16話 俺は今日は働かん!
リカルド視点に
予期せず転がり込んだ休日、ギルドの酒場で二日酔いに苦しむ彼を待ち受ける運命やいかに。
頭痛え。
冒険者ギルドの酒場の椅子に浅く腰掛け、背もたれに身を預ける俺は、ムカつく胃をさすりながら、酒臭い息を溜息として吐き出した。
「いかん、完全に飲み過ぎた」
人生の麻酔の副作用だ。摂取しすぎると吐き気と虚脱感、頭痛に襲われる。喉もカラカラになる。水が飲みてえ。
「師匠、水です」
レオンが変な方向に成長してやがる。
サラに怒られそうだ。……怖い。
「……おお、気が利くな」
取り敢えず褒めとこう。サラの事は怒られた時に考えればいい。
「はい!何時ものことなんで!」
返す言葉もねえ……
こいつは笑顔で俺の心を抉りに来る。
レオンから水を受け取り、一気に煽る。
美味い。二日酔いは水を美味くしてくれる。
「レオン、酒は飲んでも呑まれるなよ」
「はい、師匠が身を以て教えてくれた教訓。無駄にはしません!」
……役に立ったようで、何よりである。
そう、漢は背中で語る生き物なんだ。
俺の背中をよく見とけ。
そしてこんな大人になるなよ。
そしてレオンのアホにはこれだけは言っておきたい。
「師匠は止めろ」
弟子にした覚えは無い。
「師匠、今日はどうしましょう」
……俺はとんでもないモンスターを生み出したかもしれない。
戦慄すら覚える。
「どうするってやる事なんてねえだろうが、待機だ待機」
ドルガンの奴に勝手に動くなって釘刺されちまってるしな。
「待機でもギルドにだけは顔を出す師匠、流石です」
ギルドじゃなくてギルド内の酒場に顔を出した訳だが。
……もういい。好きにしてくれ。
別に誰も困らないからどうでもいい。
訂正するのすら面倒だ。
水を飲んで幾分スッキリしたので、酒を注文した。
「ところで師匠、サラの奴昨日帰って来てないんです。なんかカリナさんの所に泊まってるらしくて」
「ご愁傷さまだな」
カリナと寝食を共にするか。
中々の地獄だ。
今度会ったらどんな顔をしてるか愉しみだ。
思いきり笑ってやろう。などと考えていたのがいけなかったのだろうか。
ギルドの扉が開くとサラが入って来た。
「なんだあの組み合わせ……」
思わず呟いた。サラはいい。カリナが一緒にいるのもおかしくない。
何故ハルナが一緒にいる。中々面白い事になってるではないか。
それより、ハルナのご機嫌が斜めなのは間違いない。危険だ。
どうか、気づかれませんように。
「師匠、サラとカリナさんとあれは昨日の……」
「シ!身を低くしろ!気取られるぞ!」
「何で隠れてんです?」
今日はオフだって決めてるからだよ!
あんなの見えてる地雷じゃねえか。休暇ごと吹き飛ぶぞ。
身を低くし息を殺す俺。
しかし残念。サラが迷いなく酒場の方を向く。目が合った。そして小さな溜息。
サラ!2人に何吹き込んでやがる。
俺の方を指さすな。
存在をバラすんじゃねえ。
利敵行為は止めろ!
サラの裏切り行為、その効果は絶大だった。
カリナはビー玉のような目を、ハルナはオーガのようになった顔面を、殊更ゆっくりと顔をこちらに向ける。
こっち見んな。
こっち来んな。
「リカルド、何をしているのですか?」
ツカツカ歩みよって来たハルナが凶悪な顔面で言った。
「見りゃわかんだろう」
椅子に腰掛けたまま、飲みかけのカップを掲げた。
「また昼間からお酒ですか。どこまでも変わりませんね。貴方は」
「別に、いいだろ。今日はやる事もねえんだ。何しようと俺の勝手だ」
「新人を任されてる時ぐらい模範的な行動が出来ないのですか?」
「アホか。俺が教えるのは冒険者の技術だ。生活態度じゃねえ」
「教える者としての振る舞いがあるでしょう。素行不良の教導の言うことを新人が素直に聞くとでも?」
「どうだろうな。別に言うこと聞かせる気もそんなにねえよ。言うべきことは言うがな」
ゴブリンの一件で新人共がお人好しなのは理解した。言うこと聞かせる?無理だそんなの。
「それより、なんでお前とサラが一緒になってるんだ? そっちのが謎なんだが」
「それは……」
言い淀んだハルナに被せるようにカリナが言った。
「ちょっとコボルト捕まえに行く。リカルドも行こう。人手は多い方がいい」
「落ち着けカリナ。魔法関係か?」
「ん、ゴブリンで試す前にコボルトで試す。準備の準備」
「お前、早く試したいだけだろ」
「実益も兼ねてる」
とってつけたような実益だろきっと。
「リカルドが来るなら私は必要ありませんね」
ハルナがそう言って立ち去ろうとする。おうおう、帰れ、じゃねえ。
