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4話 二足歩行の犬ころ

新人初めてのお使い

 新人たちの現状の力は把握した。結論。


 レオンもサラも、戦闘面ではまだまだ課題が多い。サラに至っては、何か訳の分からないことになっているが、接近戦はまるでダメだ。


 少し手合わせしてみたが、杖をブンブン振り回すその様は、まるで東洋の祈祷でも見ているようだった。


 レオンはサラよりは動けるが、前衛としてまともに機能するには、まだ時間がかかるだろう。


 そんなことを考えながら、仕事の準備を整える。十年来の付き合いのプレートメイルの下には、関節を守るために特注の鎖帷子を着込んだ。そして、背には愛用の両手斧を背負う。


 ギルドへ向かう道すがら、今日の依頼をどうするか思案していた。


 ギルドに着き、掲示板を物色していると――


「どいて下さい」


 背後から鋭い声が飛んできた。面倒臭いのに当たってしまった。


「ハルナか」


 振り向けば、そこにはハルナ率いる彗星の尻尾の面々が立っていた。


 リーダーのハルナは、いつものように東洋産の鎧に身を包み、腰には刀。


 後ろには神官服の金髪女セラ。


 鎖帷子に槍を持った赤髪のソーマ。


 黒ローブにビー玉の様な紫色の瞳をしたカリナ。


 古巣の面々が立っていた。


「場所なら空いてるだろうが」


 そう言って掲示板に視線を戻す。


「貴方みたいな不良冒険者と並びたくないんです!」


 思春期かな?


