17話 二本足の犬ころ2
見切り発車でコボルトて接触に来たリカルド達。それぞれの思惑はバラバラです。
さて、とは言え俺もどうしたらいいか分からんのが現状である。
コボルトに位置を補足されてるようなので、今さら罠を張る時間もない。最初に張っておくんだったぜ。
奇襲も効果は薄いか。下手すりゃ、こっちが奇襲される側だ。
「カリナ、コボルトを拘束できる魔法はあるか?」
「いくつかある。木の根を使う。効率がいい」
なるほど、上々だ。
「ハルナ、レオン。カリナの準備が整うまで足止めしろ」
「分かりました、師匠!」
「なんで貴方が仕切ってるんですか。……まぁ、仕方ないですね。峰打ちは刀身に負担がかかるので、あまりやりたくないんですけど……」
渋々、ハルナは鞘から刀を抜いた。刀の背が敵に当たるように構える。
刀は切ることに特化した武器だが、脆い。しかも刀を打てる職人が限られるこの辺りじゃ、刀そのものが珍しい。繊細な武器は扱いが面倒だ。
というより、あいつは敵の攻撃を真正面から受けたがらない。理由は簡単──刃が欠けるからだ。頑張って刀の腹で攻撃を反らす技術を練習してる。面倒な話だ。重さで殴るか、叩き切ったほうが早いだろうに。
折れず曲がらずが刀らしいが、そんなのは幻想だ。装備者の技量あってこその武器。欠陥品とまでは言わんが、使い手は選ぶ。
俺なら補給も覚束ない冒険で、わざわざ刀なんて選ばん。まあ、あいつの勝手だ。
なんか、ハルナが「刀は武家の魂」とか以前よく分からん事を言っていたが──随分と脆い魂である。
ハルナに言ったら、「己の技量と精神を研ぎ澄ませということです! 脆さが本質じゃない!」などとブチギレてたが……
まあ、なんにせよだ。繊細な武器を壊さず使い続けるハルナの技術は化け物だ。俺には真似できん。
などといらん思考をしている間にも、周囲にコボルト共の咆哮が反響し合う。
……やってみるか。
「サラ、例の魔法、今使え」
「え?」
「コボルトが話してんなら。何話してるか魔法で分かるだろ」
上手く行けばだがな。
「とにかくやれ!」
「は、はい!」
返事をするとサラは瞑目し、精神を統一する。少し、変な汗を掻いている。
慣れろ。魔法使いは戦闘中にそれをやらなきゃならんのだ。
やがてサラが目を開け、詠唱を始める。
「Praeconium incantationis, nunc aperitur. Audi vocem loquentis. Revela speciem eius: monstrumne an homo. Extrahe sensum orationis, per fluctus verborum. Si monstrum est, verte verba in linguam humanam. Si homo est, converte verba in linguam monstrorum. Lingua translata fluat: ad hominem, si humana; ad monstrum, si monstrorum. Finis incantationis. Exequere.」
何を言ってるのか分からん。これだから魔法使いは。
だが、サラって読み書きも出来ない状態から魔法の勉強を始めてまだ一月だったよな。
どんな頭してんだ、こいつ。もう、俺より言葉知ってるんじゃないかこいつ。
詠唱が終わると、サラの呪文が――頭の中に言葉を流し始めた。
「囲め。敵はこっちの位置を分かってねえ」
「丁寧に追い詰めろ。生き延びれば、今日の飯は豪華になるぞ!」
物騒なやりとりが頭に響く。俺の声でも、味方の声でもない。つまり……コボルトの声だ。
いい度胸だ。
「犬ころ共! 俺達を食おうたあいい度胸だ! 気に入った! 全員殺してやるから、とっととかかって来やがれ!」
俺が呼びかけると、奴らは分かりやすく狼狽した。犬ころだけに。
「おい、誰だ、変な事言った奴は!」
「俺じゃねえ!」
「獲物の方から声がしたぞ!」
コボルトって、大声でこんな事話してたんか……。
それより中々この魔法使えるではないか。魔物共が何を考えてるのも分かるし。
視認される前に偽情報を叫べば、撹乱にも使える。
「ちょっとリカルドさん。挑発しないで下さい」
「サラ、お前の魔法、案外使えるじゃねえか。魔物討伐に情報戦の概念が出来るかもしれねえぞこれ」
笑いながら言うとサラが顔をしかめながら言った。
「そんな目的で作ったんじゃないです」
なんだ?急にコボルトどもが静かになったぞ。
「おい!出てこい!降参するなら捕まえるだけで勘弁してやる!」
俺が呼びかけるも返事は無い。完全に警戒されたようだ。
「カリナ、魔法は上手くいったみたいだぜ。殺していいか?」
