表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/20

15話 サラの心は毒色吐息

サラ視点です。

 ギルドでの一件から一夜明け、私はカリナさんの部屋で目を覚ました。


 昨日は大変な日だった。昨日の件に関わった人達はギルドから勝手に動くなと釘を刺されているので依頼すら出来ない。実質謹慎みたいなものだが今は都合が良かった。


 カリナさんがフリーなので魔法の完成までしっかり協力してくれそう。


 でも泊まり込みは聞いてない。知ってたら。色々と準備もして来たのに。


 とは言え、私の考えた翻訳魔法はカリナさんの大幅なテコ入れを加えられ。一応の形にはなった。


 構文の作成自体は工程の整理が済んでれば難しくない。一晩あれば十分。問題は魔力配分と動作の正確性なんだよね。


 上手く動かなければ構文を調整したり魔力配分を変えたりしないといけない。


 魔法を知らない人間でも無詠唱で使える生活魔法とは全然次元が違う。


「inflame《着火》」


 声に魔力を乗せて唱えると指先に火がともる。


 込める魔力なんて爪の先程でいい。火力調整ができるのは便利すぎる。


 そして生活魔法って一般でも使われるから無詠唱でも可能だ。


 無詠唱魔法と詠唱魔法は少し異なるのだけどまぁ今はいいよね。


 私が無詠唱で着火の魔法を行ってた時は火力調整が効かず。


 火が5メートルは噴き出していた。凄く使い勝手が悪かった。


 以前、生活魔法で戦おうとしていた私を見るリカルドさんの表情を思い出す。


 うん、ごめんなさい。無謀でした。


 やがて、呪文に込められた魔力を使い果たした炎がスッと消える。


 それにしても、リカルドさんとレオンはどうしてるだろう。


 レオンはまぁ、大丈夫かな。リカルドさんはなんか足元がおぼつかなくなってたけど……平気なのだろうか。二日酔いとかになってないかな?