「そうか。 なら俺が依頼を選び終えるまで、そこでカカシみたいに突っ立ってろ」


 拳を握る音が背後から聞こえた。ソーマだろうな。握力強いんだあいつ。


「どいてくれリカルドのおっさん。俺達は忙しいんだ」


 髪の色が精神に影響しているかのようなソーマはその激情を目の奥に宿らせ俺を睨みつけている。……暇みたいに言われるのは実に心外である。


「なぁ、何をそんなに急いでるのか知らんが、もっと肩の力抜けよ」


 ギリリと歯を食いしばり、こちらを睨みつけるソーマ。そんな顔してもダメなもんはダメ。


「オスカーの前でも同じことが言えるの?」


 今度はセラか。なんで今オスカー?脈絡の無さに戦慄すら覚えた。


 「言えるよ」


 そもそもあいつが一番リラックスしてたじゃねえか。


 分かりやすく死人に引っ張られてんだよなこいつら。


 いや、それは俺もか。オスカーの幻聴とか気持ち悪いから勘弁して欲しい。早く成仏しやがれ、クソオスカー。


「そう」


 俺の短い返しに、セラは目を伏せた。


 会話終了である。俺が決めた。だから終了。


 最初だし、薬草採取でいいか。


 そう思って依頼書に手を伸ばしたところで、ハルナに掴まれた。無駄に握力が強い。


「薬草の採取なんかは新人冒険者が行うべき依頼です。彼らの稼ぎ口を奪うつもりですか?」


 まぁ、何も知らないとそう思うわな。


「知ってる。新人用に受注するんだ」


「どういうことですか?」


「ギルドからの依頼でな。暫く新人の面倒を見てくれってさ。ったく、割に合わねえ仕事回してくれたもんだ」


「新人の教導? あなたが?」


 ハルナが胡乱げな目で俺を見る。気持ちは分かる。思いの丈はしかるべき場所にぶつけて欲しい。


「文句ならリンダに言え。押し付けてきたのはあいつだ」


 少し、リンダを懲らしめてやってくれ。


 願いを託し、場を離れようとした時、カリナと目が合った。こいつは古巣の中でも中立的な変わり者だ。


 どうせ、後で話すんだ。今済ませとくか。


「カリナ、新人のことで相談があるんだが」


「魔法関連?」


 思考を先読みするの、やめてくれないか。


「そうだ」


「分かった。今夜、いつもの食堂で待ってる」


「悪いな。新人も連れてくから、そのつもりでいてくれ」


「ん」


 めっちゃ会話がスムーズだった。これが頭脳と引き換えに倫理観を投げ捨てた女、カリナである。


「カリナ! そんな男と」


 セラが何か言いかけたが、カリナが遮る。


「別に私の勝手。あなた達は彼が嫌い。私は嫌いじゃない。それだけ」


 眠そうな目でそう言うと、どこを見てるか分からない目で前を向いた。スリープモードに入ったようだ。


 相変わらずマイペースな奴だ。まぁ、俺が話しかけなきゃこんなことにもならなかったわけだが。


 後でなんか奢ってやろう。


 古巣の奴らに手を振り、その場を離れる。


 面倒なのに捕まったせいで遅刻じゃねえかよ。しかもいつの間にか人が集まってるし、いい見世物だ。


 人でごった返す掲示板から離れると受付近くで待機していた新人2人と合流する。


 初めての依頼の為で、緊張した面持ちで立つその姿は、ギルド内でも酷く浮いて見えた。


 そんな2人の緊張には気付かない振りをして俺は言った。


「待たせたな」










 受け付けで依頼書を提出し早速、近場の森にある薬草の群生地までやってくる。


 俺が若い頃は薬草の群生地も自分で探したり、仲良くなった人間から聞き出したりしたものだ。便利になったものである。


「一応聞くが、薬草の知識はあるか?」


 2人に向かって確認すると、レオンがおずおずと手を挙げて言った。


「一応、僕もサラも村の薬師のお爺さんから薬草の種類とか処理方法とかは聞いています」


 期待してなかったが、こいつはいい。俺が楽できる可能性がでて来た。


「そいつは何よりだ。薬草の知識は持っといて損はねえ。森の中で怪我した時なんかも使えるし、処理がキチンとしてりゃ報酬も上がる可能性がある。よし、取り敢えず集めてみろ……っとその前にお客さんだ」


