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碑文谷高校演劇部 史上最悪の1時間  作者: 双鶴


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3/5

第2章 演劇部史上、最も笑えて泣ける「事故」の記録

「小道具、ないです!」


その叫びが舞台袖から響いたのは、開演から17分後だった。

カレーうどんの容器が見つからない。演劇部の舞台は、宇宙飛行士とカレー屋の娘が地球を救うという支離滅裂なラジオ劇を、なぜか実演で再現するという設定。カレーうどんは物語の鍵——のはずだった。


「誰か、買いに行って!」

佐藤ひなたの声に、1年生の部員・藤井が手を挙げた。


「ヒモンモール、走ってきます!」


舞台上では、山田蒼が「俺は宇宙飛行士だった。でも、地球に帰ってきたらカレー屋の息子だった」と語り、高橋美月が「この香りが、私の記憶を呼び覚ます」と泣きながら演技している。観客はざわつきながらも、笑いをこらえている。


——そして、実況が始まった。


「今、校門を出ました! 信号、青です! 走ります!」


舞台上の照明が切り替わり、藤井の実況がスピーカーから流れる。

「ヒモンモール到着! フードコート、混んでます! カレーうどん、発見!」


観客が爆笑する。演劇なのか、ドキュメンタリーなのか、誰にもわからない。

中村光が「実況に合わせて効果音入れます」と言い、なぜか爆発音を鳴らす。


「光! なんで爆発!?」

「緊張感、出したかったんです!」


藤井が戻ってきたのは、開演から28分後。

汗だくで舞台に飛び込み、カレーうどんの容器を掲げる。


「持ってきました! 地球を救う、カレーです!」


美月が容器を受け取り、湯気が舞台に立ち込める。

「この香りが……私の記憶を呼び覚ます……」


観客は笑いながらも、なぜか静かになる。

蒼が「俺は宇宙飛行士じゃなかった。カレー屋の息子だった。それでも、誰かを救いたかった」と語る。


その瞬間、顧問の田所先生が舞台に乱入した。

「それは違う!」


観客が拍手する。部員たちは驚きながらも、即興で対応する。


「先生、あなたは……地球防衛軍の隊長だったんですね!」


「そうだ。だが、地球を救うのは、カレーじゃない。——君たちの想いだ。」


講堂が静まり返る。

ひなたは舞台袖で呆然としながらも、演出ノートに赤ペンで書き込む。


「事故→演出に昇華」


中村光が「爆発音、あと3発いけます」と冷静に言い、ひなたは「やめて」と返す。

舞台は混乱の極みだが、なぜか観客は笑い、泣き、拍手する。


「演劇って、こういうもんだっけ?」

ひなたは自問する。台本は消えた。だが、舞台は生きている。


部員たちは即興で物語を紡ぎ、観客と呼吸を合わせている。

事故が、奇跡に変わる瞬間だった。


——そして、残り時間は20分。

この“史上最悪の1時間”は、まだ終わっていなかった。


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