 だからあれ程飲むなと言っているのに……


 まぁ、仕方ない。彼はそう言う生き物だ。


 頼りにはしてる。感謝もしてる。


 お願いしますリカルドさん。もう少し素直に尊敬させて下さい。


 恩人なのは間違いない。どうすればいいんだ本当に。私の昨今の悩みの一つである。


 いや、好きか嫌いかで言われれば間違いなく好きな人に分類される人だ。本当に。


 何故あんなに残念なんだろう。レオンは凄く懐いてるけど。レオンが羨ましい。


 そして同じ事はカリナさんにも言えるのだけども……


 私の隣で寝息を立てるカリナさんを見ながらそう思った。


 別に好きでカリナさんと同衾してたんじゃない。私にその気はない。


 カリナさんの部屋はベッドが一番安全地帯なんだよね。


 カリナさんの借りてる部屋って結構汚いから。


 決してゴミが落ちてるわけじゃない。


 よく分からない物体とか分厚い本とかがそこかしこに散らばっているんだよこの部屋。


 勝手に動かすと機嫌が悪くなる。なんかカリナさんなりに整理整頓してるらしい。


 ゴミは無いから嘘ではないのだろう。謎の物体はゴミではない。魔法の触媒とかなんだって。


 でも、床に置かないでください。間違えて踏みそうになるんです。


 ここ一ヶ月で想像以上にだらしない言が分かったカリナさん。


 流れでカリナさんの部屋に泊まる事になったけど、この人本当に体を洗わず寝ようとしてた。


 慌てて、宿から水を買って、服を脱がせて体を拭いた……何故私がこんな事をしているのだろう。


 まぁ、私の魔法の先生なんだこれぐらいなら安いものだが、そう言う問題じゃないよね。


 いや、これ以上は言うまい。魔法使いとしては間違いなく優秀な人なんだ。


「カリナさん起きて下さい」


 黒いローブに身を包み丸まっているカリナさんを揺する。どうしよ。寝起き悪かったりしないよね。


 暫く揺すってると、ムクリとローブが隆起した。


 カリナさん覚醒の瞬間だ。ガラス細工のような瞳はぼんやりと私を見つめていた。人形とでも見つめ合っているような気分だ。


「カリナさん。お早うございます」


 取り敢えずの挨拶。返事は無い。目を開けながら寝ている?カリナさんならやりかねない。


|Praeconium incantationis, nunc aperitur.《詠唱の宣言、今ここに始まる。》」


「いきなり魔法使わないで!」


 がっつり魔力がこもった詠唱開始を慌てて止める。タメ口とかどうでもいい。私の命がかかっている。


 《詠唱の宣言》は詠唱が長い魔法に使われるやつだ。要は割と危ない。ファイアボールも十分危ないけど……もっと危ない。


 一月前の私なら訳が分からず吹き飛んでいたかも知れない。


 魔力の流れが認識できるようになったのはこの一月の成果の一つだ。


 こんな形で生かされるとは思わなかった。


「犬が宿の下にいた」


 そしてカリナさんがまたもやよく分からない事を言っている。


 リカルドさんは何故カリナさんとスムーズに会話を成立させてるのだろう。


 リカルドさんならゴブリンとの遺志疎通も素面で出来そうだと思ってしまうのは私だけだろうか。


「宿の下に犬がいた」


 聞こえてます。何言ってるのか分からないだけです。


「犬とお話でもするんですか?」


「ん」


 ……当たってしまった。これで私もカリナ検定3級だ。因みにカリナ検定という概念を作ったのはリカルドさんだ。


 後で、報告して3級認定をもらおう。


 微塵も嬉しくない。


「カリナさん。すいません。もう少し分かりやすく話して下さい」


 カリナさんと話すコツは、会話を諦めないことだ。根気強く話せばいいのだ。


「ーー昨日の構文化した魔法。犬で試す。ゴブリン捕まえると怒られる」


 レオンは怒るかも。リカルドさんは分からない。私もちょっと抵抗がある。


 その上ででこう思う。


「犬って言葉あるんですか?」


「分からない。少し興味がある」


 新しい玩具を与えた子供みたいなことを言うカリナさん。


 そして宿のワンちゃんはカリナさんのお眼鏡にかなってしまったようだ。哀れだ。






‐-‐-






 カリナさんの言いたい事、やりたいことは分かったので、手早く準備を整えると私とカリナさんは宿を出て。ワンちゃんに会いに行った。










「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!!」


 行った瞬間めっちゃ吠えられた。野生の勘で身の危険を察知したのだろうか。哀れだ。もう逃げられない。何、とって食うわけじゃないんだ。安心して欲しい。


「じゃあサラ。お願い。」


 一体何をお願いされたんだ私は。


「カリナさん。犬凄く吠えてます」


 何を言ってるのか分からない時は別の切り口からだ。


「なんて言ってるんだろうね」


「言語じゃないです。感情の発露だと思います」


「気になるよね」


 よし、何となくカリナさんの要望は分かった。


「いきなり教え子を作製中の魔法の実験台にしないでもらえます?」


 要は、私に昨日作ったばかりの構文を使用して、犬と話せるか試せと言ってるのだこの方は。


「ゴブリンとの交渉時、魔法はサラが使用する。サラが使うのが合理的。私がやってもサラの魔法力は伸びない」


「暴発リスクは?」


「……平気だと思う」


 少し黙ったのはなんだ。


「構文は一部を犬に置き換えて」


 大真面目に言ってきた。無茶振りもいいところだ。


「分かりました。やります」


 女は度胸。というかここ一月で色々麻痺した気がする。


「ん、魔力配分は昨日言った通り」


「はい、翻訳部分の工程に込める魔力は少なめに、ループ処理は多めに込めるでしたよね」


 カリナさんの感覚的な物言いはそう言うしかない時だ。仕方ないね。


「ん、翻訳部分に多く込めると、翻訳回数が少なくなる」


 詠唱魔法は言葉に込められた魔力を使用して工程を実行する。翻訳魔法のような繰り返しの処理が必要な場合、変なところに魔力を込めると繰り返し処理の回数が減る。


 連続爆発を起こす魔法などにも言えるが、一度目の爆発に使用された魔力が基準となる。


 そんな物騒な魔法を使う予定はない。今の所は。ものの例えだよ。


 2度目以降は繰り返し処理の呪文に込められた魔力を使用して行われる。


 ワンホールのケーキの一切れが小さい方が多く切り分けられるということだ。小さすぎると崩れちゃうけどね。


 私は未だ吠え続けるワンちゃんに向かい合うと杖をかざした。


 目を閉じて集中し全身を巡る魔力の流れに注意を向ける。


 カリナさんは何気なくやってるけど、呪文の一節毎に魔力の流れを調整するのはかなり神経を使う。








 ーー準備は整った。目を閉じたまま、詠唱を開始する。


「Praeconium incantationis, nunc aperitur.

《 詠唱の宣言、今ここに始まる。》

Audi vocem loquentis.

《話者の声を聞け。》

Revela speciem eius: canisne an homo.

《その者の種族、犬か人間かを明らかにせよ。》

Extrahe sensum orationis, per fluctus verborum.

《言葉の波から、発話の意味を抽出せよ。》

Si canis est, verte verba in linguam humanam.

《 犬であれば、人語に変換せよ。》

Si homo est, converte verba in linguam canum.

《人間であれば、犬語に変換せよ。》

Lingua translata fluat: ad hominem, si humana; ad canem, si canina.

《 翻訳された言葉が人語なら人間へ、犬語なら犬へ届けよ。》

Processum iterare donec loquendi actus cesset

《処理をループせよ》

Finis incantationis. Exequere.