そっちのが楽だ。レオンとサラが何か言いたげにしてるが関係ない。お前らだって殺してただろうが。
「んん、生け捕り。これから魔力配分の調整なんかもある。被検体が欲しい」
面倒臭え。
「だ、そうだハルナ」
「私はさっきからそのつもりです。貴方が勝手に動いただけでしょうが」
刀を構えながら。サラが周囲を警戒する。
「レオン、生け捕りは殺すのより面倒だぞ出来るか?」
「……はい」
「ウジウジ考えてるなら見てろ。邪魔だ」
「……っ! やります!」
まぁ、頑張れ。
その時、物陰から一斉にコボルトの集団が襲いかかってきた。5、いや6体か。多いな。
殴りかかって来たコボルトのこん棒を斧で受け止めると横面をぶん殴る。
「がっ!」
等と言いながらコボルトは吹っ飛んでく訳だがいつ回復するか分かったもんじゃねえなこりゃ。
ハルナを見ると、コボルトの攻撃を躱したり、刀で受け流したりしながら、隙が出来た所に刀の背で一撃入れている。
やっぱやりづらそうだ。
レオンはコボルトの攻撃を防ぐので手一杯か。
仕方ねえな。
レオンに攻めかかるコボルトに駆け寄ると、後ろから股ぐらを蹴り上げた。
「アウッ!」
コボルトが情けない声を上げながらその場に崩れ落ちた。雄だったようだ。残念だったな。
「師匠……」
レオンが何か言いたげに俺を見てくるがたまは取ってない。潰れてないかは知らんが。
カリナの方を見ると魔法の詠唱を既に終えていたらしく。
カリナにしては大きな声で俺達に合図を送る。
「準備出来た」
同時にハルナと俺はコボルトから距離を取る。レオンの首根っこを引っ掴みながら。
首を絞められた鶏みたいな声を出していたが知らん。
飛び退いた直後、地面が隆起し、木の根が生き物の如くうねりながらコボルト共を拘束していく。
木の魔物は見たことあるがこんな動きをしていた。虫みたいで気持ち悪い。俺は虫が嫌いなんだ。
取り敢えず。コボルトの身柄は拘束したわけだが、めっちゃ面倒だ。なにこれ、またこんな事やらないとならんの?
コボルト程度でこれなんだ、もっと手強い魔物なんかは最悪死ぬぞマジで。
ともあれコボルトは拘束した。周囲に魔物が潜んでいないことを確認して、取り敢えず警戒を解く。
「おい、俺の言葉が分かるか?」
拘束されたコボルトに近づいて語り掛けるも返ってきたのは犬のような鳴き声。
魔法が切れたらしい。
「サラ」
俺が言うとサラは道具袋からマジックポーションを取り出して口に含む。
燃費の悪い魔法である。
「翻訳の魔法は自然現象じゃない。魔法としての重みがちょっと違う」
俺の表情を見ていたカリナが言った。
「重み?翻訳魔法は高級品ってことか。実用化出来るのか?これ」
「これからの技術。改良点は山程ある。伸びしろの塊」
せいぜい頑張れ。
数分待って、マジックポーションの効果が出てきたのか。サラが再び先程の魔法を使用した。
やがて、魔法の効果なのか木の根に締め付けられた。犬ころ共の鳴き声が人語に変換される。
「何だこれ、ふざけやがって」
「くそ!引き剥がせねえ」
……2足歩行の獣を拘束して立ち竦む俺達。何この絵面。
「おい、お前ら、俺の言葉が分かるか?」
俺のその声にぎょっとしたように顔を向ける犬ころ共。
「なんでお前が俺達の言葉を話してやがる!」
「そんな事どうでもいい。さっさと話しやがれ!」
「くそったれ!良くも俺のイチモツを蹴りやがったな!」
口悪いなこいつら。
「リカルド、彼らに実験の協力をお願いする。私が話してみる。サラにこれを」
言うとカリナが自分の道具袋からマナポーションを数本取り出して渡してきた。
こいつガチだ。サラをポーション漬けにしてでも魔物をこっちに引き込むつもりだ。
そしてカリナに交渉なんてものが務まるのか疑問である。
その後のカリナの交渉という名の脅迫に心折られた犬ころ共はカリナのペットとして飼われるに至るのであった。
カリナ曰く魔法発展の為の尊い犠牲らしい。
コボルト共には最終的に、家族に別れだけ言わせてくれと泣きつかれた。
レオンとサラが泣きそうになってた。
流石にカリナも仏心を出したのか。数日に一度は家族の所に散歩に連れて行くらしい。
後、人はもう襲うなとめっちゃ脅してた。食料は何とかしてやるとは言ってたけど大丈夫なのか?
そもそも、倫理観を投げ捨てた女が社会的正義を語る姿は出来の悪いコントのようだった。
犬ころ共のパーティー入り?についてはハルナが凄く嫌そうな顔をしていた。俺も同じ顔をしていただろう。
パーティー追い出されててよかったぜ。
交渉の内容をもっと詳しく?報告書でも読みやがれ。俺の口からは言いたくねえ
シリアス書いてたはずがこれである。
一応のリアリティを求めたらこうなりました。
敵対してた魔物と話して穏便に住む未来が書けない。
ゴブリンとの交渉?どうなるんですかね。レオン達が頑張ってくれますよきっと。




