14話 リカルドの逃避行
リカルドもカリナも正常に作動してます。おかしくなったわけではありません。
リンダに新人の教導降りるの止めます宣言をした俺。なにこの気持ち。なんか凄く恥ずかしい。俺はビッグになるって村を飛び出したけど、結局戻ってきたみたいな恥ずかしさだ。消えたい。
リンダはリンダで淡々と処理しないで欲しい。いつもみたいに弄ってくれ。後生だからお願いします。
そんな俺の願い虚しく。随分とあっさりと受け入れられた俺の辞めるの止めます宣言。
羞恥で心に少なくないダメージを負った俺は現在レオン、サラ、カリナを含めた四人でギルドの酒場の席に腰掛けていた。
「リカルドさん。何飲んでるんです?」
サラが、カップの中身を煽る俺をジト目で見やりながらいう。
「人生の麻酔薬だ。心の痛みを和らげてくれる」
「それ、お酒ですよね。リカルドさんが打ち合わせするって言い出したんじゃないですか」
「大丈夫、もうちょっと飲めば麻酔が効いてくるから。痛くなくなるから」
お願い。そっとしておいて。
「もう、3杯目なんですけど……」
なら問題ない。
「酔えば酔うほど賢くなる。それが酒だ」
「気が大きくなってるだけです」
なんだその目は。潰しの利かないおじさんが若者の無茶に付き合うんだぞ。もっと優しくしてくれてもよくない?
ダメだ。その思考は最高に格好悪い。
「お前らはこんな大人になるなよ」
俺だってもっと格好よく生きたいんだ。マリーちゃんにチヤホヤされたいんだ。
サラは溜息を吐くと表情を改めて言った。
「……リカルドさん、先程は有り難うございます。その、心強かったです」
止めて!蒸し返さないで!恥ずかしい。
もう知らない!からのあのムーブだ。ただひたすらに恥ずかしい。
羞恥から逃れるように人生の麻酔を一息に経口摂取すると、都合4杯目の麻酔を注文した。
そんな俺を見たサラのキリッとした表情が崩れた。
「素直に尊敬させて下さいよ……」
「嫌だ!尊敬される大人を演じるなんて面倒臭い!」
あんなの演じたらその後は地獄じゃないか。1週間で引きこもる自信がある。
「俺、さっきの師匠を見て思いました!一生ついて生きます!」
脈絡のないレオンのストーカー宣言。ついてこられても困る。
「早く一人前になって巣立ってくれヒヨッコ」
「はい!一人前になってついて行きます」
そう言う問題ではない。自立しろ。
「レオン。あまりリカルドさんから変な事影響受けないように気を付けてね」
サラ、俺を一体なんだと思ってるんだ。レオンを夜のお店に連れてこうとした事、まだ根に持ってやがるな。
「大丈夫!師匠がダメな大人なのはよく知ってる」
レオンはその認識で俺についてこれるのか?無理しないほうが身のためだぞ。ついてくんな。
サラとレオンからの視線から逃れるように麻酔を嗜む俺。
大丈夫、麻酔は適量だ。俺は体がでかいんだ、人より多く摂取する必要がある。
「リカルド。サラを少し借りたい」
空気を読まず、カリナがいきなり本題に入る。
多分、早く帰って魔法の構文とやらを作りたいんだろうな。
「ああ、連れてけ。ちゃんと体は洗えよ」
一度集中すると、体を洗うことすら面倒くさがる女に言う。
「ん、善処する」
ダメかもしれない。
「……え?善処?」
俺とカリナのやり取りにサラが信じられないものをみるような目を向ける。
「ん、少しくらいなら大丈夫。清潔にしすぎると免疫が落ちる。香水かければ分からない。問題ない」
もう、体を洗わない前提で話す女である。
「免疫力と女子力がトレードオフみたいに言わないでください」