なんで俺がついてくみたいな方向で話が流れてんだよ。
「ハルナ、お前、一度引き受けのに投げ出すのか?」
逃がすか。
「なんですって?」
ハルナは単純だ。ちょっと煽ると簡単に乗ってきてくれる。
「前はもう少し根性有ったと思ったんだがな」
「貴方と行動するのが嫌なだけです!」
だろうな。よし、カリナを使おう。
「なる程、カリナ、お前ハルナを無理矢理連れてきたな?」
「無理矢理?違う。頼んでついてきてもらった。ハルナはちゃんと自分の事は自分で決められる子」
サラがお前マジか?みたいな顔でカリナを見ている。半分無理矢理連れてきたんだろうな。カリナにその気はなさそうだが。
「ハルナ、カリナはこう言ってるがどうなんだ?」
「いえ、あれはカリナが私しかいないとか泣き落としみたいに」
ハルナの目が泳いでる。実に愉快だ。
カリナが泣き落とし、面白い冗談だ。絶対計算ずくだ。間違いない。サラの表情が物語ってる。
「泣き落としに絆されて、やるって言ったんだろ?」
まぁ、真相なんでどうでもいい訳だが。
「……言いました」
「じゃあ、最後までやるのが筋ってもんじゃあねえのか?」
しらんけど。
「ぐ、リカルドはどうするんです。私は貴方とは……」
「俺は行かねえから安心しろ」
なんでハルナを煽ってそんな言葉を引き出したと思ってる。俺が行ったら全くの徒労ではないか。
俺は今日は働かん!
「リカルド、サラが来るんだから。リカルドも行こ。教導の仕事」
ぐうの音も出ねえ。
「……ドルガンに話をつけてからだ」
カリナに裏切られた。いや、こいつは敵でも味方でもねえんだが。
「あの、カリナさん。コボルトを捕まえるって、ちょっと」
引き攣った顔でレオンが言う。まぁ、こいつが魔物との交渉を言い出した動機が動機だからな。
ハルナとサラも頷いてる。お前ら仲いいな。
「コラテラルダメージ」
その言葉を使えば黒が白になるわけではない。
抵抗虚しく現在森の中を散策中である。
出発前にリンダに「流石リカルドさん。面倒事を押し付ける手腕、参考にさせて頂きます」などと言われた。どこで盗み聞いてやがった。
後、頼むからそれ以上進化しないでくれ。
それにしてもドルガンの奴、かなりあっさり許可を出した。使用した構文と結果を纏めた報告書を提出しろだとよ。誰がやるんだよ面倒くせえ。
結局ハルナもついてきてる。
律儀な奴だ。
まぁいい、コボルトなんてその辺に出るんだ。大して珍しい魔物じゃねえ。
ゴブリンの集落から少し離れた森の中を俺、レオン、サラ、カリナ、ハルナの変則パーティーが黙々と歩いていた。
空気は最悪だった。
ハルナが俺を穴が開くほど見つめてくる。
射抜く視線と命名しよう。
「しかし一応、ゴブリンと交渉しようって奴らがコボルトを拘束するとはな。何とも皮肉なもんだ」
「師匠、俺もなんか分かんなくなってきました」
だから、言ったんだ。ゴブリンだけの問題じゃねえって。魔物討伐に面倒な倫理観持ち込みやがったからだ。せいぜい苦しめ。
「私も抵抗はありますけど、どうしても必要なことなんです」
サラが言い訳するように言ってる。一応の後ろめたさを持ってるようで何よりである。
一応、カリナ化は最小元で留まっているらしい。
「私は魔物とコンタクトを取ること自体反対ですが……」
ハルナがブツクサ言いながらあとに続く。
「コボルトと話せたとしてその後どうするんだ?殺すのか?」
レオンとサラがギュッとした表情でこちらを見る。
「なんだお前ら、考えて無かったのか?ゴブリンとの交渉にしてもそうだ。交渉が決裂した時の覚悟もしとけよ」
まあ、ドルガンもそのあたりの事は考えてるだろうよ。だから俺だけでなくハルナのパーティーも同行させたんだろう。
ダメだった時の掃除役だ。全くハルナ達も損な役を押し付けられたもんだ
「師匠、魔物の気配です」
レオンの声が酔と怠けが一気に吹き飛ばした。
よくやったレオン、魔物の気配に敏感なのはいい事だ。この一月、毎日町の外を連れ回した俺の労力も無駄では無かったと言うことだ。
吹き抜けた風に乗って嗅ぎ慣れた獣臭が鼻を突く。
続いて、遠吠え。コボルトだ。
向こうも俺たちに気がついてる。あいつら風上に居るってのに鼻がいいもんだ。
遠吠え上げるって事は複数体いやがる。
俺はずっと魔物をぶっ殺して来た。生きたまま無力化なんて経験がねえ。
仕方ない。手探りになっちまうがやるしかねえな。一応、教導なんてやってんだ。ノウハウを作るってのも教えてやらねえとな。
次回はコボルト戦です。
テンポ悪くてすいません。
全部リカルドがいけないんです。私は悪くない。