 俺の声に2人が身を固くする。こんな場所で出くわす客なんてたかが知れている。魔物だ。


 姿は見えないが、辺りには濃厚な獣臭と高い唸り声。


 この声は、コボルトだな。数は、そんなに多くないか。


 方々から聞こえる。コボルトの声に身を固くする新人2人にはっぱを掛ける。


「よーし、まず落ち着け。周囲を警戒しろ。この鳴き声はコボルトだ。よく覚えておけよ。この辺りじゃあ珍しくない魔物だからな」


 背負っていた両手斧を構えながら言った。


 物陰から3匹のコボルトが姿を現した。外見は二足歩行の犬である。


 コボルトの手に握られたのは木を加工して作ったであろうこん棒。


 コボルトに知性がある事を示していた。


 あいつらからすると俺たちがさぞ美味そうに見えたんだろう。


 口からは涎が糸を引いて垂れている。知性とは何だったのか。


 まぁ、所詮犬ころだ。


 これなら。新人に無理させずに済む。


「今回は俺が殺る。次からはお前らに殺らせるから自分ならどうするか考えながら見とけ」


 俺はコボルトに向かって駆け出した。


 最初の一体目も既にこちらに駆け出してきている。


 チラリと他の個体を確認すると高みの見物を決め込んでいた。


 どうやら一体を犠牲にこちらの力を測ろうとしているようだ。意外と知恵の回る個体ではある。


 動く気配のない個体からは一旦意識を外し向かってくる個体に集中する。


 俺との間合いが詰まった事を確認したコボルトが手にしたこん棒を振り挙げて雄叫びを挙げている。


 そんな事はお構いなしに手にした重斧を薙ぎ払う。コボルトがこん棒を振り下ろすより早く、俺の刃はコボルトの腹の肉に食い込む。


 そこで止めるわけがない。薙いだ勢いそのままに、重斧を振り抜くとそのままコボルトの身体は臓物を撒き散らしながら真っ二つになった。


 1体目の処理を終え残りのコボルトの動向を確認する。一体は固まっている。


 そしてもう一体はどうやら俺ではなく新人達をターゲットにしたらしい。


 じゃあ、俺の次の狙いはそいつだ。


 コボルトが新人共に駆け寄る前に、俺が距離を詰め込め助走の勢いを利用した重斧を唐竹に叩き込む。


 慣性と重力と武器の重量をのせた一撃はコボルトが反射的に構えた腕を切り飛ばし、本体も脳天から縦一文に両断した。


 最後の一匹は逃走を選んだらしいが判断が遅い。


 仲間を呼ばれても面倒なので仕留めたい。


 地面から拳大の石ころを取り上げると背を見せるコボルトの後頭部目掛けてぶん投げる。


 石ころはコボルトの頭に鈍い落を立ててめり込み、短く痙攣して崩れ落ちた。


 コボルトの血を持ってきたボロで拭っていると、恐る恐るといった様子で新人2人が近寄ってきた。


「あ、あの」


 レオンが目を見開き口をパクパクさせながらこちらをみてきた。


 魚の真似だろうか。中々堂に入っていた。暫くそんな状態が続き、空気を取り込み終えたのかポツリとレオンが零した。


「リカルドさんって本当は強かったんですね」


 普通に失礼だった。思わず拳骨をお見舞いしていた。


「お前は俺をなんだと思ってたんだ」


 サラを見ると気分悪そうに口を押さえていた。目は伏せられ、意識的か無意識か、コボルトの死骸から目をそらしていた。


「サラは取り敢えずこう言った光景にも慣れろ」


 サラに言うと、コボルトの死体に近づいて行った。


「お前ら喜べ。臨時収入だ」


 剣帯から短剣を引き抜くと事切れたコボルトの胸に突き立てる。


「来い」


 近くに来るように促す。


 呆けた顔で近寄るレオンはいいとして、顔を青白くしながらにじり寄るサラ、の様子には気付かない振りだ。


 いちいち構ってられるか。


 2人が近寄ったのを確認して突き立てた刃を滑らせる。コボルトの胸は切り開かれ、内部構造があらわになる。


「うっ!」


 両手で口を押さえてへたり込むサラを無視して先を続けた。胸骨を砕き、血溜まりの中に沈むコボルトの臓腑をかき分ける。


 生臭い。サラは、よしよし、吐いてないな。


 そうして、人間で言う心臓の辺りから目的の物を抉り出す。


 コボルトの胸から引き抜かれた俺の手には血で濡れる紫の石が握られていた。


「魔石だ。中々いい値段で売れる。魔物を殺ったら抉り出しとけ。冒険者の収入源だ」


「魔石って魔物から取れてたんですね」


 ポツリとサラが零した。まだ顔色は良くなかったが目は魔石を見ていた。


 やっぱこいつら色々と知らねえな。よく、無事に街までこれたもんだ。


「そうだ、理由はわからんが魔物には魔石がある。こいつは知っての通り色々な物の動力源として利用されてる。価格も安定してる。いい収入になる。最初きついだろうが慣れろ。残りはお前らにやらせる」


 お誂え向きにあと2体居るしな。


 ボロで魔石に付いた血や油を簡単に拭き取らながら言うと腰の道具袋に放り込んだ。


「後魔石をとった方がいい理由はもう一つある」


 言ってコボルトの死体を指差した。


「そろそろだ」


 俺が言うとコボルトの死体は砂粒の様になって天へと消えて行く。死体があった場所には牙だけが残された。


「消えた」


 レオンがポツリと呟く。


「案外綺麗なもんだろ。理由はわからんが魔物は魔石を失うと肉体の殆どが消滅する。それで魔物の体の一部だけが残るわけだ。死体の処理が楽だ。落ちた素材も金になる。武器にもなる」


「不思議な生き物ですね」


 コボルトが消えた後も虚空を見あげながらサラがいう。


「だから魔物なんだろ。動物と区別されるわけだ」


 そうして残りの2体から新人共に魔石を抉り出させ、薬草採取に戻る。サラは半泣きでやってた。慣れろ。


 魔石の抉り出しでは若干もたついたが、2人の薬草採取は意外にも手慣れていた。


「随分手慣れてるじゃねえか」


 感心しながら言うと2人は恥ずかしそうに理由を語った。どうやら二人して村では薬師のお爺さんを手伝い小銭を稼いでいたらしい。


 と言っても村単位で貧しいので、報酬は雀の涙ほどだったそうだ。ひどい時は取ってきた薬草をそのまま渡されてたらしい。


 村単位で貨幣がないんだろうな。外貨が入ってこないんだろう。


 ともあれ俺にとって2人の薬草に関する知識量は嬉しい誤算だった。


 冒険者として薬草の知識は案外重要だ。しかも意外に覚える事が沢山ある。これをすっ飛ばせるなら俺もこのガキ共のお守りから案外早く解放されるかもしれねえな。


 小さい事でも一応喜んでおくのが俺の主義である。


 そんな訳で少しだけ上機嫌になった俺は新人を連れて町へと戻るのだった。

■魔物の生態補足

・魔物には「魔石」が存在し、これが体内にある限り肉体は維持される。

・魔石を失うと、魔物の肉体は砂のように崩れて消える。

・残るのは一部の素材(牙、爪、皮など)で、武器や装備の材料になる。

・魔石は動力源としても使われ、安定した収入源になるため、冒険者にとって重要な資源。

・魔物と動物は分けて考えられる。動物は魔石を持たない。死んでも消えたりしない。放っとくと当然腐る。


サラは半泣き、レオンは魚。おっさんは斧と短剣で今日も働く。

おっさんマジおっさん。


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