最近、リンダとカリナとハルナのハイブリッドみたいになってきたサラが言う。
精神的なキメラだ。どうやって合体した。
「女子力?どんな力なの?高いとどういった作用がある?免疫力を犠牲にする価値はある?」
なんで頭良いのに言葉知らないのこいつ。
「カリナさん……」
サラが痛ましげにカリナを見つめる。諦めろ。カリナはそう言う女だ。帰られる前に今後の事を話したい。
「魔法は4日で形になるんだったか?」
「多分。動作テストが必要だけど」
カリナが言う。
「動作テスト?」
「実際に魔物に使って試す」
「……どうやって?」
「ゴブリンを拉致して拘束して魔法をかけるのが手っ取り早い」
流石倫理観を投げ捨てた女。面構えと言うことが違う。
「……これからコンタクトを取ろうって奴らを拉致すると交渉が困難になると思うんだが」
「ーーコラテラルダメージ」
魔法の発展に犠牲は付きものらしい。
「師匠、この人大丈夫なんですか」
レオンがドン引きしてる。なんかこのメンツだとレオンが浮いて見えるな。
「安心しろレオン、頭の作りは一級品だ。道徳感も一応まともだ。倫理観は投げ捨ててる」
問題ない。
「……大丈夫じゃないじゃないですか」
突っ込むレオンとは対象的に、サラは涼しい顔である。
「カリナさん、体はちゃんと洗いましょうよ」
どうやら、数あるカリナのアウト発言の中で一番許せないのが体を洗い忘れる事らしい。
こいつも仕上がってきたな。流石カリナの教え子だ。倫理観を手放す日も近いだろう。
「カリナ、ハルナに怒られてないか?」
俺がいた時、ヘイトは俺に向いてただろう。そして俺なき今、こいつパーティー内で悪目立ちしてる気がするんだが、大丈夫?
「そんなヘマはしない。後、ハルナはチョロいから問題ない」
一応、自分がヤバい自覚はお持ちらしい。安心した。
そして、こいつにチョロいと言われるハルナが心配である。変な男に騙されないだろうか。夜の店に繰り出した時、会わないことを祈ろう。
もしそうなったら地獄だ。流石に俺も掛ける言葉がないぞ。
結局、ゴブリンを拉致するのは余りにもあれだと言う結論に達した俺達は、集落から離れて狩りなどに向うゴブリンとコンタクトを取ることで話がついた。当然、退路は断つ。
ハルナ達もいるのだ。人手は足りる。拉致と変わらない?細かい事言うなよ。冒険者なんてこんなもんだ。
「なぁ、翻訳の魔法ってどんなもんなんだ」
ちょっとした興味本位で聞いたのがマズかった。
「魔物言語の翻訳魔法。名前はまだない。仕組みは簡単。世界に翻訳をお願いするだけ。ただ工程が多い。サラの工程は――
・詠唱開始を宣言する
・魔物の言葉は人間の言葉に、人間の言葉は魔物の言葉にしろ
・対象に伝達しろ
・レスポンスを受け取れ
・受け取った返事が魔物語なら人間の言葉に、人間の言葉なら魔物の言葉に変換しろ
・それを対象に届けろ
・処理をループしろ
・詠唱終了を宣言する
……からなる。ただもう少し細分化と整理をした方がいい。余計な処理もある。さらに言うなら……」
ビー玉のような瞳を爛々と輝かせ、息もつかず早口でまくし立てるカリナ。実に気持ちよさそうである。
何言ってるのか分からねえよ。詠唱の開始と終了の宣言理由とかどうでもいい。
パンドラの箱を開けてしまった。箱の底には希望があると信じたい。
まぁ、何とかなる。そう信じて俺は、都合5杯目の麻酔を注文するのだった。
麻酔は心に効く前に、体に効いてきたのはまた別の話である。
酒に逃げる大人の姿を背中の背中を見てサラとレオンは真っすぐ育って行くと信じたい作者です。




