこう。
「……」
細く開いたカーテンを閉じ、部屋を暗闇に閉じ込める。
光を見ていたせいで、ほんの少し視界にノイズが走るが、すぐに元に戻った。
布団の中から足を抜き出し、裸足のままで床の上に下ろす。
「……」
その降ろした先に、冬用のルームシューズがある予定だったのだが……どこかに蹴ったらしい。昨日そんなに寝ぼけながら布団に入っただろうか。そんな記憶もないのだが。
「……」
どこにやっただろうかと、気持ち上半身を傾けながら足元を見やる。
ほんの少しだけずれた先に、ルームシューズが置かれていた。片方は踵がこちらに向いて、もう片方は逆を向いていたけれど。
「……」
お行儀悪く、それを足で引き寄せ、適当につっかける。
踵まで履けるものなのだが、もうとうにつぶれてしまっていた。
実はその踵の方になぜか薔薇の意匠が凝らされている。どんな趣味だと思ったが、アイツに買い与えられたものなので文句は言えない。
暖かいから何でもいいと言うのが本音ではあるが。
「……」
その薔薇を踵に踏みながら―ここだけ言うとなんだかいけないことをしているような気分になる―さてリビングに行こうかと歩き出す。
足先だけはどうしても冷えるが、裸足のままで歩くよりはよほどいい暖かさである。それでも部屋は冷えつつあるから、寒いことに変わりないのだけど。
「……」
「……」
と、寝室の戸を押し開けようと手をかけた矢先に。
先に、その戸が開かれた。
「……おはよう」
「……おはようございます」
開いた本人は、まさか私が起きていると思っていなかったのか、少々驚いた顔をしていた。
腕には洗濯物を抱えて、開きづらそうにしている。
「……片付けるか?」
「いえ、大丈夫です」
そういうと、私と戸の狭い隙間を器用に抜け、洗濯物を片付け始めた。
とは言え、たいした量はないし、すぐに終わる。
私はと言うと、なんとなく手持ち無沙汰になって、入り口に立ったまま眺めていた。
「……何してるんですか?」
「いや、なんでも」
洗濯物を片付け終わり、訝し気な表情と声で問いかける。
何もしていないのに、なんだか申し訳ない気分になるのは何だろうな。
「……顔を洗ってきてはどうですか」
「あぁ、そうする」
動くことを促され、ようやく足が動いた。
先にリビングと向かう背中を追いながら、私は洗面台へと向かう。
「朝食はすぐ食べますか」
「いや、もう少しあとでいいよ」
「分かりました」
多分、今から準備をするのだろう。
……後で、リクエストでもしてみるかな。
「なぁ、今日は魚が食べたい」
「……ないです」
「味噌汁は?」
「……それくらいなら」
お題:オレンジ・向日葵・薔薇