《詠唱は終わった。実行せよ。》 」


 呪文って荘厳なイメージがあるけど、私たちの言葉に直すと結構間抜けなんだよね。


 頑張ってかっこいい言い回しを考える魔法使いもいるみたい。情熱を割く部分が違うと思うけど。


 そして魔力配分についてだけど翻訳魔法に関しては、最初は少なく、ループ処理のところで多めの魔力を込める。


 魔法ってこの魔力の分配が難しい。少ないと発動しなかったり不安定になる。多く込めすぎると暴発リスクもあるし。先にカリナさんが言ったような非効率な魔法になったりもする。


「サラ、やっぱり記憶力が凄い。頭に図書館」


 私はカリナさんの言ってることが分かる魔法が欲しい。カリナ検定2級への道は遠く険しい。


「カリナさん魔法発動してるんですかねこれ」


「……さあ」


 ですよね。


 私は静かになったワンちゃんに向き直ると言った。


「サラです。あなたのお名前なんですか」


「……ワフ?」


 小首をかしげられる。可愛い。そしてなんの参考にもならない。


「カリナさんダメです!失敗です」


 翻訳なんて出来てない。犬語なんてなかった。


「サラ、イヌの様子、さっきと違ってる」


 知ってます。さっきから私の足元スンスンされてます。


「吠えつかれたとか?」


「こっちの言葉は通じてるのかも」


「本当に?」


「仮説止まり」


「そもそも犬って言葉らしい言葉が無いんじゃないでしょうか。検証のしようがありませんよ」


 結局分からない。失敗の原因は被検体が言語を持つ生き物かも分からない事である。


「やはり、知能の高い魔物が必要。ギルドにいく」


 もう誰もカリナさんを止められないかも知れない。


「ドルガン支部長に相談ですか」


「そう。この際、知能のある魔物なら何でもいい。コボルトなら後腐れない。攫ってこよう」


 人形みたいな顔で人でなしみたいな事を言うカリナさん。目はキラキラと宝石のように輝いている。


 ……カリナさんに後腐れって概念があったんだ。驚いた。そして何故この人はこんなにノリノリなんだろう。いや、凄く助かるけれど。


 さらに言えば、私は魔物を無闇に殺したくないのでこの魔法を考案したわけだが。色々と本末転倒気味な気がしないでもない。


「カリナ。何をしているので……」


 ハルナさんが現れた。何でこの人はこうタイミングがあれなんだろうか。


 私を見て固まるハルナさんを見てそう思った。ワンちゃんは尻尾を振って、私の足に体を擦り付けていた。可愛い。


「ちょっとコボルト捕まえてくる。ハルナも行く」


 めっちゃ言い切った。


「ごめんなさいカリナ。ちょっと話が見えない。それより何で彼女とあなたが一緒にいるの?」


 とハルナさんは私を複雑そうな顔で見つめる。やっぱり気まずい。昨日の一件が尾を引いてる。


「昨日言ってた魔法。サラと作ってた。犬で実験したけど効果がよく分からない。被検体が悪いから支部長に言ってコボルト捕まえにいく。ハルナも行こ」


 昨日、この人、リカルドさんの前でハルナさんはチョロい、とかヘマはしない、とか言ってたけど、あれはなんだったのか。


 かなりアウトな発言だけど。


「え?いや、なんで私が行かないと行けないの?」


 ハルナさんは昨日の様な勢いがない。私とカリナを交互に見て滅茶苦茶困ってた。


「ハルナだけが頼り」


 さっきまでハルナのハの字も出てきてない。私と2人でギルドに突入する素振りすらあった。


「リカルドでも誘いなさいよ」


 不貞腐れたようにカリナさんから視線を外すハルナさん。どうしよ。ちょっと可愛い。


「そう……分かった。迷惑だったね。ごめん」


 何このしおらしい生き物。凄い。カリナさんが初めて人間に……いや、止めておこう。


 そんなカリナさんの演技を真に受けたハルナさんがあたふたとしだす。


「え?いや、別に迷惑とかじゃ」


 騙されないで!


「ん、大丈夫。サラと2人で行ってくる。リカルド今日どこいるか分からないし。本当ごめん」


 ガラス細工のような瞳に溜まる揺らめく輝きはなんだ?魔法で水でも出してるんだろうきっと。


 リカルドさんは絶対ギルドでお酒飲んでると思う。高確率でレオンも一緒だと思う。


「いや、だから謝って欲しいんじゃなくて……もう!分かったわよ!一緒に行く!」


 ハルナさんは史上類を見ないチョロさだった。


 カリナさんがヘマをしてないんじゃない。ハルナさんが好い人なだけだ。


 リカルドさんは何故追い出されたのだろう。


「そのかわりコボルトを捕まえるとかはちょっと……もう少しなんかこう」


 やっぱ引っかかりますよね!最近カリナさんと居ることが増えて色々麻痺して来たからホッとする。


 こうして、私、カリナさん、ハルナさんの3人はドルガン支部長に会うべく、ギルドへ向う事になったのだった。

なんか、いつの間にかハルナがチョロい姉御になりました。

僕の手を離れた瞬間です。

話が動かし難くなりますね。

この先の展開を整理しないといけません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