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碑文谷高校演劇部 史上最悪の1時間  作者: 双鶴


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5/5

エピローグ この1時間が、私たちの青春だった

講堂の照明が落ち、幕が完全に下りた。

拍手はしばらく続いた。熱狂ではない。けれど、確かに心に届いた何かへの、静かな称賛だった。


佐藤ひなたは、舞台袖で深く息を吐いた。

演出ノートは汗で湿っていた。赤ペンの文字がにじんでいる。「事故→奇跡」「青春=混乱+爆発音+カレーうどん」——そのすべてが、今や過去になった。


「先輩、カレーうどん、片付けますね」

中村光が容器を持って現れる。湯気はもう消えていた。


「ありがとう。爆発音、最後のやつ……よかったよ」

「でしょ? あれ、ちょっと余韻意識したんですよ」


舞台裏では、部員たちが笑いながら泣いていた。

高橋美月は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、蒼に言った。


「私、あの舞台で初めて“伝えたい”って思った。台詞じゃなくて、気持ちで。」


蒼は、カレーうどんの容器を片付けながら笑った。

「俺、宇宙飛行士じゃなかったけど、なんか飛べた気がする。」


ひなたは、演出ノートを閉じた。

「史上最悪だった。でも、最高だった。」


田所先生が舞台裏に顔を出す。

「教育的には問題だが……まあ、青春だな。」


講堂の外では、夕焼けが差し込んでいた。

客席では、観客たちがざわつきながらも、どこか満足げな表情で席を立っていた。


「なんだったんだ、あれ」「でも、なんか泣けた」「カレーの香り、まだ残ってる」


ひなたは、舞台袖からその光を見つめながら、静かに呟いた。


「この1時間が、私たちの青春だった。」


——そして、誰かの心に残る舞台が、確かにそこにあった。





数日後、演劇部の部室。

ひなたは、演出ノートの最後のページに、もう一行だけ書き加えた。


「次は、もっとちゃんと混乱させよう。」


部員たちは、次の舞台に向けて動き始めていた。

誰もが、あの“史上最悪の1時間”を忘れられないまま。


青春は、終わらない。

カレーうどんと爆発音と、少しの勇気があれば——きっと、また飛べる。


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